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法的見解の表明・新・ゴーマニズム宣言事件ー最高裁平成16年7月15日判決

法的見解の表明・新・ゴーマニズム宣言事件ー最高裁平成16年7月15日判決・民集58巻5号1615頁

【判 旨】

ロス疑惑夕刊フジ事件・最高裁平成9年9月9日判決を引用した上で,)

「そして,上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値,善悪,優劣についての批評や論議などは,意見ないし論評の表明に属するというべきである。」

「上記の見地に立って検討するに,法的な見解の正当性それ自体は,証明の対象とはなり得ないものであり,法的な見解の表明が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項ということができないことは明らかであるから,法的な見解の表明は,事実を摘示するものではなく,意見ないし論評の表明の範ちゅうに属するものというべきである。また,前述のとおり,事実を摘示しての名誉毀損と意見ないし論評による名誉毀損とで不法行為責任の成否に関する要件を異にし,意見ないし論評については,その内容の正当性や合理性を特に問うことなく,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,名誉毀損の不法行為が成立しないものとされているのは,意見ないし論評を表明する自由が民主主義社会に不可欠な表現の自由の根幹を構成するものであることを考慮し,これを手厚く保障する趣旨によるものである。そして,裁判所が判決等により判断を示すことができる事項であるかどうかは,上記の判別に関係しないから,裁判所が具体的な紛争の解決のために当該法的な見解の正当性について公権的判断を示すことがあるからといって,そのことを理由に,法的な見解の表明が事実の摘示ないしそれに類するものに当たると解することはできない。
 したがって,一般的に,法的な見解の表明には,その前提として,上記特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと解されるため事実の摘示を含むものというべき場合があることは否定し得ないが,法的な見解の表明それ自体は,それが判決等により裁判所が判断を示すことができる事項に係るものであっても,そのことを理由に事実を摘示するものとはいえず,意見ないし論評の表明に当たるものというべきである。」

【コメント】

(1)事実と意見の区別,法律上の見解

事実と・意見・論評との区別は,ロス疑惑夕刊フジ事件・最高裁平成9年9月9日判決が「証拠等を以てその存否を決することが可能」かどうかという基準を立てていました。

ロス疑惑夕刊フジ事件・最高裁平成9年9月9日判決

ところで,裁判所は証拠に基づいて事実を認定し,法律的な結論を出します。では,例えば「著作権を侵害している」というような法律的な見解は,「証拠等を以てその存否を決することが可能」な事実かどうか?という点が本件では問われました。

本判決は,事実ではなく,「意見ないし論評」に当たるとしました。

なんだか,民訴法でいうところの「法律上の主張レベル」と「事実の主張レベル」は違うんだ,という話と似てますね。刑法の「事実の錯誤」と「違法性の錯誤」問題とも似ています。

(2)「特定事項の主張」の「明示的又は黙示的に主張」

「一般的に,法的な見解の表明には,その前提として,上記特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと解されるため事実の摘示を含むものというべき場合があることは否定し得ないが,」・・・という個所は,

ロス疑惑朝日新聞事件・最高裁平成10年1月30日判決にいうところの,推論による特定の事実の主張のことでしょう。

推論記事による事実摘示ーロス疑惑朝日新聞事件・最高裁平成10年1月30日判決

一見すると法律上の見解を述べているのだけれど,文脈からして特定の事実を黙示に主張していると(一般読者が)読める,ということはありうるのでしょう。このときは,事実の摘示型の検討になります。

(3)不競法上は「事実」だけど,名誉毀損に関しては「事実」でない??

最近出た「メディア判例百選(第2版)」の解説(同書75頁)にも指摘があるのですが,不競法との関係で難しい問題を孕んでいます。

「知的財産権を侵害しています!」という警告は,不競法上「事実」の告知に当たります。が,本判決によれば名誉毀損との関係では「事実」ではないのです。

適用場面が異なるので,直ちに矛盾するわけではないのですが,気持ち悪いことは気持ち悪いですね。

(4)その他

ちなみに,本判決(新・ゴーマニズム宣言事件)は,著作権の勉強をしていると,同一性保持権のところで出てくる「脱・ゴーマニズム宣言事件」の後日談になる事件です。

ときめきメモリアル事件 最高裁平成13年2月13日

ときめきメモリアル事件 最高裁平成13年2月13日

(1)事案の概要

 X(KONAMI)のゲームソフト「ときめきメモリアル」は、プレイヤーが架空の高等学校の生徒となって、卒業式の当日、あこがれの女生徒から愛の告白を受けることを目指し、3年間の勉学や行事等を通してこれにふさわしい能力を備えるための努力を積み重ねるという内容の恋愛シミュレーションゲームである。Yは、そのハッピーエンドを簡単に実現できるパラメータのデータを記録したメモリーカードを輸入、販売した。そこでXは同一性保持権に基づいて損害賠償を請求した。

(2)判決要旨

「本件メモリーカードの使用は,本件ゲームソフトを改変し,被上告人の有する同一性保持権を侵害するものと解するのが相当である。けだし,本件ゲームソフトにおけるパラメータは,それによって主人公の人物像を表現するものであり,その変化に応じてストーリーが展開されるものであるところ,本件メモリーカードの使用によって,本件ゲームソフトにおいて設定されたパラメータによって表現される主人公の人物像が改変されるとともに,その結果,本件ゲームソフトのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され,ストーリーの改変をもたらすことになるからである。」
「専ら本件ゲームソフトの改変のみを目的とする本件メモリーカードを輸入,販売し,他人の使用を意図して流通に置いたYは,他人の使用による本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして,Xに対し,不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解するのが相当である。」

(3)コメント

ア はじめに

 司法試験の題材にもなった超有名判例です。著作権法の古典ともいうべき事件ですが,最近読んでも興味深い点が多いですね。

 パラメータをいじる改造メモリーカード,昔売っていましたよね。懐かしいです笑。ゲームのメーカーが改造メモリーカードの輸入・販売業者を訴えた,という構造の事件です。

 さて,改造メモリーカードを使ったところで,ゲームソフトのプログラム自体を書き換えているわけではありません。

 本判決の一審によれば,この事件で問題になっている「ときめきメモリアル」は当時のプレイステーション版です。プレイステーションのゲームソフトはCD-ROMですから,メモリーカードは単にセーブデータを保存しているだけで,CD-ROMは書き換えないですね。

 本判決は「ときめきメモリアル」のストーリーに着目して,改造メモリーカードを使うと「その結果,本件ゲームソフトのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され,ストーリーの改変をもたらすことになる」ことから,同一性保持権の侵害を認めました。

イ ゲームソフトが映画の著作物になること

 パックマン事件以来,たいていのゲームソフトは著作権法のいうところの,「映画の著作物」(著作権法2条3項)に当たる,ということになっています。

パックマン事件・東京地裁昭和59年9月28日判決

ウ 侵害主体

 この事件,改造メモリーカードを使って「ときめきメモリアル」のストーリーを書き換えているのは,ゲームのプレイヤーであり,販売業者はその道具(改造メモリーカード)を提供している(幇助している)に過ぎない,と見るのが素直だと思います(私は学生の頃そのように教わりました)※。民法719条2項により損害賠償を認めた,という見方です。

 そうすると,最近出たヤフオク!クラック版ソフト事件との関係が気になるところです。同事件でも改変行為自体はユーザーがやっていると見えるのですが,東京地裁は,業者の方を著作権の侵害主体と見ました。

 要するに,ユーザーと業者,どちらが著作権を侵害しているか,主要な行為をしているか,利益を得ているか,等を規範的に判断するということでしょう。

ヤフオク!クラック版ソフト事件・東京地裁平成30年1月30日判決

エ 中立的行為による幇助??

 また,道具の提供にすぎないとすると,同じように道具を提供しておきながら幇助者としての責任を問われなかったWinny事件との関係がおもしろいです。

 Winny事件で問題になったWinnyというP2Pソフトは,著作権侵害にも,適法な通信にも利用できるソフトでした。ちょうど,包丁を使った殺人事件において,犯人に包丁を売った人が罪に問われないのと同じです(中立的行為による幇助といいます。)。

 これに対し,改造メモリーカードは,著作権侵害にしか使えない,悪質なものだ,という評価が可能でしょう。

Winny事件・最高裁平成23年12月19日判決

脱獄iPhone刑事事件・千葉地裁平成29年5月1日判決

※なお,判決は侵害主体がだれか,はっきりとは言っておらず,違う読み方をする学説もあります。