著作権

物のパブリシティ権否定ーギャロップレーサー事件・最高裁平成16年2月13日判決

最高裁平成16年2月13日判決・民集58巻2号311頁

【事案の概要】
 本件は,本件各競走馬を所有し,又は所有していたXらが,本件各競走馬の名称等が有する顧客吸引力などの経済的価値を独占的に支配する財産的権利(いわゆる物のパブリシティ権)を有することを理由として,Yに対し,YがXらの承諾を得ないで本件各ゲームソフトに本件各競走馬の名称等を使用したことにより上記財産的権利を侵害したと主張して,本件各ゲームソフトの製作,販売,貸渡し等の差止め及び不法行為による損害賠償を請求する事案である。

【判 旨】
「…競走馬の名称等が有する顧客吸引力などの競走馬の無体物としての面における経済的価値を利用したとしても,その利用行為は,競走馬の所有権を侵害するものではないと解すべきである(最高裁昭和…59年1月20日第二小法廷判決・民集38巻1号1頁参照)。本件においては,前記事実関係によれば,Yは,本件各ゲームソフトを製作,販売したにとどまり,本件各競走馬の有体物としての面に対するXらの所有権に基づく排他的支配権能を侵したものではないことは明らかであるから,Yの上記製作,販売行為は,Xらの本件各競走馬に対する所有権を侵害するものではないというべきである。」
「現行法上,物の名称の使用など,物の無体物としての面の利用に関しては,商標法,著作権法,不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を付与し,その権利の保護を図っているが,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権の及ぶ範囲,限界を明確にしている。
 上記各法律の趣旨,目的にかんがみると,競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても,物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき,法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく,また,競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為に成否については,違法とされる行為の範囲,態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において,これを肯定することはできないものというべきである。したがって,本件において,差止め又は不法行為の成立を肯定することはできない。」
「なお,原判決が説示するような競走馬の名称等の使用料の支払を内容とする契約が締結された実例があるとしても,それらの契約締結は,紛争をあらかじめ回避して円滑に事業を遂行するためなど,様々な目的で行われることがあり得るのであり,上記のような契約締結の実例があることを理由として,競走馬の所有者が競走馬の名称等が有する経済的価値を独占的に利用することができることを承認する社会的慣習又は慣習法が存在するとまでいうことはできない。」

【コメント】

 動物という「物」には,いわゆるパブリシティ権が認められないことを判示した有名な判決です。その意味で,仏像という物の情報について宗教的人格権を認定した徳島地裁判決(の代理人)はセンスがいいなと思います。

秘仏写真事件・徳島地裁平成30年6月20日判決

 憲法的にいっても,本判決は納得のいくものです。パブリシティ権は対象物の経済的価値を把握する権利です。憲法の世界では純然たる財産権です。

 「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める」(憲法29条2項)わけですから,「商標法,著作権法,不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律」がない場面で,財産権を裁判所が勝手に創設するわけにはいかないのです。

⇒ピンクレディー事件・最高裁平成24年2月2日判決

イラスト転載事件・東京地裁平成30年9月13日判決

東京地裁平成30年9月13日判決・裁判所Web

【事案の概要】
 Xは,「A」という筆名によって,イラストレーターとして活動している者である。Yは「ニュースちゃんねる」と題するウェブサイト(以下「本件サイト」という。)の運営に関与する者である。本件サイトは,主に他のウェブサイトに掲載されている文章や画像を転載するというものである。
本件は,Xが,Yに対し,Xが著作権を有するイラスト3点をYがその運営する本件サイトに掲載した行為は上記各イラストについてのXの送信可能化権(著作権法23条1項)を侵害するものであると主張して,不法行為に基づき,損害賠償金等の支払を求める事案である。30万円認容。

【判 旨】
「…Yは形式的にも実質的にも本件サイトの運営において重要な役割を担っていたというべきであるから,少なくとも,本件記事の投稿等について共同不法行為に基づく法的責任を負う立場にあったものと認められる。」
「…Yは,Xが著作権を有する本件各イラストの本件サイトへの掲載によって本件各イラストに係るXの送信可能化権(著作権法23条1項)を侵害し,また,…少なくとも上記侵害についてのYの過失が認められるから,Xは,Yに対し,送信可能化権侵害の不法行為に基づき著作権法114条3項により本件各イラストの著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の損害賠償金の支払を求めることができる。
…本件各イラストは,一つのテーマをめぐる複数の個別のイラストからなり,他人を笑わせる要素も含まれているもので,カラーで描かれた漫画に準じる部分があるとも理解できることや,漫画をウェブサイトに掲載するに当たっては一定の掲載期間を前提とした使用料が定められていることなどの事情を総合的に勘案すれば,Xが本件各イラストの使用に対し受けるべき金額は,イラスト1点につき1年当たり3万円とするのが相当である。
 そして,…本件各イラストは平成26年8月3日から平成29年6月8日まで本件サイトに無断で転載されていた事実が認められることから,Xが本件各イラストの使用に対し受けるべき金額は合計27万円(イラスト1点につき1年当たりの使用料3万円×イラスト3点×掲載期間3年分)となる。また,本件における弁護士費用相当額としては3万円もって相当と認める。」

【コメント】
 画像検索等で適当に探してきた画像を利用することがあるかもしれません。私的使用(著作権法30条1項)の範囲といえる限度であれば問題ありませんが,無許諾で,例えばプレゼンの資料に使ったり,SNS上で拡散したりすると,簡単に著作権侵害になってしまいます。
本件は,結論だけ見れば30万円という額の賠償です。しかし,インターネットにおける著作権のリテラシーを高く持っておかないと,訴訟のリスクがあることを警鐘する裁判例といえるでしょう。

顧客名簿の秘密管理性ー印刷顧客名簿事件・東京地裁平成24年6月11日判決

顧客名簿の秘密管理性ー印刷顧客名簿事件・東京地裁平成24年6月11日判決・判タ1404号323頁

【判 旨】

「本件顧客情報のうち,顧客の氏名,電話番号等の連絡先に係る部分については,被告A等の営業担当者が営業活動を行い,取得して事業主体者たる原告に提供することにより,原告が保有し蓄積することとなる性質のものであって,営業担当者が複数回にわたり営業活動を行うことなどにより,当該営業担当者と顧客との個人的信頼関係が構築され,または個人的な親交が生じるなどした結果,当該営業担当者の記憶に残るなどして,当該営業担当者個人に帰属することとなる情報と重複する部分があるものということができる。そうすると,このような,個人に帰属する部分(個人の記憶や,連絡先の個人的な手控えとして残る部分)を含めた顧客情報が,退職後に当該営業担当者において自由な使用が許されなくなる営業秘密として,上記就業規則所定の秘密保持義務の対象となるというためには,事業主体者が保有し蓄積するに至った情報全体が営業秘密として管理されているのみでは足りず,当該情報が,上記のような個人に帰属するとみることのできる部分(個人の記憶や手控えとして残る部分)も含めて開示等が禁止される営業秘密であることが,当該従業員らにとって明確に認識することができるような形で管理されている必要があるものと解するのが相当である。」
「…そこで,原告における顧客情報の管理についてみると,原告は,…就業規則において,取引会社の情報に関する漏えいの禁止,取引先,顧客等の個人情報の正当な理由のない開示・利用目的を超えた取扱い・漏えい等の禁止を定め,上記就業規則の遵守に関する誓約書を,被告Aらを含めた従業員から提出させていたことが認められる。しかし,他方で,本件顧客情報の記載された本件顧客名簿については,原告事務室内の経理担当者の机に常時備え置いており,本件顧客データの保存されたコンピュータについても,パスワードの設定等はしていなかったというのであって(原告代表者,被告A,被告C),本件顧客名簿を原告従業員が閲覧,複写したり,本件顧客データに原告従業員がアクセスしたりすることが禁止されるなどしていたことはうかがわれない。また,営業を担当していた被告Aにおいても,顧客の連絡先等の情報を手元に残さないよう指導を受けていた事実などをうかがうことはできず,同被告が原告を退職するに当たり,原告が,被告Aに対し,顧客の連絡先等の手控えの有無を確認し,その廃棄を求めたり,従前の営業先に接触しないよう求めたりした事実も認められない。
「…そうすると,原告における顧客情報の管理体制は,顧客の連絡先の手控え等までもが,雇用契約上開示等を禁じられるべき営業秘密に当たることを当該従業員らに明確に認識させるために十分なものであったとはいえず,本件顧客情報のうち,個人の記憶や連絡先の個人的な手控えなどに係る情報については,雇用契約上,開示等を禁じられる営業秘密に当たるとみることはできず,営業担当者が,これをその退職後に利用することがあったとしても,原告との間の雇用契約上の義務に反し,または,不法行為を構成するものではないというべきである。」

【コメント】

営業秘密3要件の内,最もよく問題になるのが秘密管理性です。

本件では特に顧客名簿の秘密管理性が問題になりました(本当は論点が多岐にわたり,一部認容されている判決ではあります)。

顧客名簿とひとことで言っても,業種や顧客の属性によっていろいろなものがあるでしょう。本件で問題になったのは,営業担当者がいわば足で集めた顧客情報です。これは会社のか当該担当者個人のものか,区分が難しいですね。

判決は「(個人の記憶や手控えとして残る部分)も含めて開示等が禁止される営業秘密であることが,当該従業員らにとって明確に認識することができるような形で管理されている必要がある」としました。

オンラインストレージの公開設定の「公然」性・大阪高裁平成29年6月30日判決

大阪高裁平成29年6月30日判決・判時2386号109頁

※わいせつ電磁的記録媒体陳列,リベンジポルノ刑事事件

(1)事案の概要

 原審以来,被告人の行為について,元交際相手である被害者に対する強要未遂罪が成立することに争いはない。

 さらに,被告人は,被害者の露出した胸部等の画像・動画のデータ(以下「本件データ」)を,自身のオンラインストレージに保存していたところ,これを公開設定にしたうえで,被害者に対して公開先のURLを送信した。この行為が,わいせつ電磁的記録媒体陳列罪,いわゆるリベンジポルノ等に当たるとして起訴された。

 争点は,本件データが,わいせつ電磁的記録媒体陳列罪及びリベンジポルノにおける「公然と陳列した」に当たるか否かである。原審はこれを肯定したが,本判決は否定した(同罪について逆転無罪)。

(2)判旨

「ところで,前記の○○サービスやその公開機能の仕組み等…によれば,a社ユーザーが,○○サービスに保存したデータをマイ○○内で公開設定した時点では,そのユーザーに公開URLが発行されるにすぎないから,公開設定されたデータを第三者が閲覧し得る状態にするには,公開設定に加え,公開URLを添付した電子メールを送信するなどしてこれを外部に明らかにするというa社ユーザーによる別の行為が必要となる(○○サービスに不正に侵入し,公開設定されたデータの公開URLを入手することは不可能ではないとしても,これは一般の者が容易に行えるものではない。)。そして,a社ユーザーが,公開URLを電子メールに添えて不特定多数の者に一斉送信したり,SNS上や自己が管理するホームページ上でこれを明らかにしたりすれば,その公開URLにアクセスした者が公開されたデータを閲覧することは容易な状態となるから,当該データの内容がわいせつな画像等に当たる場合には,これを「公然と陳列した」ものとして,わいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪等が成立すると考えられる。
 これに対し,本件では,被告人は,本件データを公開設定したが,その公開URLを電子メールに添えて送信した相手は被害者のみであり…,記録上,被害者以外の者に同URLを明らかにした事実はうかがわれない。そうすると,被告人が○○サービス内に記憶蔵置させた本件データを公開設定した時点では,その公開URLが発行されたにすぎないから,いまだ第三者が同URLを認識することができる状態になかったし,被告人が同URLを明らかにした相手は被害者のみであったため,ここでも第三者が同URLを認識し得る状態にはなかったというべきである。
 したがって,本件の場合,被告人が○○サービス内に記憶蔵置させ,本件データを公開設定したのみでは,いまだ同データの内容を不特定又は多数の者が認識することができる状態に置いたとは認められず同データの公開URLを電子メールに添付して被害者宛に送信した点についても,特定の個人に対するものにすぎないから,これをもって同データの内容を不特定又は多数の者が認識し得る状態に置いたと認めることもできない。結局,被告人は,本件データの内容を不特定又は多数の者が認識することができる状態に置いたとは認められないから,刑法175条1項前段及び画像被害防止法3条2項各所定の公然陳列罪は成立しないというべきである。」
「なお,いわゆるパソコンネットのホストコンピュータのハードディスクにわいせつな画像を記憶蔵置させる行為とわいせつ物の公然陳列に関する最高裁判所第三小法廷平成13年7月16日決定(刑集55巻5号317頁)の事案では,当該被告人の行為は,自ら開設,運営していたパソコンネットのホストコンピュータのハードディスクにわいせつ画像のデータを記憶蔵置させたことで完了しており,後は,不特定多数の会員が,自己のコンピュータを操作し,電話回線を通じて当該被告人のホストコンピュータのハードディスクにアクセスすれば,同データをダウンロードすることができる状態にあったというものである。また,児童ポルノのURLをホームページ上に明らかにした行為に関する最高裁判所第三小法廷平成24年7月9日決定(裁判集刑事308号53頁)は,当該被告人が,インターネット上にホームページを開設し,これを管理運営していた共犯者と,不特定多数のインターネット利用者に児童ポルノ画像の閲覧が可能な状態を設定しようと企て,共謀の上,第三者が開設していたインターネットの掲示板に児童ポルノ画像を記憶蔵置させていたことを利用し,その所在を特定するURLを一部改変して前記ホームページ上に掲載したという事案に関するもので,当該被告人が行ったのは改変URLのホームページ上への掲載であり,児童ポルノ画像は既に第三者が開設する掲示板に記憶蔵置されていたというものである。
 これらに対し,本件は,不特定多数の者が本件データを認識し得る状況になかった点で事実関係を異にするものであり,前記平成13年最高裁決定が示した「(刑法175)条が定めるわいせつ物を『公然と陳列した』とは,その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい,その物のわいせつな内容を特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも要しないものと解される」との判断を踏まえても,公然性は否定されると解するのが相当である。」

(3)コメント

 本判決は,わいせつ物公然陳列罪やリベンジポルノにおける「公然と陳列した」について,とりわけオンラインストレージの公開設定との関係で実務上意義があります。

 わいせつ物公然陳列罪における「公然と陳列した」については,本判決も引用する最高裁平成13年7月13日判決・刑集55巻5号317頁が判示しており,「その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くこと」に当たるかどうかが問われます。

 

 本判決はわいせつ物に関する刑事事件ですが,公然性を要件とする法律はたくさんあり,オンラインストレージの公開設定がこれを満たさないとした点については,他の法律の適用についても大変参考になります。少し乱暴ですが,インターネット上における「公然」って,いったいどこからでしょう??という問題の1つの答えです。

 例えば,民事のインターネット事件でよく使うプロバイダ責任制限法は「特定電気通信」,つまり不特定多数者に対するをインターネット通信を対象としています。要するに,知らない人から掲示板やSNSで誹謗中傷を受けた場合,同法で住所氏名の開示請求ができますが,個人のメールで誹謗中傷を受けたとしても開示請求ができません

 本判決を(多少乱暴に)応用すると,知らない人にオンラインストレージで侮辱的な文書を公開設定にされても,これを開示請求することは難しいでしょう。

 インターネット上の著作権侵害でよく使われる「公衆送信権」でも,同様のことがいえるでしょう。

マリカー事件・東京地裁平成30年9月27日判決

東京地裁平成30年9月27日判決

(1)事案の概要

 任天堂株式会社(以下「X社」といいます。)は,「平成4年8月27日,ゲーム機種スーパーファミコン用のゲームソフトとして「スーパーマリオカート」を発売し,平成26年5月29日までの間に,合計8本の「マリオカート」シリーズのゲームソフトを販売した。」Y社[1]は,「設立時である平成27年6月4日から,少なくとも平成28年6月23日まで間,MariCAR」との屋号を用いて,公道を走行することが可能なカート…のレンタルとそれに付随する事業…を営んでいた。」Y社はレンタル事業に関するチラシに「『マリカーは,普通免許で運転できる一人乗りの公道カートのレンタル&ツアーサービスです。』」等と記載した。また,「『マリオ』,『ルイージ』,『ヨッシー』,『クッパ』等のコスチュームを着用した従業員が公道カートに乗車して利用者を先導することより,ガイドを勤めていた」り,店舗内入り口付近に「身長120㎝ほどの『マリオ』の人形」が設置されたりした。

 X社はY社に対し,不正競争防止法及び著作権侵害に基づき,差止めと損害賠償を請求した。差止の一部と損害賠償の全額(1000万円)を認容。

(2)判決要旨

「『マリカー』は,①ゲームソフト『マリオカート』の略称として,遅くとも平成8年頃には,ゲーム雑誌において使用されていて…,②少なくとも平成22年頃には,ゲームとは関係性の薄い漫画作品においても何らの注釈を付することなく使用されることがあったこと…,③Y社が設立される前日である平成27年6月3日には,その一日をとってみても,『マリオカート』を『マリカー』との略称で表現するツイートが600以上投稿されたこと…が認められる。また,Y社の設立後においても,テレビ番組においてタレントが,子供の頃から原告のゲームシリーズである『マリオカート』の略称として『マリカー』を使用していたと発言し…,本件訴訟提起に係る報道が出された後には,複数の一般人から,Y社の社名である『マリカー』が原告のゲームシリーズ『マリオカート』を意味するにもかかわらず,Y社が原告から許可を得ていなかったことに驚く内容の投稿がされた事実が認められる…。」

「これらの事実からすると,…マリカーは,広く知られていたゲームシリーズである『マリオカート』を意味する原告の商品等表示として,…遅くとも平成22年頃には,日本全国のゲームに関心を有する者の間で,広く知られていたということができる。」

Y社は,『マリカー』の標準文字からなる本件商標を有しており,『マリカー』という標章を使用する正当な権限を有するから,不競法3条1項に基づく差止請求は認められない旨主張する。しかしながら,Y社が本件商標の登録を出願したのは平成27年5月13日であるところ…その5年程度前である平成22年頃には,既に原告文字表示マリカーは原告の商品を識別するものとして需要者の間に広く知られていたということができる。…原告に対して,Y社が本件商標に係る権利を有すると主張することは権利の濫用として許されないというべきである。」

(3)解説と考察

判決文中にもあるように,「マリカー」はY社の商標として商標登録されており,任天堂は商標登録を阻止できませんでした[2]しかし,Y社が「マリカー」を使用してカートのレンタル事業を営む一定の行為は,不正競争防止法により阻止されました。その意味するところは,商標法と不正競争防止法とは法律の目的が絶妙に異なり,適用範囲も絶妙に違う,ということです。これが本判決の到達点です。

 フランク三浦の商標登録を阻止できなかったフランクミュラーは,不正競争防止法で「フランク三浦」の時計販売を差止められるかもしれません。

フランク三浦事件知財高裁判決・知財高裁平成28年4月12日判決

[1] 「平成27年6月4日の設立時から平成30年3月21日まで,「株式会社マリカー」との商号を用いていたが,同月22日付けで,その商号を「株式会社MARIモビリティ開発」に変更した」

[2] 特許庁・異議2016-900309

ポイント解説!「AI・データ利用に関する契約ガイドライン」

1 はじめにーこのガイドラインを読んでおくべき人

 先日,経済産業省が「AI・データ利用に関する契約ガイドライン」を発表しました。後記のように,「データ編」と「AI編」からなる大作のガイドラインなのですが,

 まずはじめに申し上げたいことは,次の項目に心当たりのある方は,本ガイドラインを是非チェックしておいていただきたい,ということです。

 ご入用であればセミナーを実施いたしますので,お気軽にお問合せください。

IT企業の経営者,法務担当者,技術者の方→「データ編」「AI編」の両方

IT企業にシステム開発等を依頼する方→「データ編」

・秘密保持契約のひな型を探している方→「AI編」の秘密保持契約の箇所

 

2 全体の構成と特徴

 本ガイドラインは,「データ編」と「AI編」の2部構成からなり,それぞれに契約書のひな型がついてます。

 「データ編」では,データの取引を伴う契約を①データ提供型,②データ創出型,③データ共用型の3類型に分け,理解に必要な知識と契約書の文例を紹介しています。

 「AI編」ではAI理解のための基本的な知識を解説した上で,AIを用いた開発の序盤~終盤まで,開発の各段階に応じた契約書を提唱しています。

 実務的に非常に使えるところとしては,「データ編」,「AI編」ともに契約書のひな型を提示してくれている点です。当たり前ですが,非常にできのいいものになっております。

 公正取引委員会のチェックも受けているようで,このひな型にそったかたちで契約をすれば,独占禁止法上の問題も回避できるという優れものです。

 

3 蛇足ーこのガイドラインの来歴と雑感

 巷では「第四次産業革命」と呼ばれる,IT業界を中心とした,AIをはじめとする技術革新が起こっています。日経新聞を読んでいても,「AI」の文字を見ない日はないくらいですね。

 政府も対応を急いでおり,昨年は内閣府の中にある「新たな情報財検討委員会」が報告書を出しました。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2017/johozai/houkokusho.pdf

 この報告書の中に,不正競争防止法の改正とともに,AI関係のガイドラインを出す,ということが盛り込まれています。

 この報告を受けて,今年出されたのが本ガイドラインです。IT系の弁護士としては,「待ってました!」という感じです。

 ざっと読んでみて,技術革新の起きているこの分野で法律相談を受けるには,

・知的財産法

・プライバシー,個人情報

のみならず,

・独占禁止法

・ITの知識

等,いろいろと複合的な知識が必要になってくるな,と痛感しています。

この機会をあらたなチャンスととらえて,私も精進してく次第です。

神獄のヴァルハラゲート・文書提出命令事件・知財高裁平成28年8月8日判決

神獄のヴァルハラゲート・文書提出命令事件 知財高裁平成28年8月8日判決

【事案の概要】
控訴審において,XがY社に対して,コミュニケーションツールであるチャットワークのチャットログの文書提出命令を申し立てた。

【判決要旨】

民訴法220条4号ニのいわゆる自己専利用文書についての一般論として,最高裁平成11年11月12日決定・民集53巻8号1787頁を引用したうえで,次のように判示した。

「Y社が,本件ゲーム開発のためにコミュニケーションツールとして,導入したチャットワーク上でのやりとりが記載されたチャットログのうち,「企画」と名付けられた本件チャットグループに関するものであり,Y社代表者と社員及び本件ゲームの開発者は,本件チャットワーク上で意見交換及び指示連絡等をすることにより,本件ゲームの企画や内容等について協議をし,作業を進めて,本件ゲームを完成していったものである。そして,本件文書は,法令によってその作成が義務付けられたものでもなく,IDとパスワードにより管理されて外部からのアクセスが制限されていたものである。

したがって,本件文書は,専らY社内部の者(Y社代表者と社員及び本件ゲームの開発者)の利用に供する目的で作成され,それ以外の外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示されると,一般的には,Y社におけるゲーム開発の遂行が阻害され,また,Y社内部における自由な意見表明に支障を来しY社の自由な意思形成が阻害されるおそれがあるものとして,特段の事情のない限り,「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たると解すべきである。」

「そこで,本件文書について,前記の特段の事情があるかどうかについて検討すると,一件記録によれば,Xは,本件ゲームの開発者の一人であり,当時は,本件チャットグループに参加して,主要メンバーの一人として本件ゲームの企画や内容について自己の意見を述べ,指示連絡をし,また,他のメンバーの発言内容について自由にこれを閲覧し,本件ゲームを完成していったことが認められる。

上記認定事実によれば,本件文書に記載された内容は,本件チャットグループに参加していたX自身の発言内容であったり,Xには既に開示されていた他のメンバーの発言であり,X自身が参加していたチャットグループの記録である。そうすると,文書提出命令のXがその対象であるチャットグループの記録の利用関係において所持者であるY社と同一視することができる立場にあったことが認められる(最高裁平成12年12月14日決定・民集54巻9号2709頁参照)。

そして,本件においては,X及び同代理人弁護士は,Y社に対し,本件文書を本件訴訟の追行の目的のみに使用し,その他の目的には一切使用しないこと,本件文書の全部又は一部を第三者に開示,漏洩しないことを誓約する旨の誓約書(以下「本件誓約書」という。)を当裁判所に提出している。また,営業秘密記載文書については,その閲覧・謄写の制限の申立てがなされ,営業秘密等が記載された部分の閲覧等を請求することができる者を当事者に限るとの決定(民事訴訟法92条)がなされることが通常であることからすれば,本件文書の上記部分がX以外の外部の者に開示されるおそれはないということができる。

以上によれば,本件ゲーム開発の主要メンバーの一人であり,本件文書の内容を既に開示されていたXに対し,本件文書が開示されたとしても,これによりY社従業員のプライバシーが侵害されるおそれも,Y社の自由な意思形成が阻害されるおそれもなく,また,本件誓約書等により本件文書が本件訴訟の追行の目的のみに使用されるのであれば,本件文書の開示によってY社に看過し難い不利益が生ずるおそれはないと認められるから,本件文書につき,前記特段の事情があると認められる。」

【コメント】
文書提出命令事件,とりわけいわゆる自己専利用文書(民訴法220条4号ニ)については多数の判例が出ているところです。
本判決も引用している最高裁平成11年決定が一般論を示して以来,「特段の事情」の有無についていろいろなケースが問題になってきました。
本判決は,チャットワーク上のグループチャットについて,XがかつてY社の開発者の一員だったことや,誓約書の提出と記録の閲覧制限(民訴法92条)を踏まえて,「特段の事情」に該当する旨判断したものです。
判断手法含め,実務上参考になります。

神獄のヴァルハラゲート事件・東京地裁平成28年2月25日判決

神獄のヴァルハラゲート事件・東京地裁平成28年2月25日判決・判時2314号118頁

【事案の概要】

「本件は,「神獄のヴァルハラゲート」との名称のソーシャルアプリケーションゲーム(以下「本件ゲーム」という。)の開発に関与したXが,本件ゲームをインターネット上で配信するY社に対し,①主位的に,Xは本件ゲームの共同著作者の1人であって,同ゲームの著作権を共有するから,同ゲームから発生した収益の少なくとも6割に相当する金員の支払を受ける権利がある旨,②予備的に,仮にXが本件ゲームの共同著作者の1人でないとしても,原Y社間において報酬に関する合意があり,仮に同合意がないとしても,Xには商法512条に基づき報酬を受ける権利がある旨主張して,著作権に基づく収益金配分請求権(主位的請求)ないし報酬合意等による報酬請求権(予備的請求)に基づき,…Y社が本件ゲームにより得た利益の6割相当額とされる1億1294万1261円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。」
「 (3)  本件ゲーム開発の経緯
   ア Xは,平成24年7月までは,ソーシャルアプリケーション事業を業とする株式会社A(以下「A社」という。)に勤務しており,同じく同社に勤務していたB(現Y社代表者であり,以下「B」という。)をリーダーとするグループに所属し,携帯電話向けソーシャルアプリケーションゲームの開発を行っていた。
   イ Xは,当時,A社での待遇に不満を感じていたところ,Bも,近い将来,自身が同社を退職する可能性があることをXに伝えた。
   ウ Xは,同年7月末頃,A社を退職した。その後,Bを含むA社の従業員複数名が同社を退職し,Xとともに,本件ゲームの開発に関与するようになった。
   エ Bは,同年9月19日付けでY社を設立した。
 Xは,Y社の設立に当たって8万円を出資したほか,Y社に対し,500万円を貸し付けた。Xは,当初,Y社に雇用されないまま,本件ゲームの開発に関与していた。
   オ 本件ゲームは,同年12月中旬頃以降にほぼ完成し,ブラッシュアップ作業などを経て,平成25年1月25日,グリー株式会社がインターネット上で運営するソーシャルネットワーキングシステムにおいて,同社の会員向けに,Y社名義で配信された。
   (4)  Y社からXに支払われた金員
 Xは,前記のとおり,当初,Y社には雇用されないまま,本件ゲーム開発に関与し続け,同ゲームが完成した後である平成25年1月1日に,Y社の取締役に就任し,その後,同月から同年3月4日頃までY社の取締役として稼働し,その間,役員報酬として合計63万円を受領した…。」
 判決は,主位的請求を棄却した上で,予備的請求の一部(420万円)を認容した。

【判決要旨】

(1)職務著作
ア 「発意に基づく」要件
「…なお,Y社の設立日は平成24年9月19日であって,Xが本件ゲーム開発作業を始めた時期より後であるが,既に同年8月13日付けでY社の定款…が作成されており,Xも,当初から,後にY社が設立され,Y社において本件ゲーム開発が行われることを当然に認識していたものといえるから,Y社の形式的な設立時期にかかわらず,実質的には,Y社の発意に基づいて本件ゲーム開発が行われたといえるものであって,Y社の形式的な設立時期は上記結論に影響を及ぼすものではない。」
イ 職務上作成要件
「そこで検討するに,Xは,本件ゲーム開発期間中はY社に雇用されておらず,Y社の取締役の地位にもなかったが,Y社においてタイムカードで勤怠管理をされ,Y社のオフィス内でY社の備品を用い,Bの指示に基本的に従って本件ゲーム開発を行い,労務を提供するという実態にあったものである。
 ところで,Xは,平成25年1月1日にY社の取締役に就任した上で,同年3月上旬までの間,Y社から取締役としての報酬を合計63万円受領したが,これは,本件ゲームがほぼ完成した後のことであって,Xが本件ゲーム開発作業に従事していた時点(平成24年8月ないし9月頃から同年12月までの間)においては,Y社から報酬を受領していなかったものである。
 しかし,後記3(1)のとおり,XY社間において,本件ゲーム開発に関しては当然に報酬の合意があったとみるべきであることに加え,本件ゲーム開発の当初から,XがY社の取締役等に就任することが予定されており,その取締役としての報酬も本件ゲーム開発に係る報酬の後払い的な性質を含む(もっとも,後記3(1)のとおり,取締役としての報酬分は後記報酬合意の対象ではない。)と認められることをも併せ考慮すれば,XはY社の指揮監督下において労務を提供したという実態にあり,Y社がXに対して既に支払った金銭及び今後支払うべき金銭が労務提供の対価であると評価できるので,上記②の要件を充たすものといえる。」

(2)映画の著作物に関する著作権法29条1項
「なお,Xは,本件ゲームにおいて,そのほとんどが静止画で構成され,わずかに戦いやガチャなどのシーンで動画が用いられているにすぎないと主張する。
 しかし,前記1(10)のとおり,本件ゲームにおいては,動きのある画像が相当程度存在しており,そのほとんどが静止画であるとはいえない上,少なくとも本件ゲームにおいてユーザから人気が高い「聖戦」や,その他の戦闘のシーン等で動画が多数用いられていること,これらの戦闘シーンの本件ゲーム全体に占める重要性は大きいといえることからすれば,本件ゲームは,やはり映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる方法で表現されているといえ,Xの上記主張は採用できない。」

(3)予備的請求-報酬合意もしくは商法512条
「 ア Xは,Bが代表取締役を務めるY社の発意に基づき,Y社における本件ゲームの開発に参加することを表明し,最終的に本件ゲームに採用されたか否かは別として,多大な労力を費やし,多数の仕様書…やマスタ…を,基本的にはBの指示に従いながら,自ら又はBらと共同して作成し,本件ゲームの開発に貢献したものと認められる。そして,Xは,平成25年1月にY社の取締役に就任する以前は,Y社から,本件ゲーム開発に関する労務提供の対価を一切受領しないまま稼働していたものであるが,Xの上記のような作業量及び作業期間(平成24年8月頃から同年12月末頃まで)からすれば,社会通念上,Xによる上記労務提供が無償で行われたなどとは到底認められず,原Y社間において,Xが本件ゲーム開発に従事することの対価に関する黙示の合意があったものと認めるのが合理的である。
   イ ところで,Xは,BのXに対する「本件ゲームが収益を上げた場合には,Xの開発活動に報いる」旨の発言を根拠として,本件ゲームの収益の6割(Xが自ら主張する本件ゲーム開発への貢献度)相当額をXの報酬とする旨の合意があったと主張する。
 この点,BがXに対し,平成24年7月頃,上記の趣旨の発言をしたことは認められるが,Xの上記発言は極めて抽象的なものにすぎず,同発言を根拠に,Xが主張する合意内容を認定することはできず,このほか,上記合意の成立を認めるに足りる証拠はない。そもそも,XとBとの間において,本件ゲームの収益をXの貢献度に応じて分配するなどの具体的な話がされた事実は認められず,X本人もこのことを認める供述をしている。また,前記1認定事実からすれば,本件ゲームの開発には,Y社の従業員等の多数の者(14名程度)が関与しているところ,ゲーム開発者の1人であるXが,本件ゲームの収益の6割相当額を受領することの合理性も全く認められない。」

【コメント】

(1)本件の教訓

 本判決のコメントとして,まず声を大にしていうべきは,

「プログラマーの皆さん,ちゃんと契約してますか??」ということです。

 本件のX氏は,A社から一緒に独立するB氏(後のY社代表取締役)の「本件ゲームが収益を上げた場合には,Xの開発活動に報いる」発言を信じ,当初報酬も貰わず,労働者として雇用もされず,本件ゲームを開発したのかもしれません。

 しかし,契約書がない以上,裁判所が認定するのは合理的に認定される「黙示の合意」に基づく金額になりました。裁判所はそこまで高額な金額は認定しません。

 なお,本件では控訴審で文書提出命令をめぐって決定が出ており,その判断手法が参考になります。

神獄のヴァルハラゲート・文書提出命令事件参照

(2)職務著作

 職務著作に関して本件で特徴的なのは,まだ会社ができていない段階で「法人…の発意」を認定した点です。

 また,「XはY社の指揮監督下において労務を提供したという実態」を認定していますが,このあたりはXの認識との乖離が大きいと推測されます。

(3)映画の著作物

 パックマン事件依頼,ほとんどのゲームソフトは「映画の著作物」として扱われます。例外的に,静止画が圧倒的に多いゲームは「影像が動きをもってみえるという効果を生じさせる」といえないことから,除外されます。

 一応この点も争点になっています。しかし,ゲームの主要な場面である戦闘シーンが静止画ではないことから,映画の著作物に当たることが認定されています。

 この辺りは,「パックマンですら」という感覚ですね。

パックマン事件・東京地裁昭和59年9月28日判決

Winny事件・最高裁平成23年12月19日判決

最高裁平成23年12月19日判決・刑集65巻9号1380頁

【判決要旨】

「Winnyは,1,2審判決が価値中立ソフトと称するように,適法な用途にも,著作権侵害という違法な用途にも利用できるソフトあり,これを著作権侵害に利用するか,その他の用途に利用するかは,あくまで個々の利用者の判断に委ねられている。また,被告人がしたように,開発途上のソフトをインターネット上で不特定多数の者に対して無償で公開,提供し,利用者の意見を聴取しながら当該ソフトの開発を進めるという方法は,ソフトの開発方法として特異なものではなく,合理的なものと受け止められている。新たに開発されるソフトには社会的に幅広い評価があり得る一方で,その開発には迅速性が要求されることも考慮すれば,かかるソフトの開発行為に対する過度の萎縮効果を生じさせないためにも,単に他人の著作権侵害に利用される一般的可能性があり,それを提供者において認識,認容しつつ当該ソフトの公開,提供をし,それを用いて著作権侵害が行われたというだけで,直ちに著作権侵害の幇助行為に当たると解すべきではない。かかるソフトの提供行為について,幇助犯が成立するためには,一般的可能性を超える具体的な侵害利用状況が必要であり,また,そのことを提供者においても認識,認容していることを要するというべきである。すなわち,ソフトの提供者において,当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識,認容しながら,その公開,提供を行い,実際に当該著作権侵害が行われた場合や,当該ソフトの性質,その客観的利用状況,提供方法などに照らし,同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で,提供者もそのことを認識,認容しながら同ソフトの公開,提供を行い,実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたときに限り,当該ソフトの公開,提供行為がそれらの著作権侵害の幇助行為に当たると解するのが相当である。」

「これを本件についてみるに,まず,被告人が,現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識,認容しながら,本件Winnyの公開,提供を行ったものでないことは明らかである。
 次に,入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が本件Winnyを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められ,被告人もこれを認識,認容しながら本件Winnyの公開,提供を行ったといえるかどうかについて検討すると,Winnyは,それ自体,多様な情報の交換を通信の秘密を保持しつつ効率的に行うことを可能とするソフトであるとともに,本件正犯者のように著作権を侵害する態様で利用する場合にも,摘発されにくく,非常に使いやすいソフトである。そして,本件当時の客観的利用状況をみると,原判決が指摘するとおり,ファイル共有ソフトによる著作権侵害の状況については,時期や統計の取り方によって相当の幅があり,本件当時のWinnyの客観的利用状況を正確に示す証拠はないが,原判決が引用する関係証拠によっても,Winnyのネットワーク上を流通するファイルの4割程度が著作物で,かつ,著作権者の許諾が得られていないと推測されるものであったというのである。そして,被告人の本件Winnyの提供方法をみると,違法なファイルのやり取りをしないようにとの注意書きを付記するなどの措置を採りつつ,ダウンロードをすることができる者について何ら限定をかけることなく,無償で,継続的に,本件Winnyをウェブサイト上で公開するという方法によっている。これらの事情からすると,被告人による本件Winnyの公開,提供行為は,客観的に見て,例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高い状況の下での公開,提供行為であったことは否定できない
 他方,この点に関する被告人の主観面をみると,被告人は,本件Winnyを公開,提供するに際し,本件Winnyを著作権侵害のために利用するであろう者がいることや,そのような者の人数が増えてきたことについては認識していたと認められるものの,いまだ,被告人において,Winnyを著作権侵害のために利用する者が例外的とはいえない範囲の者にまで広がっており,本件Winnyを公開,提供した場合に,例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高いことを認識,認容していたとまで認めるに足りる証拠はない。」

【コメント】

 ファイル共有ソフトWinnyをめぐる事件は,社会的耳目を集め,上記のような結末を迎えました。判決が認定しているとおり,Winny自体は著作権侵害にも適法な用途にも使うことができ,その選択はユーザーに委ねられています。

 刑法の世界で「中立的行為による幇助」といわれる問題です。

 学生時代,よく私の師匠は「包丁で殺人を犯した人がいるときに,『もしかしてこの人,殺人するかもしれない』と思って包丁を売った人が,殺人の幇助に問われないのと同じことだ」と言っていました。

 道具の提供行為の責任を問われたとき,やはり道具の用途というのは非常に大事になります。ちょっと話は反れますが,パチンコやスロットの不正行為について,似たような議論があります。

 磁石を使ってパチンコ玉を不正に誘導する行為は,(パチンコ台に着席するだけでなく)実際に磁石を使用してパチンコ玉を誘導しようとした時点で窃盗の着手あり,というべきです。磁石自体はいろいろな用途があるもので,別に不正にパチンコをするためのものではありません。

 これに対し,スロットのボタンを押すタイミングを教えてくれる「体感機」を使用してメダルを取得する行為は,「体感機」を使用してプレーを始めた時点で窃盗の着手あり,というべきです。「体感機」は不正にパチスロをプレーする他に使い道がありませんからね。

 

 そこへ行くとときめきメモリアル事件における改造メモリーカードの提供行為はどうなんでしょうか??

 改造メモリーカードを買った人は,たいていゲームのパラメータを改造するんでしょうし,改造メモリーカードの提供は幇助の責任ありですね。

ときめきメモリアル事件・最高裁平成13年2月13日判決

 ちなみに,本件で被告人となった金子勇氏は,最高裁で無罪が確定してから1年半程度で,急性心筋梗塞により亡くなりました。イノベーターに対する日本社会の寛容さ,という点でも大変考えさせられる,平成の大事件でした。

アダルト動画サイト事件・大阪高裁平成30年9月11日判決

令和元年10月1日追記

 ユーザーの違法行為を「幇助」することについて,脱獄iPhone事件も参照。

脱獄iPhone刑事事件・千葉地裁平成29年5月1日判決

パックマン事件・東京地裁昭和59年9月28日判決

(1)はじめに

 「パックマン」というゲームソフトが,著作権法でいうところの「映画の著作物」に当たることを認めた判決として有名です。

(2)判決要旨

表現方法の要件

「表現方法の要件は、前記(一)のとおりであるが、そこでは、「視覚的又は視聴覚的効果」とされているから、聴覚的効果を生じさせることすなわち音声を有することは、映画の著作物の必要的要件ではなく、視覚的効果を生じさせることが必要的要件であること解される。
 映画の視覚的効果は、映写される影像が動きをもつて見えるという効果であると解することができる。右の影像は、本来的意味における映画の場合は、通常スクリーン上に顕出されるが、著作権法は「上映」について「映写幕その他の物」に映写することをいうとしている(第二条第一項第一九号)から、スクリーン以外の物、例えばブラウン管上に影像が顕出されるものも、許容される。したがつて、映画の著作物の表現方法の要件としては、「影像が動きをもつて見えるという効果を生じさせること」が必須であり、これに音声を伴つても伴わなくてもよいということになる。
「右に述べた要件は、映画から生じるところの各種の効果の中から、「視覚的効果」と「視聴覚的効果」とに着目し、そのうち特に「視覚的効果」につき、これに類似する効果を生じさせる表現方法を必須のものとしたものであるから、「映画の著作物」は本来的意味における映画から生じるその他の効果について類似しているものである必要はないものと解される
 したがつて、現在の劇場用映画は通常観賞の用に供され、物語性を有しているが、これらはいずれも「視覚的効果」とは関係がないから、観賞ではなく遊戯の用に供されるものであつても、また、物語性のない記録的映画、実用的映画などであつても、映画としての表現方法の要件を欠くことにはならない。」

存在形式の要件

「映画の著作物は「物に固定されていること」が必要である。
「物」は限定されていない…
 したがつて、物に固定されているとは、著作物が、何らかの方法により物と結びつくことによつて、同一性を保ちながら存続しかつ著作物を再現することが可能である状態を指すものということができる。

(3)コメント

 冒頭のように,ゲーム「パックマン」が「映画の著作物」に該当することを認めた裁判例です。一般的に,「映画の著作物」に該当するための要件を判示しており,古い判決ですが今日でも重要な判決です。

 その後,最高裁もゲームソフトが「映画の著作物」に該当することを前提に判断しています。

⇒中古ゲームソフト事件・最高裁平成14年4月25日判決

ときめきメモリアル事件・最高裁平成13年2月13日判決も参照。

※近時の例として神獄のヴァルハラゲート事件・東京地裁平成28年2月25日判決参照(平成30年9月2日追記)。

 では,ゲームソフトであればなんでもかんでも著作権法の「映画の著作物」にあたるのか??というとそうでもありません。

 例えば,静止画が圧倒的に多いゲームでは,上記の表現方法の要件(「影像が動きをもつて見えるという効果を生じさせること」)を満たさないため,映画の著作物にあたりません。

 少数ながら,否定例は次のとおり存在します。

⇒三国志Ⅲ事件・東京地裁平成11年3月18日判決

⇒猟奇の檻事件・知財高裁平成21年9月30日判決