社会的評価

リツイート事件(名誉毀損)・東京地裁平成26年12月24日判決,東京地裁平成27年11月25日判決

【判 旨】

①事件 ★東京地裁平成26年12月24日判決・2014WLJPCA12248028

「これに対し,原告X2は,リツイートは,原告X2自身が発信したものでない旨主張し,それを前提に,被告Y7及び被告Y6の反訴請求が不法な請求又は二重提訴であると主張する。しかし,リツイートも,ツイートをそのまま自身のツイッターに掲載する点で,自身の発言と同様に扱われるものであり,原告X2の発言行為とみるべきであるから,リツイートについて名誉毀損等が成立するとして損害賠償請求をすることが直ちに不法な請求として違法になるものではなく,また,リツイートは元となるツイートと同内容ではあるものの,別の発言行為であるから元のツイートについて不法行為が成立するとして賠償請求がされていても,リツイートした人物に対し同様に不法行為が成立するとして賠償請求をすることが二重提訴となるものでもないから,原告X2の上記主張には理由がない。」

②事件 ★東京地裁平成27年11月25日判決・2015WLJPCA11258016

「なお,リツイートは,既存の文章を引用形式により発信する主体的な表現行為としての性質を有するといえるから,本件ツイート等の名誉毀損性の有無を判断するに際しては,リツイートに係る部分をも判断対象に含めるのが相当であり,これに反する趣旨の被告の主張は採用できない。」

 

【コメント】

1 リンク・リツイート等,表現行為の媒介について

(1)問題の所在

  例えばニュース記事にリンクを張ったり,「いいね!」したり,他人の記事をリツイートした場合,リンクやリツイートをした人自身の投稿(表現)といえるのか(リンク・リツイートだけで責任を問われるのか),問題となります。

(2)リンク等

 リンクを張った場合,リンク先の記事も取り込んでいると評価できる場合には,リンク先も含めて投稿したとみる見解が一般的かと思います。

ツイート裁判官事件補足意見・最高裁平成30年10月17日判決

(3)リツイート

 これに対して,上記2判決が説示のとおり,リツイートは,元の記事がそのままツイッター上に表示される点で,「自身の発言と同様に扱われる」という見解が一般的かと思います。

 名誉毀損は社会的評価の低下であり,その有無は一般読者の普通の注意と読み方を基準にします(投稿者でなく読者の認識です)。ツイッターの一般読者からすると,元ツイートだろうがリツイートだろうが,まずはそこに表示されている内容をそのまま読解するのでしょうから,私はこの立場に賛成です。

 誹謗中傷情報を集めたようなまとめサイトも,たいてい元の文面をそのまま表示してますから,当該まとめサイトの投稿者(運営者)も同様に責任を負うべきでしょう。

まとめサイト事件・大阪地裁平成29年11月16日判決

(4)リツイートに関する反対論

 他方で,反対論も根強いです。

 リツイートする人の認識としては,単に媒介しただけ,拡散しただけだで,ツイート元の文面を入力したわけではないからです。

(5)「忘れられる権利」事件を踏まえた大きな考え

 少し文脈は変わりますが,私は「忘れられる権利」事件における最高裁の判断も参考になると思います。検索エンジン運営事業者に対して,検索結果の削除を求めた事件で,最高裁は厳しめの要件を立てたのですが,その際次のように述べています。

⇒「忘れられる権利」事件・最高裁平成29年1月31日決定・民集71巻1号63頁

「検索事業者の検索結果提供における「情報の収集,整理及び提供はプログラムにより自動的に行われるものの,同プログラムは検索結果の提供に関する検索事業者の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたものであるから,検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有する。また,検索事業者による検索結果の提供は,公衆が,インターネット上に情報を発信したり,インターネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するものであり,現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしている。

 検索事業者は情報を媒介しているだけで,表現の自由(憲法21条1項)の保障は及ばない,という「媒介者論」という見解がありました。しかし,最高裁は「検索事業者自身による表現行為という側面」を認めたわけです。

 表現の自由は民主政の過程に必要不可欠であり,表現そのものは制限されるべきではありません。しかし,表現はしばしば他者の人権を侵害しますから,表現は自由であると同時に,それに見合った責任も伴います。情報の流通過程に参加する以上,表現そのものは自由だけれど,他者の人権を侵害した場合には相応の責任を負うこともある,リツイートもこのような文脈で理解できるのではないでしょうか。

(6)著作権・著作者人格権について

 なお,著作権・著作者人格権に関しては,リツイートは別の説明がされます。

⇒リツイート事件(著作権)・知財高裁平成30年4月25日判決・判時2382号24頁

2 社会的評価の再度の低下?

 リツイートが名誉毀損に当たるとしても,「最初のツイートで既に社会的評価は低下していたのだから,リツイートで再度低下することはない」という反論もありうるでしょう。上記①事件では「二重提訴」という主張がされています。

 この問題については以前このブログでも書きました。

社会的評価の再度の低下ー肯定例・東京高裁平成5年9月29日判決

社会的評価の再度の低下ー否定例・東京高裁平成19年6月28日判決

 

比較サイトによる誤認惹起行為ーステマサイト事件・大阪地裁平成31年4月11日判決

大阪地裁平成31年4月11日判決・裁判所web

【事案の概要】

 X及びYはいずれも,外壁塗装リフォーム業者である。
 Yは平成24年1月ころ,ウェブサイト制作業者であるAに対し,口コミサイト(以下「本件サイト」という)の制作を依頼し,本件サイトは平成24年3月5日に公開された。本件サイトでは,Yがランキングの1位と表示されている。
 Xはサーバー管理者に対する発信者情報開示請求,Aに対する訴訟等を経てY自身が本件サイト制作の依頼者であることを特定した。
 そこで,XはYに対し,同業者であるYが,自ら管理・運営する本件サイトにおいて,Yをランキングの1位と表示したことは,Yの提供するサービスの質,内容が全国の外壁塗装業者の中で最も優良であるとして高く評価されているかのような表示をしていた点で,不正競争(役務の質,内容について誤認させるような表示)に該当するとして,不正競争防止法4条に基づき,損害賠償を請求した。弁護士費用等,一部について認容。

【判 旨】

そもそもYへの口コミが虚偽のものである場合,例えば,Yが自ら投稿したものであったり,形式的には施主又は元施主(以下「施主等」という。)からの投稿であったとしても,その意思を反映したものではなかったりなどする場合は,本件サイトの表示上のYへの口コミの件数及び内容をそのままのものとして受け取ることが許されなくなり,その結果,本件ランキング表示とのかい離があるということとなる。
…Yは施主等からの投稿日を変更しようとする作為的な態度を示していたことからすると,Yは,架空の投稿を相当数行うことによって,ランキング1位の表示を作出していたと推認するのが相当である。…以上からすると,本件サイトにおけるYがランキング1位であるという本件ランキング表示は,実際の口コミ件数及び内容に基づくものとの間にかい離があると認められる
「そして,本件サイトが表示するようないわゆる口コミランキングは,投稿者の主観に基づくものではあるが,実際にサービスの提供を受けた不特定多数の施主等の意見が集積されるものである点で,需要者の業者選択に一定の影響を及ぼすものである。したがって,本件サイトにおけるランキングで1位と表示することは,需要者に対し,そのような不特定多数の施主等の意見を集約した結果として,その提供するサービスの質,内容が掲載業者の中で最も優良であると評価されたことを表示する点で,役務の質,内容の表示に当たる。そして,その表示が投稿の実態とかい離があるのであるから,本件ランキング表示は,Yの提供する「役務の質,内容…について誤認させるような表示」に当たると認めるのが相当である。」

【コメント】

(1)需要者(消費者)に対する誤認混同

 今日,商品の販売促進において,インターネット上の口コミが重要であることは周知のとおりです。しかし,本件のようにいわば自作自演のサイトを作ると,同業者から損害賠償請求を受けることがある,という教訓です。また,そのようなサイトを運営すると,別途,景品等表示法違反として消費者庁から措置命令を受けるおそれがあります。

(2)口コミサイトを名誉毀損で戦うことの困難性

 本件では不正競争防止法の誤認混同が認められていますが,Xは名誉毀損も同時に主張していました。

 しかし,口コミはあくまで単なる感想,主観的意見にすぎず,事実の摘示ではないため,なかなか名誉毀損のフィールドでは戦いづらいです。たとえば,飲食店の口コミサイトで「まずい」「おいしくない」と書かれたとしても,「おいしい」かどうかは食べた人の主観的な評価にすぎないため,難しいですね(中には,口コミサイトのランキング下位に記載したことを名誉毀損と認めた裁判例もありますが)。

 翻って,本件の事案で不正競争防止法の誤認混同を主張し,認定を勝ち取った原告代理人は本当にセンスのいい,すばらしい先生だと思います。

法的見解の表明・新・ゴーマニズム宣言事件ー最高裁平成16年7月15日判決

法的見解の表明・新・ゴーマニズム宣言事件ー最高裁平成16年7月15日判決・民集58巻5号1615頁

【判 旨】

ロス疑惑夕刊フジ事件・最高裁平成9年9月9日判決を引用した上で,)

「そして,上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値,善悪,優劣についての批評や論議などは,意見ないし論評の表明に属するというべきである。」

「上記の見地に立って検討するに,法的な見解の正当性それ自体は,証明の対象とはなり得ないものであり,法的な見解の表明が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項ということができないことは明らかであるから,法的な見解の表明は,事実を摘示するものではなく,意見ないし論評の表明の範ちゅうに属するものというべきである。また,前述のとおり,事実を摘示しての名誉毀損と意見ないし論評による名誉毀損とで不法行為責任の成否に関する要件を異にし,意見ないし論評については,その内容の正当性や合理性を特に問うことなく,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,名誉毀損の不法行為が成立しないものとされているのは,意見ないし論評を表明する自由が民主主義社会に不可欠な表現の自由の根幹を構成するものであることを考慮し,これを手厚く保障する趣旨によるものである。そして,裁判所が判決等により判断を示すことができる事項であるかどうかは,上記の判別に関係しないから,裁判所が具体的な紛争の解決のために当該法的な見解の正当性について公権的判断を示すことがあるからといって,そのことを理由に,法的な見解の表明が事実の摘示ないしそれに類するものに当たると解することはできない。
 したがって,一般的に,法的な見解の表明には,その前提として,上記特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと解されるため事実の摘示を含むものというべき場合があることは否定し得ないが,法的な見解の表明それ自体は,それが判決等により裁判所が判断を示すことができる事項に係るものであっても,そのことを理由に事実を摘示するものとはいえず,意見ないし論評の表明に当たるものというべきである。」

【コメント】

(1)事実と意見の区別,法律上の見解

事実と・意見・論評との区別は,ロス疑惑夕刊フジ事件・最高裁平成9年9月9日判決が「証拠等を以てその存否を決することが可能」かどうかという基準を立てていました。

ロス疑惑夕刊フジ事件・最高裁平成9年9月9日判決

ところで,裁判所は証拠に基づいて事実を認定し,法律的な結論を出します。では,例えば「著作権を侵害している」というような法律的な見解は,「証拠等を以てその存否を決することが可能」な事実かどうか?という点が本件では問われました。

本判決は,事実ではなく,「意見ないし論評」に当たるとしました。

なんだか,民訴法でいうところの「法律上の主張レベル」と「事実の主張レベル」は違うんだ,という話と似てますね。刑法の「事実の錯誤」と「違法性の錯誤」問題とも似ています。

(2)「特定事項の主張」の「明示的又は黙示的に主張」

「一般的に,法的な見解の表明には,その前提として,上記特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと解されるため事実の摘示を含むものというべき場合があることは否定し得ないが,」・・・という個所は,

ロス疑惑朝日新聞事件・最高裁平成10年1月30日判決にいうところの,推論による特定の事実の主張のことでしょう。

推論記事による事実摘示ーロス疑惑朝日新聞事件・最高裁平成10年1月30日判決

一見すると法律上の見解を述べているのだけれど,文脈からして特定の事実を黙示に主張していると(一般読者が)読める,ということはありうるのでしょう。このときは,事実の摘示型の検討になります。

(3)不競法上は「事実」だけど,名誉毀損に関しては「事実」でない??

最近出た「メディア判例百選(第2版)」の解説(同書75頁)にも指摘があるのですが,不競法との関係で難しい問題を孕んでいます。

「知的財産権を侵害しています!」という警告は,不競法上「事実」の告知に当たります。が,本判決によれば名誉毀損との関係では「事実」ではないのです。

適用場面が異なるので,直ちに矛盾するわけではないのですが,気持ち悪いことは気持ち悪いですね。

(4)その他

ちなみに,本判決(新・ゴーマニズム宣言事件)は,著作権の勉強をしていると,同一性保持権のところで出てくる「脱・ゴーマニズム宣言事件」の後日談になる事件です。

ラグナロクオンライン信用毀損事件・東京地裁平成19年10月23日判決

ラグナロクオンライン信用毀損事件・東京地裁平成19年10月23日判決・判時2008号109頁

【事案の概要】

X社は,「ラグナロクオンライン」というオンラインゲーム(以下「本件オンラインゲーム」という。)を提供している会社である。YはX社の従業員であったが,X社の本件オンラインゲームの運営管理プログラムにアクセス権限もなくアクセスするという不正アクセス行為を行い,自らのキャラクターデータを改ざんしてゲーム内の仮想通貨である「Zeny」(以下「本件仮想通貨」という。)の保有量を増やし,それを,ゲーム内の仮想通貨やアイテムを現実の金銭で販売する業者に売却するなどした。そこで,X社はY社に対し,不法行為による損害賠償請求として,7486万2700円及び遅延損害金の支払いを求めた。

なお,Yは,本件アクセス権限を有していなかったが,施錠されていない上司の机に保管されていた同権限を有するYの上司のID等が書かれた紙片を盗み見て知った

また,X社は,本件仮想通貨の異常値を検出し,調査の結果,平成18年3月24日,Yが不正アクセスを行っていたことを確認し,警察に被害届を提出し,同年7月19日,Yを懲戒解雇とし,翌日,本件の経緯について記者発表を行った。 

Yは,本件に関し,不正アクセス行為の禁止等に関する法律違反で起訴され,同年10月24日に,懲役1年,執行猶予4年の有罪判決を受けた。

【判 旨】

「 2 不法行為該当性について
 …こうしたYの行為は,X社の本件オンラインゲームの管理権及び本件仮想通貨を含むゲームシステムやX社の管理体制などに対する信用を害する行為であり,X社との関係で不法行為を構成するものといえる。」
「 3 損害について
  (1) 信用毀損について
 信用毀損にかかる損害について検討する。
 まず,X社は,上記信用毀損により,平成18年7月の本件オンラインゲームのゲーム課金収入並びに同月及び同年8月の関連商品の売り上げが減少したと主張し,…それぞれ収入が減少したこと自体は認められる。
 しかし,Yの行為により,X社の信用が毀損されれば一定程度X社の本件オンラインゲームによるゲーム課金収入等が減少するであろうことが窺われるとしても,本件オンラインゲームの課金収入及び関連商品の売り上げといったものは,その性質上,その時々の状況に大きく左右される性質を有するものであることは明らかであって(実際に,平成18年中,X社が指摘した以外の月においても課金収入及び関連商品の売り上げも月毎に数百万円から数千万程度減少している場合もある。甲14),これらの収入の減少を直ちにYの信用毀損と因果関係を有する損害と見ることはできない
 なお,Yが本件仮想通貨をRMT業者に売却して得た利益の総額は本件証拠上必ずしも明らかではないが,一定の利益を得ていたこと自体は認められる。
 しかし,仮にYにおいて不正アクセス行為によって得た本件仮装通貨を売却して一定の利益を得ていたとしても,自らが禁じている不正な行為によって生じた利益をX社が受ける根拠はなく,Yが利益を得たことによりX社が得られるはずの利益を失ったことにはならない。したがって,これらの利益を得たことを直ちにX社の損害とするとか,かかる利益をX社に得させる理由はないのであって,X社が本件において一定の利益を得ていたとの事実は,信用毀損による無形損害の額を算定するについて,1つの事情として考慮される余地があるにとどまるというべきである。
 そうすると,一般的なテレビゲーム等と異なり,上記本件オンラインゲームは,管理者であるX社の継続的なゲームシステムの維持を前提とし,それについて適切な管理が期待されていること,本件当時,本件オンラインゲームの会員数は150万人程度であり,ユーザーに対する影響は相当大きいと考えられること,実際に,ユーザーからの苦情も複数寄せられていたこと(甲11),上記のように直ちにそれらがYに行為と因果関係を有するとまではいえないとしても,実際に信用毀損によりゲーム課金収入等に悪影響があったであろうこと,本件について多くの報道がされる(甲7の1から3,甲8)などしたため本件オンラインゲームのユーザー以外に対しても一定の影響があったと考えられること,一方ゲーム課金収入は,平成18年9月には,平成18年1月から9月までの中で最高額となり,関連商品の売り上げも同水準まで回復していること(甲14),その他本件に顕れた一切の事情を総合すれば,信用毀損に関する損害額としては300万円をもって相当と認める。
  (2) 営業利益について
 甲15の1,2,甲16の1,2及び弁論の全趣旨によれば,X社が,2件の商談を抱えていたことは認められるが,これらが契約締結交渉の段階を超えて,Yによる不法行為がなければ契約締結が確実であったとか,かかる商談からX社が主張するような利益が生じることが確実であったと見るべき証拠もない(Yにおいてかかる事実を認識していたとか,認識すべきであったとかともいえない。)。」

【コメント】

(1)本件不正アクセス→信用毀損の損害

 一昔前,ラグナロクオンラインの不正アクセス事件については多くの報道がされていましたから,記憶に残っている方も多いかと思います。

 この手の営業秘密漏洩事件の教訓はいつも,秘密を秘密として管理しましょう!ということです。そうしないと,たとえ何億円の損害を被っても,本件のように重大な商談が破談になっても,判決にあるのように「一切の事情を総合すれば,信用毀損に関する損害額としては300万円」とされてしまいます。不正アクセスがあってからでは遅いのです。

 本件でYは「施錠されていない上司の机に保管されていた同権限を有するYの上司のID等が書かれた紙片を盗み見て知った。」というのです。これでは,不正競争防止法上の「営業秘密」とは認められないでしょう。しっかりガードするためには,経産省の「営業秘密管理指針」を必ず読んでください。

(2)準事務管理的な話

 本件でX社はYがデータの不正売買で得たとされる5000万円以上の金額を損害として主張していますが,「自らが禁じている不正な行為によって生じた利益をX社が受ける根拠はなく,Yが利益を得たことによりX社が得られるはずの利益を失ったことにはならない」として認められませんでした。

 このように,不正に利益を得たお金を返してください,という請求を学説上「準事務管理」といいますが,このような請求は実務上なかなか認められません。

 ただし,実は不正競争防止法には似たような規定(同法5条2項)があり,X社の管理するデータが「営業秘密」と言えた場合,もっと請求が認められたかもしれません。やはり,「施錠されていない上司の机に保管されていた同権限を有するYの上司のID等が書かれた紙片」が置いてある状況ではだめなのです。

社会的評価の再度の低下ー否定例・東京高裁平成19年6月28日判決

東京高裁平成19年6月28日判決・判タ1279号273頁

【論点】

「もともと社会的評価が低い人は,さらに社会的評価が下がることはない。」

名誉毀損の裁判をやっていると,相手方からこのような反論を受けることがあります。

社会的評価の再度の低下ー肯定例・東京高裁平成5年判決

【判決要旨】

「法的な保護に値する名誉とは,人の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価であるということができるところ,本件記事は,日本赤軍の最高幹部である第1審原告が凶悪非道な若王子事件に実行犯ではないとしても関与したことを報道するものであり,仮に関与したと報道された者が市井の一市民であれば,その者の社会的評価を低下させ,これにより名誉を毀損するものということができる。しかしながら,以上認定の事実によれば,第1審原告は,国際テロ組織である日本赤軍の最高幹部であり,日本赤軍が組織的に敢行したテロ事件のうちドバイ事件及びダッカ事件に実行正犯として関与し,特にダッカ事件では主導的役割を果たし,これにより,無期懲役の刑を宣告され判決が確定して,服役中の者であり,市井の一市民と同等に考えることはできない。すなわち,第1審原告については,上記テロ事件への関与並びにこれについて無期懲役の刑を宣告した判決の存在及びその執行により,その社会的評価は既に低いといわざるを得ず,加えて,本件既報記事により,既に,若王子事件に何らかの形で関与した者であることが広く報道され,一般の読者からそのような印象を持たれている者であるから,本件既報記事から相当の年数を経て報道された本件記事及びこれを構成する①ないし④記事により,第1審原告の社会的評価が更に低下するとは認め難く,仮に低下するとしても法的保護に値するほどのものとは認められない。」

【コメント】

私見は,本判決は,複数のテロ事件に実行犯・主導的役割を果たした「市井の一市民と同等に考えることはできない」程の人に関する特殊な判決であり,あまり一般化できないと思います。

社会的評価の再度の低下ー肯定例・東京高裁平成5年判決

↑この記事で述べた通り,どのような人でも人として尊重されるべき一定の社会的評価を有しているというべきであるから、その人に向かって何を言ってもよいなどといえるはずはない。」「社会から受ける評価が低いとの点は、名誉毀損に対する賠償額の認定、判断に際して斟酌されるに止まるというべきである」(上記東京高裁平成5年判決)からです。

平成5年判決が述べる通り,対象人物の社会的評価が既に低いことは,損害論の話でしょう。

まとめブログによる名誉毀損事件

リツイート事件(名誉毀損)・東京地裁平成26年12月24日判決等

社会的評価の再度の低下ー肯定例・東京高裁平成5年9月29日判決

東京高裁平成5年9月29日判決・判時1501号109頁・判タ845号267頁

【論点】

「もともと社会的評価が低い人は,さらに社会的評価が下がることはない。」

名誉毀損の裁判をやっていると,相手方からこのような反論を受けることがあります。

社会的評価が低い人の評価は,再度低下するのでしょうか??

【判決要旨】

どのような人でも、極端な例を挙げれば、極悪非道な犯罪で有罪判決が確定している人でも、人として尊重されるべき一定の社会的評価を有しているというべきであるから、その人に向かって何を言ってもよいなどといえるはずはない。特定の人を対象にして、その人の態度や性格などに関する消極的な事実を重ねて指摘し、あるいは暗示して、多数の人々に流布させることは、たとえその人について既に芳しからぬ評判が立っている場合であっても、さらにその社会的評価を低下させることになることは明らかである。社会から受ける評価が低いとの点は、名誉毀損に対する賠償額の認定、判断に際して斟酌されるに止まるというべきである。」

【コメント】

本判決は,結論として名誉毀損を否定しているので,上記引用部分は傍論ではあるのですが,非常に的を得た判断であると考えます。

(同旨:佃克彦『名誉毀損の法律実務(第3版)』・弘文堂2017年,窪田充見『不法行為法ー民法を学ぶ(第2版)』・有斐閣2018年)

近年,このような反論がなされた判決として,大阪のまとめブログ事件があります。

まとめブログによる名誉毀損事件

なお,再度の社会的評価の低下を否定した(社会的評価が低いから,さらに下がることはない)判決も存在します。

が,特殊な事例判断と考えるべきで,

少なくとも損害賠償の前段階の裁判である,プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求訴訟においては妥当しない判決であると考えています。

否定例・東京高裁平成19年6月28日判決

リツイート事件(名誉毀損)・東京地裁平成26年12月24日判決等