不正競争防止法

メタタグ,タイトルタグの商標的使用ーバイクリフター事件・大阪地裁平成29年1月19日判決

バイクリフター事件・大阪地裁平成29年1月19日判決・判時2406号52頁

【事案の概要】

 Xは,「バイクリフター」「BIKE LIFTER」の文字列による商標権を有している(第12類,「X商標」という)。

 Yは,次の態様でY標章を使用している。

ア Y商品の販売等
 Yは,平成25年8月から少なくとも平成28年8月まで,Y各標章を付したオートバイ運搬用台車であるY商品を製造し,販売し,又は販売のために展示していた。
 Y商品は,X商標の指定商品である「オートバイを横方向にずらし移動するための台車・その他オートバイの運搬用台車」に含まれる。

イ Yによる宣伝広告
 Yは,少なくとも平成28年8月まで,ホームページ上に,商品名を「バイクシフター」又は「bike shifter」とするY商品の写真を掲載し,商品説明等の文章中において,「バイクシフター」,「bike shifter」の語を使用していた。
 また,Yは,少なくとも平成28年8月まで,YAHOOショッピング,楽天市場,Amazon,ウェビックなどのインターネットショッピングサイトに出店し,Y各標章を付したY商品の写真を掲載し,同商品を販売していた。

ウ YによるX商標又はY標章のメタタグ及びタイトルタグでの使用
 Yは,そのウェブサイト(http://world-walk.com)の html ファイルの<metaname=″keywords″content=>に,<meta name=″keywords″content=″バイクリフター″>と記載し,<meta name=″description″content=>及び<title>において,<meta name=″description″content=″バイクシフター&スタンドムーバー 使い方は動画でご覧下さい″>,<title>バイクシフター &スタンドムーバー</title>と記載している。

 XはYに対し,商標権及び不正競争防止法に基づき差止及び損害賠償を請求した。一部認容。

【判 旨】

判決は,商標の類似性,商品の類似性を肯定した上で,メタタグ,タイトルタグでの使用(上記ウ)について次の通り判示した。

ディスクリプションメタタグ,タイトルタグでの使用について

「Yのウェブサイトの html ファイル上の前記前提事実…記載のコードのうち,「<meta name=″description″content=″バイクシフター&スタンドムーバー使い方は動画でご覧下さい″>」との記載は,いわゆるディスクリプションメタタグ,「<title>バイクシフター &スタンドムーバー</title>」との記載はいわゆるタイトルタグであり,これらを記載した結果,ヤフー等の検索サイトにおいてキーワード検索結果が表示されるページ上に,Yのホームページについて,上記タイトルタグのとおりのタイトルが表示され,上記ディスクリプションメタタグのとおりの説明が表示されると認められる(弁論の全趣旨)。
 ところで,一般に事業者がその商品又は役務に関してインターネット上にウェブサイトを開設した際のページの表示は,その商品又は役務に関する広告であるということができるから,インターネットの検索サイトの検索結果画面において表示される当該ページの説明についても,同様に,その商品又は役務に関する広告であるというべきである。そして,これが表示されるように html ファイルにディスクリプションメタタグないしタイトルタグを記載することは,商品又は役務に関するウェブサイトが検索サイトの検索にヒットした場合に,その検索結果画面にそれらのディスクリプションメタタグないしタイトルタグを表示させ,ユーザーにそれらを視認させるに至るものであるから,商標法2条3項8号所定の商品又は役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する使用行為に当たるというべきである。また,上記のディスクリプションメタタグないしタイトルタグとしてのY標章1の使用は,それにより当該サイトで取り扱われているY商品の出所を表示するものであるから,Y商品についての商標的使用に当たるというべきである。」

キーワードメタタグでの使用について

「Yのウェブサイトの html ファイル上の前記前提事実(4)ウ記載のコードのうち,「<meta name=″keywords″content=″バイクリフター″>」との記載は,いわゆるキーワードメタタグであり,ユーザーが,ヤフー等の検索サイトにおいて,検索ワードとして「バイクリフター」を入力して検索を実行した際に,Yのウェブサイトを検索結果としてヒットさせて,上記(1)のディスクリプションメタタグ及びキーワードタグの内容を検索結果画面に表示させる機能を有するものであると認められる。このようにキーワードメタタグは,Yのウェブサイトを検索結果としてヒットさせる機能を有するにすぎず,ブラウザの表示からソース機能をクリックするなど,需要者が意識的に所定の操作をして初めて視認されるものであり,これら操作がない場合には,検索結果の表示画面のYのウェブサイトの欄にそのキーワードが表示されることはない。(弁論の全趣旨)
 ところで,商標法は,商標の出所識別機能に基づき,その保護により商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図ることを目的の一つとしている(商標法1条)ところ,商標による出所識別は,需要者が当該商標を知覚によって認識することを通じて行われるものである。したがって,その保護・禁止の対象とする商標法2条3項所定の「使用」も,このような知覚による認識が行われる態様での使用行為を規定したものと解するのが相当であり,同項8号所定の「商品…に関する広告…を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」というのも,同号の「広告…に標章を付して展示し,若しくは頒布し」と同様に,広告の内容自体においてその標章が知覚により認識し得ることを要すると解するのが相当である。
 そうすると,本件でのキーワードメタタグにおけるX商標の使用は,表示される検索結果たるYのウェブサイトの広告の内容自体において,X商標が知覚により認識される態様で使用されているものではないから,商標法2条3項8号所定の使用行為に当たらないというべきである。」

 

【コメント】

1 まず,メタタグ,タイトルタグとは??

メタタグ:ウェブサイトに関する様々な情報を検索エンジンに提供するためのhtmlコード。

ディスクリプションメタタグ:検索エンジンの検索結果として表示される。

キーワードメタタグ:検索結果の表示順位を決める際に参照されることがある(検索画面には表示されない)

タイトルタグ:検索結果画面にタイトルとして表示される部分。

 つまり,ディスクリプションメタタグとタイトルタグは表示されますが,キーワードメタタグはわざわざソースコードを開かなければ(一般の人には)表示されません。

2 商標的使用論

 商標は,そのロゴマーク(業界では「標章」といいます。)の出所を表示してその信頼を保護することを目的としています。例えば,「SONY」の表示があることで,需要者は「あ,SONYの製品だからいい品質の商品い違いない!」という信頼を得るわけです。これを,商標の出所表示機能といいます。このような需要者の信頼を裏切るようなパクリ商品を販売させないことが,商標法で認められる主な権利になるわけです。

 逆に,このような需要者の信頼を裏切らない=商標的使用ではない使用であれば,商標を使ってもいいことになります(登録商標は何でもかんでも使ってはいけない,というものではありません)。例えばヨドバシカメラの袋には「SONY」のロゴがありますが,これは誰もその紙袋が「SONY」製品だと思わない,包装としての使用だからOKということです。

3 メタタグ,タイトルタグ

 そのような商標的使用論,最近はウェブサイトに関して問題となることも多いです。特に,広告関係ですね。

 本件で問題となったディスクリプションメタタグ,タイトルタグでの使用については,従来から裁判例がありました。

⇒中古車の110番事件・大阪地裁平成17年12月8日判決・判時1934号109頁。

⇒IKEA事件・東京地裁平成27年1月29日判決・判時2249号86頁。

 本判決は,キーワードメタタグでの使用が,需要者に表示されない点で,商標的使用ではない=使用してOKという点で新しい判決です。

比較サイトによる誤認惹起行為ーステマサイト事件・大阪地裁平成31年4月11日判決

大阪地裁平成31年4月11日判決・裁判所web

【事案の概要】

 X及びYはいずれも,外壁塗装リフォーム業者である。
 Yは平成24年1月ころ,ウェブサイト制作業者であるAに対し,口コミサイト(以下「本件サイト」という)の制作を依頼し,本件サイトは平成24年3月5日に公開された。本件サイトでは,Yがランキングの1位と表示されている。
 Xはサーバー管理者に対する発信者情報開示請求,Aに対する訴訟等を経てY自身が本件サイト制作の依頼者であることを特定した。
 そこで,XはYに対し,同業者であるYが,自ら管理・運営する本件サイトにおいて,Yをランキングの1位と表示したことは,Yの提供するサービスの質,内容が全国の外壁塗装業者の中で最も優良であるとして高く評価されているかのような表示をしていた点で,不正競争(役務の質,内容について誤認させるような表示)に該当するとして,不正競争防止法4条に基づき,損害賠償を請求した。弁護士費用等,一部について認容。

【判 旨】

そもそもYへの口コミが虚偽のものである場合,例えば,Yが自ら投稿したものであったり,形式的には施主又は元施主(以下「施主等」という。)からの投稿であったとしても,その意思を反映したものではなかったりなどする場合は,本件サイトの表示上のYへの口コミの件数及び内容をそのままのものとして受け取ることが許されなくなり,その結果,本件ランキング表示とのかい離があるということとなる。
…Yは施主等からの投稿日を変更しようとする作為的な態度を示していたことからすると,Yは,架空の投稿を相当数行うことによって,ランキング1位の表示を作出していたと推認するのが相当である。…以上からすると,本件サイトにおけるYがランキング1位であるという本件ランキング表示は,実際の口コミ件数及び内容に基づくものとの間にかい離があると認められる
「そして,本件サイトが表示するようないわゆる口コミランキングは,投稿者の主観に基づくものではあるが,実際にサービスの提供を受けた不特定多数の施主等の意見が集積されるものである点で,需要者の業者選択に一定の影響を及ぼすものである。したがって,本件サイトにおけるランキングで1位と表示することは,需要者に対し,そのような不特定多数の施主等の意見を集約した結果として,その提供するサービスの質,内容が掲載業者の中で最も優良であると評価されたことを表示する点で,役務の質,内容の表示に当たる。そして,その表示が投稿の実態とかい離があるのであるから,本件ランキング表示は,Yの提供する「役務の質,内容…について誤認させるような表示」に当たると認めるのが相当である。」

【コメント】

(1)需要者(消費者)に対する誤認混同

 今日,商品の販売促進において,インターネット上の口コミが重要であることは周知のとおりです。しかし,本件のようにいわば自作自演のサイトを作ると,同業者から損害賠償請求を受けることがある,という教訓です。また,そのようなサイトを運営すると,別途,景品等表示法違反として消費者庁から措置命令を受けるおそれがあります。

(2)口コミサイトを名誉毀損で戦うことの困難性

 本件では不正競争防止法の誤認混同が認められていますが,Xは名誉毀損も同時に主張していました。

 しかし,口コミはあくまで単なる感想,主観的意見にすぎず,事実の摘示ではないため,なかなか名誉毀損のフィールドでは戦いづらいです。たとえば,飲食店の口コミサイトで「まずい」「おいしくない」と書かれたとしても,「おいしい」かどうかは食べた人の主観的な評価にすぎないため,難しいですね(中には,口コミサイトのランキング下位に記載したことを名誉毀損と認めた裁判例もありますが)。

 翻って,本件の事案で不正競争防止法の誤認混同を主張し,認定を勝ち取った原告代理人は本当にセンスのいい,すばらしい先生だと思います。

宗教的人格権の侵害ー秘仏写真事件・徳島地裁平成30年6月20日判決

徳島地裁平成30年6月20日判決・判時2399号
【事案の概要】
 原告は,四国にある88か所の寺院の霊場会(以下X1といいます。),及び2つの寺院である(以下,X2,X3といいます。)。被告Yは写真家である。
 各札所の本尊は信仰の対象であり,秘仏として一般には非公開のものが多く,開扉の機会が限られ,容易には拝観することができないものも相当数ある。X2及びX3の本尊も秘仏とされており,X3の本尊は60年に1回しか開帳されていない。平成12年12月ころ,NHKがYの番組を制作するにあたり,X1は取材に協力することを決定した。かかる番組制作の過程で,YはX2,X3の本尊を撮影した(以下,本件写真といいます。)。
 その後,Yは本件写真を,X2,X3に無断で,自己の写真展等で公開し,本件写真を収録した書籍等を出版した。なお,YはX1に対して著作権侵害を理由に1億7600万円の損害賠償を求めるも,これを棄却する判決が確定している。
 XらはYに対し,契約違反,宗教的人格権侵害の不法行為,不正競争防止法違反等を理由に,損害賠償の他,本件写真のネガフィルム・電子データ及びこれらを用いた御影・書籍・商品の廃棄を求めて出訴した。これらの廃棄を含め,一部認容。

【判 旨】
「本件写真2は広く頒布されることまでを想定して撮影が許可されたものではなく,また,本件写真67はX3に無断で撮影されたものであり,いずれも一般に公開されたり,広く一般に流布されたりすることを認めていたわけではない。そして,Xら寺院は,いずれも本尊を秘仏とし,X2については定期点検を行う調査員以外の第三者に公開せず,また,X3ついても60年に1回公開するのみであり…,このような原告ら寺院における信仰の対象としての本尊の重要性に鑑みれば,Xら寺院の意図に反して,Yが本件写真2及び本件写真67を使用し,これを一般に公開したり,広く一般に流布したりすることは,X2及びX3の宗教上の人格権を侵害する不法行為に該当するものといえる。」なお,不正競争防止法違反は否定。

【コメント】

(1)肖像権等との関係

 物に対する所有だけでなく,その写真の流通といった情報を管理することは,広い意味で知的財産権の問題といえます。

 写真を捕捉するのは,人の写真であれば肖像権やプライバシーの問題です。芸能人の写真の経済的価値に関しては,パブリシティ権と呼ばれる問題です。

法廷画事件・最高裁平成17年11月10日判決

⇒ピンクレディー事件・最高裁平成24年2月2日判決

 しかし,物に肖像権もパブリシティ権もありません。

ギャロップレーサー事件・最高裁平成16年2月13日判決

 本件で問題となった仏像にも,肖像権はありません。そこで本判決が認定しているのが宗教的人格権というものです。

(2)宗教的人格権

 信教の自由は,憲法で保障される重要な権利です。本判決は,お寺が秘仏として一般に公開していない本尊を,お寺が許諾した範囲を超えて使用することは,宗教的人格権に違反するとしました。損害賠償のみではなく,ネガ・データ及び商品の廃棄を命ずる強烈な判決です。
 さて,最近宇治の平等院が,平等院のジグソーパズルを販売している会社を提訴したというニュースがありました。文化財としての価値を毀損したという理由のようですが,本件のいう宗教的人格権とは違います。平等院は営利目的での写真撮影を禁じているようですが,平等院自体は公開しています。裁判所の判断が注目されます。

 なお,宗教的人格権といえば,エホバの証人の輸血拒否事件が有名です。

⇒エホバの証人輸血拒否事件・最高裁平成12年2月19日判決

プログラム,顧客データの秘密管理性―出会い系サイト事件・大阪地裁平成20年6月12日判決

プログラム,顧客データの秘密管理性―出会い系サイト事件・大阪地裁平成20年6月12日判決・裁判所Web

【事案の概要】

出会い系サイトを運営する原告が,もと従業員とその転職先の被告らに損害賠償を請求した事件。原告は,もと従業員が自身の出会い系サイトのプログラムと顧客情報(営業秘密)を持ち出して使用していると主張。

【判 旨】

(1)本件プログラム
「 (イ) 本件プログラムは,上記のインターネットサーバー内に格納されているが,それをダウンロードするためには,サーバーへログインするためのIDとパスワードが必要であり,それを有していたのは原告ら代表者とP2のみであった。」

「 (ウ) 原告…は…合計4社に対して,本件プログラムの使用許諾契約を締結したが,そこでは,①被許諾者は使用料を支払うこと,②被許諾者は,プログラムの使用権の譲渡又は再使用の許諾,プログラムの化体した物,関連資料,マニュアル等の複製,プログラムの機密又は知識の漏洩,原告イープランニングの指定したサーバー以外のサーバーにおけるプログラムの使用及びサーバーの設置場所の移転を禁じられていた…。」

「…本件プログラムは,…さらに,原告社内でもアクセスできる者が限られていたのであるから,「秘密として管理されている」ものと認められる。」

(2)本件顧客データについて

「(イ) 原告イープランニングと原告マテリアルとが運営する各出会い系サイトは異なるが,代表者は同一人であり,双方の従業員が双方の業務を行うなど,両サイトは事実上一体として運営されていた。
 (ウ) 本件顧客データのうち,会員登録された顧客のメールアドレスは,勧誘メールや返信メールを送信する宛先となるメールアドレスであり,また,会員の入金額,所有ポイント及び入力前ポイントからは,当該会員がサイトを利用する程度を知ることができる。
 (エ) 原告らの従業員には,IDとパスワードが与えられており,社内のパソコンから本件顧客データを含むデータベースにアクセスするには,IDとパスワードが必要であった。
   イ 上記事実に基づき,本件顧客データが法2条6項にいう「営業秘密」に当たるか否か検討するに,本件顧客データは,出会い系サイトに会員として登録する顧客のメールアドレスとその利用程度を知ることができる情報であるから,「事業活動に有用な営業上の情報」に当たることが明らかである。そして,本件顧客データが特に公知になっていたことも窺われないから,「公然と知られていないもの」と認められ,さらに,本件顧客データにアクセスするためには,IDとパスワードが必要であったのであるから,「秘密として管理されている」ものと認められる
 したがって,本件顧客データは,原告イープランニングの営業秘密であると認められる。」

「(管理がずさんな状態が)…が常態化し,かつ原告ら代表者らがそれを知りながら放置し,結果として原告ら社内におけるIDやパスワードの趣旨が有名無実化していたというような事情があればともかく,そのような事情が認められない限り,なお秘密管理性を認めるに妨げはないというべきである。そして,本件ではそのような事情は認められない。」

(3)転職先の使用者責任

「被告Y1は,P1,被告Y3及び被告Y2の使用者であり,被告Y3らが原告イープランニングから取得した本件プログラム及び原告らから示された本件顧客データを被告らサイトにおいて使用する行為が,被告Y1の事業の執行につきなされたものであることは明らかである。この点について被告Y1は,本件プログラムを取得する行為は,事業の執行につきなされたものではないと主張する。しかし,その取得行為自体は事業の執行としてなされたものではないとしても,それを被告らサイトにおいて使用する行為は,被告Y1の事業の執行につきなされたものにほかならない。」

【コメント】

 顧客データの秘密管理性について,IDとパスワード管理があることから秘密管理性を認めています。

 この点,印刷顧客情報事件では,顧客情報は営業担当者個人に帰属する部分との区別が問題となりました。

印刷顧客情報事件・東京地裁平成24年6月11日判決

 この差は何なんでしょう??

 出会い系サイトの顧客情報は,サイトに登録してくれる個人(ユーザー)の情報であって,BtoBビジネスの営業担当者が足で稼いだ顧客情報とは異なる!というあたりではないでしょうか。

 一口に顧客情報,といっても,業種や顧客の属性によって秘密管理性のハードルは違う,ということだと思います。

 

 それから,本判決の重要なところとして,転職先の会社の責任も認められています。転職者を受け入れる企業としては,こういうリスクがありますから,前職の情報が混入しないように注意する必要がありますね。

顧客名簿の秘密管理性ー印刷顧客名簿事件・東京地裁平成24年6月11日判決

顧客名簿の秘密管理性ー印刷顧客名簿事件・東京地裁平成24年6月11日判決・判タ1404号323頁

【判 旨】

「本件顧客情報のうち,顧客の氏名,電話番号等の連絡先に係る部分については,被告A等の営業担当者が営業活動を行い,取得して事業主体者たる原告に提供することにより,原告が保有し蓄積することとなる性質のものであって,営業担当者が複数回にわたり営業活動を行うことなどにより,当該営業担当者と顧客との個人的信頼関係が構築され,または個人的な親交が生じるなどした結果,当該営業担当者の記憶に残るなどして,当該営業担当者個人に帰属することとなる情報と重複する部分があるものということができる。そうすると,このような,個人に帰属する部分(個人の記憶や,連絡先の個人的な手控えとして残る部分)を含めた顧客情報が,退職後に当該営業担当者において自由な使用が許されなくなる営業秘密として,上記就業規則所定の秘密保持義務の対象となるというためには,事業主体者が保有し蓄積するに至った情報全体が営業秘密として管理されているのみでは足りず,当該情報が,上記のような個人に帰属するとみることのできる部分(個人の記憶や手控えとして残る部分)も含めて開示等が禁止される営業秘密であることが,当該従業員らにとって明確に認識することができるような形で管理されている必要があるものと解するのが相当である。」
「…そこで,原告における顧客情報の管理についてみると,原告は,…就業規則において,取引会社の情報に関する漏えいの禁止,取引先,顧客等の個人情報の正当な理由のない開示・利用目的を超えた取扱い・漏えい等の禁止を定め,上記就業規則の遵守に関する誓約書を,被告Aらを含めた従業員から提出させていたことが認められる。しかし,他方で,本件顧客情報の記載された本件顧客名簿については,原告事務室内の経理担当者の机に常時備え置いており,本件顧客データの保存されたコンピュータについても,パスワードの設定等はしていなかったというのであって(原告代表者,被告A,被告C),本件顧客名簿を原告従業員が閲覧,複写したり,本件顧客データに原告従業員がアクセスしたりすることが禁止されるなどしていたことはうかがわれない。また,営業を担当していた被告Aにおいても,顧客の連絡先等の情報を手元に残さないよう指導を受けていた事実などをうかがうことはできず,同被告が原告を退職するに当たり,原告が,被告Aに対し,顧客の連絡先等の手控えの有無を確認し,その廃棄を求めたり,従前の営業先に接触しないよう求めたりした事実も認められない。
「…そうすると,原告における顧客情報の管理体制は,顧客の連絡先の手控え等までもが,雇用契約上開示等を禁じられるべき営業秘密に当たることを当該従業員らに明確に認識させるために十分なものであったとはいえず,本件顧客情報のうち,個人の記憶や連絡先の個人的な手控えなどに係る情報については,雇用契約上,開示等を禁じられる営業秘密に当たるとみることはできず,営業担当者が,これをその退職後に利用することがあったとしても,原告との間の雇用契約上の義務に反し,または,不法行為を構成するものではないというべきである。」

【コメント】

営業秘密3要件の内,最もよく問題になるのが秘密管理性です。

本件では特に顧客名簿の秘密管理性が問題になりました(本当は論点が多岐にわたり,一部認容されている判決ではあります)。

顧客名簿とひとことで言っても,業種や顧客の属性によっていろいろなものがあるでしょう。本件で問題になったのは,営業担当者がいわば足で集めた顧客情報です。これは会社のか当該担当者個人のものか,区分が難しいですね。

判決は「(個人の記憶や手控えとして残る部分)も含めて開示等が禁止される営業秘密であることが,当該従業員らにとって明確に認識することができるような形で管理されている必要がある」としました。

法的見解の表明・新・ゴーマニズム宣言事件ー最高裁平成16年7月15日判決

法的見解の表明・新・ゴーマニズム宣言事件ー最高裁平成16年7月15日判決・民集58巻5号1615頁

【判 旨】

ロス疑惑夕刊フジ事件・最高裁平成9年9月9日判決を引用した上で,)

「そして,上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値,善悪,優劣についての批評や論議などは,意見ないし論評の表明に属するというべきである。」

「上記の見地に立って検討するに,法的な見解の正当性それ自体は,証明の対象とはなり得ないものであり,法的な見解の表明が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項ということができないことは明らかであるから,法的な見解の表明は,事実を摘示するものではなく,意見ないし論評の表明の範ちゅうに属するものというべきである。また,前述のとおり,事実を摘示しての名誉毀損と意見ないし論評による名誉毀損とで不法行為責任の成否に関する要件を異にし,意見ないし論評については,その内容の正当性や合理性を特に問うことなく,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,名誉毀損の不法行為が成立しないものとされているのは,意見ないし論評を表明する自由が民主主義社会に不可欠な表現の自由の根幹を構成するものであることを考慮し,これを手厚く保障する趣旨によるものである。そして,裁判所が判決等により判断を示すことができる事項であるかどうかは,上記の判別に関係しないから,裁判所が具体的な紛争の解決のために当該法的な見解の正当性について公権的判断を示すことがあるからといって,そのことを理由に,法的な見解の表明が事実の摘示ないしそれに類するものに当たると解することはできない。
 したがって,一般的に,法的な見解の表明には,その前提として,上記特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと解されるため事実の摘示を含むものというべき場合があることは否定し得ないが,法的な見解の表明それ自体は,それが判決等により裁判所が判断を示すことができる事項に係るものであっても,そのことを理由に事実を摘示するものとはいえず,意見ないし論評の表明に当たるものというべきである。」

【コメント】

(1)事実と意見の区別,法律上の見解

事実と・意見・論評との区別は,ロス疑惑夕刊フジ事件・最高裁平成9年9月9日判決が「証拠等を以てその存否を決することが可能」かどうかという基準を立てていました。

ロス疑惑夕刊フジ事件・最高裁平成9年9月9日判決

ところで,裁判所は証拠に基づいて事実を認定し,法律的な結論を出します。では,例えば「著作権を侵害している」というような法律的な見解は,「証拠等を以てその存否を決することが可能」な事実かどうか?という点が本件では問われました。

本判決は,事実ではなく,「意見ないし論評」に当たるとしました。

なんだか,民訴法でいうところの「法律上の主張レベル」と「事実の主張レベル」は違うんだ,という話と似てますね。刑法の「事実の錯誤」と「違法性の錯誤」問題とも似ています。

(2)「特定事項の主張」の「明示的又は黙示的に主張」

「一般的に,法的な見解の表明には,その前提として,上記特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと解されるため事実の摘示を含むものというべき場合があることは否定し得ないが,」・・・という個所は,

ロス疑惑朝日新聞事件・最高裁平成10年1月30日判決にいうところの,推論による特定の事実の主張のことでしょう。

推論記事による事実摘示ーロス疑惑朝日新聞事件・最高裁平成10年1月30日判決

一見すると法律上の見解を述べているのだけれど,文脈からして特定の事実を黙示に主張していると(一般読者が)読める,ということはありうるのでしょう。このときは,事実の摘示型の検討になります。

(3)不競法上は「事実」だけど,名誉毀損に関しては「事実」でない??

最近出た「メディア判例百選(第2版)」の解説(同書75頁)にも指摘があるのですが,不競法との関係で難しい問題を孕んでいます。

「知的財産権を侵害しています!」という警告は,不競法上「事実」の告知に当たります。が,本判決によれば名誉毀損との関係では「事実」ではないのです。

適用場面が異なるので,直ちに矛盾するわけではないのですが,気持ち悪いことは気持ち悪いですね。

(4)その他

ちなみに,本判決(新・ゴーマニズム宣言事件)は,著作権の勉強をしていると,同一性保持権のところで出てくる「脱・ゴーマニズム宣言事件」の後日談になる事件です。

ラグナロクオンライン信用毀損事件・東京地裁平成19年10月23日判決

ラグナロクオンライン信用毀損事件・東京地裁平成19年10月23日判決・判時2008号109頁

【事案の概要】

X社は,「ラグナロクオンライン」というオンラインゲーム(以下「本件オンラインゲーム」という。)を提供している会社である。YはX社の従業員であったが,X社の本件オンラインゲームの運営管理プログラムにアクセス権限もなくアクセスするという不正アクセス行為を行い,自らのキャラクターデータを改ざんしてゲーム内の仮想通貨である「Zeny」(以下「本件仮想通貨」という。)の保有量を増やし,それを,ゲーム内の仮想通貨やアイテムを現実の金銭で販売する業者に売却するなどした。そこで,X社はY社に対し,不法行為による損害賠償請求として,7486万2700円及び遅延損害金の支払いを求めた。

なお,Yは,本件アクセス権限を有していなかったが,施錠されていない上司の机に保管されていた同権限を有するYの上司のID等が書かれた紙片を盗み見て知った

また,X社は,本件仮想通貨の異常値を検出し,調査の結果,平成18年3月24日,Yが不正アクセスを行っていたことを確認し,警察に被害届を提出し,同年7月19日,Yを懲戒解雇とし,翌日,本件の経緯について記者発表を行った。 

Yは,本件に関し,不正アクセス行為の禁止等に関する法律違反で起訴され,同年10月24日に,懲役1年,執行猶予4年の有罪判決を受けた。

【判 旨】

「 2 不法行為該当性について
 …こうしたYの行為は,X社の本件オンラインゲームの管理権及び本件仮想通貨を含むゲームシステムやX社の管理体制などに対する信用を害する行為であり,X社との関係で不法行為を構成するものといえる。」
「 3 損害について
  (1) 信用毀損について
 信用毀損にかかる損害について検討する。
 まず,X社は,上記信用毀損により,平成18年7月の本件オンラインゲームのゲーム課金収入並びに同月及び同年8月の関連商品の売り上げが減少したと主張し,…それぞれ収入が減少したこと自体は認められる。
 しかし,Yの行為により,X社の信用が毀損されれば一定程度X社の本件オンラインゲームによるゲーム課金収入等が減少するであろうことが窺われるとしても,本件オンラインゲームの課金収入及び関連商品の売り上げといったものは,その性質上,その時々の状況に大きく左右される性質を有するものであることは明らかであって(実際に,平成18年中,X社が指摘した以外の月においても課金収入及び関連商品の売り上げも月毎に数百万円から数千万程度減少している場合もある。甲14),これらの収入の減少を直ちにYの信用毀損と因果関係を有する損害と見ることはできない
 なお,Yが本件仮想通貨をRMT業者に売却して得た利益の総額は本件証拠上必ずしも明らかではないが,一定の利益を得ていたこと自体は認められる。
 しかし,仮にYにおいて不正アクセス行為によって得た本件仮装通貨を売却して一定の利益を得ていたとしても,自らが禁じている不正な行為によって生じた利益をX社が受ける根拠はなく,Yが利益を得たことによりX社が得られるはずの利益を失ったことにはならない。したがって,これらの利益を得たことを直ちにX社の損害とするとか,かかる利益をX社に得させる理由はないのであって,X社が本件において一定の利益を得ていたとの事実は,信用毀損による無形損害の額を算定するについて,1つの事情として考慮される余地があるにとどまるというべきである。
 そうすると,一般的なテレビゲーム等と異なり,上記本件オンラインゲームは,管理者であるX社の継続的なゲームシステムの維持を前提とし,それについて適切な管理が期待されていること,本件当時,本件オンラインゲームの会員数は150万人程度であり,ユーザーに対する影響は相当大きいと考えられること,実際に,ユーザーからの苦情も複数寄せられていたこと(甲11),上記のように直ちにそれらがYに行為と因果関係を有するとまではいえないとしても,実際に信用毀損によりゲーム課金収入等に悪影響があったであろうこと,本件について多くの報道がされる(甲7の1から3,甲8)などしたため本件オンラインゲームのユーザー以外に対しても一定の影響があったと考えられること,一方ゲーム課金収入は,平成18年9月には,平成18年1月から9月までの中で最高額となり,関連商品の売り上げも同水準まで回復していること(甲14),その他本件に顕れた一切の事情を総合すれば,信用毀損に関する損害額としては300万円をもって相当と認める。
  (2) 営業利益について
 甲15の1,2,甲16の1,2及び弁論の全趣旨によれば,X社が,2件の商談を抱えていたことは認められるが,これらが契約締結交渉の段階を超えて,Yによる不法行為がなければ契約締結が確実であったとか,かかる商談からX社が主張するような利益が生じることが確実であったと見るべき証拠もない(Yにおいてかかる事実を認識していたとか,認識すべきであったとかともいえない。)。」

【コメント】

(1)本件不正アクセス→信用毀損の損害

 一昔前,ラグナロクオンラインの不正アクセス事件については多くの報道がされていましたから,記憶に残っている方も多いかと思います。

 この手の営業秘密漏洩事件の教訓はいつも,秘密を秘密として管理しましょう!ということです。そうしないと,たとえ何億円の損害を被っても,本件のように重大な商談が破談になっても,判決にあるのように「一切の事情を総合すれば,信用毀損に関する損害額としては300万円」とされてしまいます。不正アクセスがあってからでは遅いのです。

 本件でYは「施錠されていない上司の机に保管されていた同権限を有するYの上司のID等が書かれた紙片を盗み見て知った。」というのです。これでは,不正競争防止法上の「営業秘密」とは認められないでしょう。しっかりガードするためには,経産省の「営業秘密管理指針」を必ず読んでください。

(2)準事務管理的な話

 本件でX社はYがデータの不正売買で得たとされる5000万円以上の金額を損害として主張していますが,「自らが禁じている不正な行為によって生じた利益をX社が受ける根拠はなく,Yが利益を得たことによりX社が得られるはずの利益を失ったことにはならない」として認められませんでした。

 このように,不正に利益を得たお金を返してください,という請求を学説上「準事務管理」といいますが,このような請求は実務上なかなか認められません。

 ただし,実は不正競争防止法には似たような規定(同法5条2項)があり,X社の管理するデータが「営業秘密」と言えた場合,もっと請求が認められたかもしれません。やはり,「施錠されていない上司の机に保管されていた同権限を有するYの上司のID等が書かれた紙片」が置いてある状況ではだめなのです。

マリカー事件・東京地裁平成30年9月27日判決

東京地裁平成30年9月27日判決

(1)事案の概要

 任天堂株式会社(以下「X社」といいます。)は,「平成4年8月27日,ゲーム機種スーパーファミコン用のゲームソフトとして「スーパーマリオカート」を発売し,平成26年5月29日までの間に,合計8本の「マリオカート」シリーズのゲームソフトを販売した。」Y社[1]は,「設立時である平成27年6月4日から,少なくとも平成28年6月23日まで間,MariCAR」との屋号を用いて,公道を走行することが可能なカート…のレンタルとそれに付随する事業…を営んでいた。」Y社はレンタル事業に関するチラシに「『マリカーは,普通免許で運転できる一人乗りの公道カートのレンタル&ツアーサービスです。』」等と記載した。また,「『マリオ』,『ルイージ』,『ヨッシー』,『クッパ』等のコスチュームを着用した従業員が公道カートに乗車して利用者を先導することより,ガイドを勤めていた」り,店舗内入り口付近に「身長120㎝ほどの『マリオ』の人形」が設置されたりした。

 X社はY社に対し,不正競争防止法及び著作権侵害に基づき,差止めと損害賠償を請求した。差止の一部と損害賠償の全額(1000万円)を認容。

(2)判決要旨

「『マリカー』は,①ゲームソフト『マリオカート』の略称として,遅くとも平成8年頃には,ゲーム雑誌において使用されていて…,②少なくとも平成22年頃には,ゲームとは関係性の薄い漫画作品においても何らの注釈を付することなく使用されることがあったこと…,③Y社が設立される前日である平成27年6月3日には,その一日をとってみても,『マリオカート』を『マリカー』との略称で表現するツイートが600以上投稿されたこと…が認められる。また,Y社の設立後においても,テレビ番組においてタレントが,子供の頃から原告のゲームシリーズである『マリオカート』の略称として『マリカー』を使用していたと発言し…,本件訴訟提起に係る報道が出された後には,複数の一般人から,Y社の社名である『マリカー』が原告のゲームシリーズ『マリオカート』を意味するにもかかわらず,Y社が原告から許可を得ていなかったことに驚く内容の投稿がされた事実が認められる…。」

「これらの事実からすると,…マリカーは,広く知られていたゲームシリーズである『マリオカート』を意味する原告の商品等表示として,…遅くとも平成22年頃には,日本全国のゲームに関心を有する者の間で,広く知られていたということができる。」

Y社は,『マリカー』の標準文字からなる本件商標を有しており,『マリカー』という標章を使用する正当な権限を有するから,不競法3条1項に基づく差止請求は認められない旨主張する。しかしながら,Y社が本件商標の登録を出願したのは平成27年5月13日であるところ…その5年程度前である平成22年頃には,既に原告文字表示マリカーは原告の商品を識別するものとして需要者の間に広く知られていたということができる。…原告に対して,Y社が本件商標に係る権利を有すると主張することは権利の濫用として許されないというべきである。」

(3)解説と考察

判決文中にもあるように,「マリカー」はY社の商標として商標登録されており,任天堂は商標登録を阻止できませんでした[2]しかし,Y社が「マリカー」を使用してカートのレンタル事業を営む一定の行為は,不正競争防止法により阻止されました。その意味するところは,商標法と不正競争防止法とは法律の目的が絶妙に異なり,適用範囲も絶妙に違う,ということです。これが本判決の到達点です。

 フランク三浦の商標登録を阻止できなかったフランクミュラーは,不正競争防止法で「フランク三浦」の時計販売を差止められるかもしれません。

フランク三浦事件知財高裁判決・知財高裁平成28年4月12日判決

[1] 「平成27年6月4日の設立時から平成30年3月21日まで,「株式会社マリカー」との商号を用いていたが,同月22日付けで,その商号を「株式会社MARIモビリティ開発」に変更した」

[2] 特許庁・異議2016-900309

ポイント解説!「AI・データ利用に関する契約ガイドライン」

1 はじめにーこのガイドラインを読んでおくべき人

 先日,経済産業省が「AI・データ利用に関する契約ガイドライン」を発表しました。後記のように,「データ編」と「AI編」からなる大作のガイドラインなのですが,

 まずはじめに申し上げたいことは,次の項目に心当たりのある方は,本ガイドラインを是非チェックしておいていただきたい,ということです。

 ご入用であればセミナーを実施いたしますので,お気軽にお問合せください。

IT企業の経営者,法務担当者,技術者の方→「データ編」「AI編」の両方

IT企業にシステム開発等を依頼する方→「データ編」

・秘密保持契約のひな型を探している方→「AI編」の秘密保持契約の箇所

 

2 全体の構成と特徴

 本ガイドラインは,「データ編」と「AI編」の2部構成からなり,それぞれに契約書のひな型がついてます。

 「データ編」では,データの取引を伴う契約を①データ提供型,②データ創出型,③データ共用型の3類型に分け,理解に必要な知識と契約書の文例を紹介しています。

 「AI編」ではAI理解のための基本的な知識を解説した上で,AIを用いた開発の序盤~終盤まで,開発の各段階に応じた契約書を提唱しています。

 実務的に非常に使えるところとしては,「データ編」,「AI編」ともに契約書のひな型を提示してくれている点です。当たり前ですが,非常にできのいいものになっております。

 公正取引委員会のチェックも受けているようで,このひな型にそったかたちで契約をすれば,独占禁止法上の問題も回避できるという優れものです。

 

3 蛇足ーこのガイドラインの来歴と雑感

 巷では「第四次産業革命」と呼ばれる,IT業界を中心とした,AIをはじめとする技術革新が起こっています。日経新聞を読んでいても,「AI」の文字を見ない日はないくらいですね。

 政府も対応を急いでおり,昨年は内閣府の中にある「新たな情報財検討委員会」が報告書を出しました。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2017/johozai/houkokusho.pdf

 この報告書の中に,不正競争防止法の改正とともに,AI関係のガイドラインを出す,ということが盛り込まれています。

 この報告を受けて,今年出されたのが本ガイドラインです。IT系の弁護士としては,「待ってました!」という感じです。

 ざっと読んでみて,技術革新の起きているこの分野で法律相談を受けるには,

・知的財産法

・プライバシー,個人情報

のみならず,

・独占禁止法

・ITの知識

等,いろいろと複合的な知識が必要になってくるな,と痛感しています。

この機会をあらたなチャンスととらえて,私も精進してく次第です。

ヤフオク!におけるクラック版ソフトの出品と著作権侵害・東京地裁平成30年1月30日判決

東京地裁平成30年1月30日判決・裁判所Web・ジュリ1521号8頁
(1)事案の概要
Xは「建築CADソフトウェア「DRA-CAD11」(以下「本件ソフトウェア」といいます。)について著作権及び著作者人格権を有し,また「DRA-CAD」の商標権を有している。Yは,Xの許諾なしに本件ソフトウェアをダウンロード販売すると共に,本件ソフトウェアのアクティベーション機能 を回避するプログラム を顧客に提供していた。XはYに対し,著作権及び著作者人格権の侵害,商標権の侵害,不正競争防止法を根拠に,損害賠償金2812万9500円の一部である1000万円等の支払を求めた。請求一部認容(969万5700円)。

(2)判決要旨
「上記事実によれば,①Yは,ヤフオクにおいて,あくまで「DRA-CAD11」建築設計・製図CAD自体をオークションの対象物と表示して出品しており,「商品説明」欄には「DRA-CAD11」,「注意事項」欄には「ダウンロード品同等」「インストール完了までフルサポートさせて頂きます」,「発送詳細」欄には「ダウロード販売」と記載されていたこと,②かかる表示を見てオークションに入札した顧客も,当然,本件ソフトウェアを安価に入手する意図で入札を行ったと推認できること,③Yは,顧客に対し,本件ソフトウェア及びそのアクティべーション機能を担うプログラムのクラック版(いずれもXの無許諾)のダウンロード先をあえて教示し,かつこれらの起動・実行方法を教示するマニュアル書面を提供し,その結果,顧客が,本件ソフトウェア(無許諾品)を入手した上,本件ソフトウェアで要求されるアクティベーションを回避してこれを実行することができるという結果をもたらしており,Yの上記行為は,かかる結果を発生させるのに不可欠なものであったこと,④Yは,営利目的でかかる行為を行い,…多額の利益を得ていること,以上の事実が認められる。」「これらの事情を総合すれば,上記…の一連の経過により,Yは,本件ソフトウェアの一部にXの許諾なく改変(アクティベーション機能の回避)を加え…,同改変後のものをダウンロード販売したものと評価できるから,Yは,Xの著作権…並びに著作者人格権…権)を侵害したものと評価すべきであり,これに反するYの主張は採用できない。」

(3)コメント
 ソフトウェアには著作権があり,ソフトウェアの販売とはつまるところ著作権のライセンス契約になります。オークションサイトには多数ソフトウェアが出品されており,出品形態もいろいろ です。中には「これ違法じゃないかな?」という出品もあり,本件で見たように違法な場合もあります。
 本判決の意義は,著作権を侵害しているのは(買った人ではなく)ソフトウェアを出品している販売業者だと認定したことです。すなわち,「シリアルナンバー入力を回避しているのは買った人なんだから,うちは関係ありません」という言い訳が立たないことを示したのです。

 この点は,近時のまねきTV事件との関係が注目されます。ばかりか,個人的には,(少し古いですが)ときめきメモリアル事件とも対比検討が熱い事件だと考えています。

⇒まねきTV事件・最高裁平成23年1月18日判決

ときめきメモリアル事件・最高裁平成13年2月13日判決

令和元年10月1日追記

ソフトウェアの改変に関する商標権侵害について,脱獄iPhone事件参照。

脱獄iPhone刑事事件・千葉地裁平成29年5月1日判決