プロ責法

比較サイトによる誤認惹起行為ーステマサイト事件・大阪地裁平成31年4月11日判決

大阪地裁平成31年4月11日判決・裁判所web

【事案の概要】

 X及びYはいずれも,外壁塗装リフォーム業者である。
 Yは平成24年1月ころ,ウェブサイト制作業者であるAに対し,口コミサイト(以下「本件サイト」という)の制作を依頼し,本件サイトは平成24年3月5日に公開された。本件サイトでは,Yがランキングの1位と表示されている。
 Xはサーバー管理者に対する発信者情報開示請求,Aに対する訴訟等を経てY自身が本件サイト制作の依頼者であることを特定した。
 そこで,XはYに対し,同業者であるYが,自ら管理・運営する本件サイトにおいて,Yをランキングの1位と表示したことは,Yの提供するサービスの質,内容が全国の外壁塗装業者の中で最も優良であるとして高く評価されているかのような表示をしていた点で,不正競争(役務の質,内容について誤認させるような表示)に該当するとして,不正競争防止法4条に基づき,損害賠償を請求した。弁護士費用等,一部について認容。

【判 旨】

そもそもYへの口コミが虚偽のものである場合,例えば,Yが自ら投稿したものであったり,形式的には施主又は元施主(以下「施主等」という。)からの投稿であったとしても,その意思を反映したものではなかったりなどする場合は,本件サイトの表示上のYへの口コミの件数及び内容をそのままのものとして受け取ることが許されなくなり,その結果,本件ランキング表示とのかい離があるということとなる。
…Yは施主等からの投稿日を変更しようとする作為的な態度を示していたことからすると,Yは,架空の投稿を相当数行うことによって,ランキング1位の表示を作出していたと推認するのが相当である。…以上からすると,本件サイトにおけるYがランキング1位であるという本件ランキング表示は,実際の口コミ件数及び内容に基づくものとの間にかい離があると認められる
「そして,本件サイトが表示するようないわゆる口コミランキングは,投稿者の主観に基づくものではあるが,実際にサービスの提供を受けた不特定多数の施主等の意見が集積されるものである点で,需要者の業者選択に一定の影響を及ぼすものである。したがって,本件サイトにおけるランキングで1位と表示することは,需要者に対し,そのような不特定多数の施主等の意見を集約した結果として,その提供するサービスの質,内容が掲載業者の中で最も優良であると評価されたことを表示する点で,役務の質,内容の表示に当たる。そして,その表示が投稿の実態とかい離があるのであるから,本件ランキング表示は,Yの提供する「役務の質,内容…について誤認させるような表示」に当たると認めるのが相当である。」

【コメント】

(1)需要者(消費者)に対する誤認混同

 今日,商品の販売促進において,インターネット上の口コミが重要であることは周知のとおりです。しかし,本件のようにいわば自作自演のサイトを作ると,同業者から損害賠償請求を受けることがある,という教訓です。また,そのようなサイトを運営すると,別途,景品等表示法違反として消費者庁から措置命令を受けるおそれがあります。

(2)口コミサイトを名誉毀損で戦うことの困難性

 本件では不正競争防止法の誤認混同が認められていますが,Xは名誉毀損も同時に主張していました。

 しかし,口コミはあくまで単なる感想,主観的意見にすぎず,事実の摘示ではないため,なかなか名誉毀損のフィールドでは戦いづらいです。たとえば,飲食店の口コミサイトで「まずい」「おいしくない」と書かれたとしても,「おいしい」かどうかは食べた人の主観的な評価にすぎないため,難しいですね(中には,口コミサイトのランキング下位に記載したことを名誉毀損と認めた裁判例もありますが)。

 翻って,本件の事案で不正競争防止法の誤認混同を主張し,認定を勝ち取った原告代理人は本当にセンスのいい,すばらしい先生だと思います。

ツイッターにおける肖像権侵害・新潟地裁平成28年9月30日

新潟地裁平成28年9月30日判決・判時2338号86頁

(1)事案の概要
Yはいわゆるプロバイダである。
氏名不詳者Zは,ツイッターにおいてXの画像(本件画像)を添付の上,自分の孫娘「D」が安保法制反対デモに連れて行かれ,熱中症で死亡したとの記事(本件投稿)を投稿した。XはYに対し,プロバイダ責任制限法に基づき発信者情報の開示を請求した。認容。
(2)判旨
「人は,みだりに自己の容姿を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有し,また,自己の容姿をみだりに公表されない人格的利益も有しているから(最高裁昭和…昭和44年12月24日大法廷判決…,最高裁平成…平成17年11月10日第一小法廷判決…),このような人格的利益を違法に侵害された者は損害賠償を求めることができる。」
「…Xの承諾を得ないで,上記…で認定した記載のある本件記事に添付して本件画像をツイッターで公開する(言い換えると,上記…のとおり多数の閲覧者がリツートできるようにする)ことは,Xの肖像権を侵害するとみるのが相当である。」
「Yは,本件画像はすでにウェブサービスで公開されていたのであるから,本件記事に添付して本件画像を公開することは,Xの肖像権を侵害するものではないと主張する。しかし,人格価値を表し,人格と密接に結びついた肖像の利用は,被撮影者の意思に委ねられるべきであり,ウェブサービスで本件画像が公開されていたからといって,このことから直ちにその方法に限定なく本件画像を公開できるとか,本件画像の公開について被撮影者であるXが包括的ないし黙示的に承諾していたとみることはできない。本件画像を添付した本件記事は,閲覧者をして,本件画像の被撮影者が本件発信者の孫である「D」であって,「D」はデモに連れて行かれて熱中症で死亡したと想起させるものであり,一般人であれば,自分の画像を死亡した他人として公開されることを包括的ないし黙示的に承諾するとは考え難い。このことは本件画像を公開した本件発信者においても容易に認識できたはずである。したがって,本件画像がすでにウェブサービスで公開されていたことを根拠とするYの主張は採用できない。」「…肖像権は,みだりに自己の容貌や姿態を撮影,公表されない権利であって,社会的評価の低下は肖像権侵害の成否に直接関係するものではない。」
(3)コメント
 「肖像権」という言葉は,私たちにもなじみのある言葉です。判例の言葉を借りれば,「みだりに自己の容姿を撮影されない」(京都府学連事件判決)「自己の容姿をみだりに公表されない」(法定画事件)権利のことです。本件は,そんな肖像権がインターネット,とりわけツイッターで問題になった事件です。インターネット上ので適当に拾ってきた写真画像を無断で利用する場合,既に他の「ウェブサービスで本件画像が公開されていたからといって」肖像権侵害にならないわけではありません。
 なお,写真には著作権も発生します。近時,特にTPP11の発行等の影響もあり,著作権の保護を厳しくする法改正が検討されています。インターネットで画像を利用する場合,商業利用のみならず,個人的な利用についても細心の注意が必要になってくる,そういう時代です。 

法廷画事件・最高裁平成17年11月10日判決

 肖像権に関する判例の到達点については,中島基至「スナップ写真等と肖像権をめぐる法的問題について」・判タ1433号5頁が秀逸です。

 

令和元年10月8日追記

近時,なりすましアカウント全体の削除を認める決定例がでました。

さいたま地裁平成29年10月3日決定・判時2378号22頁

法廷画事件・最高裁平成17年11月10日判決

法廷画事件・最高裁平成17年11月10日判決・民集59巻9号2428頁

【判 旨】

「(1) 人は,みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁参照)。もっとも,人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって,ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。」

「また,人は,自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当であり,人の容ぼう等の撮影が違法と評価される場合には,その容ぼう等が撮影された写真を公表する行為は,被撮影者の上記人格的利益を侵害するものとして,違法性を有するものというべきである。」

「(2) 人は,自己の容ぼう等を描写したイラスト画についても,これをみだりに公表されない人格的利益を有すると解するのが相当である。しかしながら,人の容ぼう等を撮影した写真は,カメラのレンズがとらえた被撮影者の容ぼう等を化学的方法等により再現したものであり,それが公表された場合は,被撮影者の容ぼう等をありのままに示したものであることを前提とした受け取り方をされるものである。これに対し,人の容ぼう等を描写したイラスト画は,その描写に作者の主観や技術が反映するものであり,それが公表された場合も,作者の主観や技術を反映したものであることを前提とした受け取り方をされるものである。したがって,人の容ぼう等を描写したイラスト画を公表する行為が社会生活上受忍の限度を超えて不法行為法上違法と評価されるか否かの判断に当たっては,写真とは異なるイラスト画の上記特質が参酌されなければならない。」

【コメント】

著名な京都府学連事件(最高裁昭和44年12月24日判決)を引用した上で,みだりに「自己の容ぼう等を撮影されない」利益のみならず,「自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益」も肯定したという点で非常に重要な判決です。

私自身,インターネットを介して写真を出されてしまった,という事件で,本判決をしょっちゅう引用します。

実際,インターネットにおける画像公開について,本判決を引用して肖像権侵害を認め,発信者情報の開示を命じている判決もあります。

新潟地裁平成28年9月30日判決・判時2338号86頁

本判決は「肖像権」という言葉は使っていませんが,本判決の判示は我々が「肖像権」といってイメージするような内容とそんなに違わないと思います。

また,肖像権はプライバシー権に含まれるか?という学術上の問題がありますが,実務上はあんまり気にしなくてもいいでしょう。

オンラインストレージの公開設定の「公然」性・大阪高裁平成29年6月30日判決

大阪高裁平成29年6月30日判決・判時2386号109頁

※わいせつ電磁的記録媒体陳列,リベンジポルノ刑事事件

(1)事案の概要

 原審以来,被告人の行為について,元交際相手である被害者に対する強要未遂罪が成立することに争いはない。

 さらに,被告人は,被害者の露出した胸部等の画像・動画のデータ(以下「本件データ」)を,自身のオンラインストレージに保存していたところ,これを公開設定にしたうえで,被害者に対して公開先のURLを送信した。この行為が,わいせつ電磁的記録媒体陳列罪,いわゆるリベンジポルノ等に当たるとして起訴された。

 争点は,本件データが,わいせつ電磁的記録媒体陳列罪及びリベンジポルノにおける「公然と陳列した」に当たるか否かである。原審はこれを肯定したが,本判決は否定した(同罪について逆転無罪)。

(2)判旨

「ところで,前記の○○サービスやその公開機能の仕組み等…によれば,a社ユーザーが,○○サービスに保存したデータをマイ○○内で公開設定した時点では,そのユーザーに公開URLが発行されるにすぎないから,公開設定されたデータを第三者が閲覧し得る状態にするには,公開設定に加え,公開URLを添付した電子メールを送信するなどしてこれを外部に明らかにするというa社ユーザーによる別の行為が必要となる(○○サービスに不正に侵入し,公開設定されたデータの公開URLを入手することは不可能ではないとしても,これは一般の者が容易に行えるものではない。)。そして,a社ユーザーが,公開URLを電子メールに添えて不特定多数の者に一斉送信したり,SNS上や自己が管理するホームページ上でこれを明らかにしたりすれば,その公開URLにアクセスした者が公開されたデータを閲覧することは容易な状態となるから,当該データの内容がわいせつな画像等に当たる場合には,これを「公然と陳列した」ものとして,わいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪等が成立すると考えられる。
 これに対し,本件では,被告人は,本件データを公開設定したが,その公開URLを電子メールに添えて送信した相手は被害者のみであり…,記録上,被害者以外の者に同URLを明らかにした事実はうかがわれない。そうすると,被告人が○○サービス内に記憶蔵置させた本件データを公開設定した時点では,その公開URLが発行されたにすぎないから,いまだ第三者が同URLを認識することができる状態になかったし,被告人が同URLを明らかにした相手は被害者のみであったため,ここでも第三者が同URLを認識し得る状態にはなかったというべきである。
 したがって,本件の場合,被告人が○○サービス内に記憶蔵置させ,本件データを公開設定したのみでは,いまだ同データの内容を不特定又は多数の者が認識することができる状態に置いたとは認められず同データの公開URLを電子メールに添付して被害者宛に送信した点についても,特定の個人に対するものにすぎないから,これをもって同データの内容を不特定又は多数の者が認識し得る状態に置いたと認めることもできない。結局,被告人は,本件データの内容を不特定又は多数の者が認識することができる状態に置いたとは認められないから,刑法175条1項前段及び画像被害防止法3条2項各所定の公然陳列罪は成立しないというべきである。」
「なお,いわゆるパソコンネットのホストコンピュータのハードディスクにわいせつな画像を記憶蔵置させる行為とわいせつ物の公然陳列に関する最高裁判所第三小法廷平成13年7月16日決定(刑集55巻5号317頁)の事案では,当該被告人の行為は,自ら開設,運営していたパソコンネットのホストコンピュータのハードディスクにわいせつ画像のデータを記憶蔵置させたことで完了しており,後は,不特定多数の会員が,自己のコンピュータを操作し,電話回線を通じて当該被告人のホストコンピュータのハードディスクにアクセスすれば,同データをダウンロードすることができる状態にあったというものである。また,児童ポルノのURLをホームページ上に明らかにした行為に関する最高裁判所第三小法廷平成24年7月9日決定(裁判集刑事308号53頁)は,当該被告人が,インターネット上にホームページを開設し,これを管理運営していた共犯者と,不特定多数のインターネット利用者に児童ポルノ画像の閲覧が可能な状態を設定しようと企て,共謀の上,第三者が開設していたインターネットの掲示板に児童ポルノ画像を記憶蔵置させていたことを利用し,その所在を特定するURLを一部改変して前記ホームページ上に掲載したという事案に関するもので,当該被告人が行ったのは改変URLのホームページ上への掲載であり,児童ポルノ画像は既に第三者が開設する掲示板に記憶蔵置されていたというものである。
 これらに対し,本件は,不特定多数の者が本件データを認識し得る状況になかった点で事実関係を異にするものであり,前記平成13年最高裁決定が示した「(刑法175)条が定めるわいせつ物を『公然と陳列した』とは,その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい,その物のわいせつな内容を特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも要しないものと解される」との判断を踏まえても,公然性は否定されると解するのが相当である。」

(3)コメント

 本判決は,わいせつ物公然陳列罪やリベンジポルノにおける「公然と陳列した」について,とりわけオンラインストレージの公開設定との関係で実務上意義があります。

 わいせつ物公然陳列罪における「公然と陳列した」については,本判決も引用する最高裁平成13年7月13日判決・刑集55巻5号317頁が判示しており,「その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くこと」に当たるかどうかが問われます。

 

 本判決はわいせつ物に関する刑事事件ですが,公然性を要件とする法律はたくさんあり,オンラインストレージの公開設定がこれを満たさないとした点については,他の法律の適用についても大変参考になります。少し乱暴ですが,インターネット上における「公然」って,いったいどこからでしょう??という問題の1つの答えです。

 例えば,民事のインターネット事件でよく使うプロバイダ責任制限法は「特定電気通信」,つまり不特定多数者に対するをインターネット通信を対象としています。要するに,知らない人から掲示板やSNSで誹謗中傷を受けた場合,同法で住所氏名の開示請求ができますが,個人のメールで誹謗中傷を受けたとしても開示請求ができません

 本判決を(多少乱暴に)応用すると,知らない人にオンラインストレージで侮辱的な文書を公開設定にされても,これを開示請求することは難しいでしょう。

 インターネット上の著作権侵害でよく使われる「公衆送信権」でも,同様のことがいえるでしょう。

推論する記事による事実摘示ーロス疑惑朝日新聞事件・最高裁平成10年1月30日判決

推論する記事による事実摘示ーロス疑惑朝日新聞事件・最高裁平成10年1月30日判決・集民187号1頁

(1)判旨

「新聞記事中の名誉毀損の成否が問題となっている部分において表現に推論の形式が採られている場合であっても、当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準に、当該部分の前後の文脈や記事の公表当時に右読者が有していた知識ないし経験等も考慮すると、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を右推論の結果として主張するものと理解されるときには、同部分は、事実を摘示するものと見るのが相当である。本件記事は、上告人が前記殺人被告事件を犯したとしてその動機を推論するものであるが、右推論の結果として本件記事に記載されているところは、犯罪事実そのものと共に、証拠等をもってその存否を決することができるものであり、右は、事実の摘示に当たるというべきである」

(2)コメント

インターネット上の名誉毀損について考えるとき,その投稿が事実を言っているのか,意見や感想にすぎないのか,区別する必要がありました。

事実と意見の区別ーロス疑惑夕刊フジ事件・最高裁平成9年9月9日判決

中には,「こいつが犯人ではないか?」等,推論するような投稿記事があります。これは事実でしょうか,意見でしょうか。

そういうときに使うのが本判例です。

名誉毀損事件ではやはり一般読者の基準,というのが大事ですね。

名誉毀損判断におけるインターネット上の掲示板の読み方 東京地裁平成20年10月27日判決

 

法的見解の表示にについて

法的見解の表明・新・ゴーマニズム宣言事件ー最高裁平成16年7月15日判決

事実と意見の区別ーロス疑惑夕刊フジ事件・最高裁平成9年9月9日判決

事実と意見の区別ーロス疑惑夕刊フジ事件・最高裁平成9年9月9日判決・民集51巻8号3804頁

(1)判旨

「右のように、事実を摘示しての名誉毀損と意見ないし論評による名誉毀損とでは、不法行為責任の成否に関する要件が異なるため、問題とされている表現が、事実を摘示するものであるか、意見ないし論評の表明であるかを区別することが必要となる。ところで、ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきであり(最高裁昭和二九年(オ)第六三四号同三一年七月二〇日第二小法廷判決・民集一〇巻八号一〇五九頁参照)、そのことは、前記区別に当たっても妥当するものというべきである。すなわち、新聞記事中の名誉毀損の成否が問題となっている部分について、そこに用いられている語のみを通常の意味に従って理解した場合には、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張しているものと直ちに解せないときにも、当該部分の前後の文脈や、記事の公表当時に一般の読者が有していた知識ないし経験等を考慮し、右部分が、修辞上の誇張ないし強調を行うか、比喩的表現方法を用いるか、又は第三者からの伝聞内容の紹介や推論の形式を採用するなどによりつつ、間接的ないしえん曲に前記事項を主張するものと理解されるならば、同部分は、事実を摘示するものと見るのが相当である。また、右のような間接的な言及は欠けるにせよ、当該部分の前後の文脈等の事情を総合的に考慮すると、当該部分の叙述の前提として前記事項を黙示的に主張するものと理解されるならば、同部分は、やはり、事実を摘示するものと見るのが相当である。 」

(2)コメント

判旨中にあるように,名誉毀損を検討するとき,そこに書かれているのが事実なのか,単なる意見なのか,区別しなければなりません。

この判例自体は新聞記事について述べていますが,近時のインターネット上の名誉毀損にもそのまま当てはまります。

とりわけ,インターネット上の掲示板やSNSの投稿は,(新聞記事と違って)投稿それ自体はとても短い文章であることが多く,一見すると単に意見や感想を述べたに過ぎないように見えることも多いです。

また,プロバイダ責任制限法を使って投稿者の情報開示を求めていくとき,裁判所に「意見や感想にすぎない」と言われてしまうと,負けてしまいます。

そこで,この判例を使って,「たしかに一見すると意見に見えるけれど,前後の文脈やこの投稿の読者の知識や読み方からすると,黙示的に事実を摘示しているものだ!」という主張をしていくことになります。

ここでも一般読者の基準,というのが出てきますね。

名誉毀損判断におけるインターネット上の掲示板の読み方 東京地裁平成20年10月27日判決

推論する記事について

推論する記事による事実摘示ーロス疑惑朝日新聞事件・最高裁平成10年1月30日判決

法的見解の表示にについて

法的見解の表明・新・ゴーマニズム宣言事件ー最高裁平成16年7月15日判決

名誉毀損判断におけるインターネット上の掲示板の読み方 東京地裁平成20年10月27日判決

東京地裁平成20年10月27日判決

【事案の概要】

 Xは中野区議会の会派d党所属の区議会議員である。当氏名不詳者は電子掲示板に,Xが区議会議員でありながら性風俗店で買春をした,等の書き込みをした。Xは,プロバイダであるYに対し,氏名不詳者により自身の名誉を棄損されたと主張し,プロバイダ責任制限法に基づいて氏名不詳者の住所・氏名等の開示を求めて提訴した(認容)。

【判決要旨】

 「なるほど,中野区民でない一般の読者が本件掲示板を読んでも,「d党の大幹事長」であるとされる「C議員」が原告を指すことはにわかに判明しないということができるが,本件掲示板は,中野区政に関して前記目的で開設されている掲示板なのであるから,これを閲覧しようとする者は,中野区政に関して関心を有する者であると解され,原告が中野区議会議員のd党議員団の幹事長であることは,相当数の不特定者が知っている事実であることが明らかである。したがって,「C議員」が原告を指すことは,本件掲示板を閲覧する普通の読み手にとって容易に判明すると解されるのであって,「C議員」を国会議員と誤認するなどということは,「区議会d党の有名人C議員」と特定記載している本件1-①の記事の文脈から見て普通の読み方ということができず,Yの上記主張は採用することができない。」

「Yは,本件掲示板の一般の閲覧者は,普通,本件掲示板の記載を全部読むとは限らないとの趣旨を主張するものと解される。なるほど,例えば,雑誌の吊広告,新聞広告等であれば,あえて見ようと思わない者の目にも入り,目に入った以上,瞬時に一定の意味を理解はするから,雑誌の吊広告,新聞広告等の標題等を見た普通の理解力の者が,普通,どのように理解するかが問題となるのである。しかし,インターネット上の掲示板は,見ようと思わない者の目には入らない。これを見る者は,読もうと思って開くのである。したがって,読もうと思って掲示板を開いた普通の理解力の者が,普通の読み方をしたときに,どのような意味に理解されるかが問題となる。あえてインターネットの掲示板を見ようと思って,これを開く以上,文章の意味を理解しようとして読むのが普通であり,特定人を匿名表記して批判,非難する文章であることを理解しつつ,その文章をあえて読もうとする者は,普通,それが誰かを知ろうとして,前後の文章を拾い読みするのが普通であると解される。中野区政に関心をもつ不特定多数の者が閲覧する本件掲示板の性質に鑑みれば,「C議員」とは誰のことだろうかと関心を持った者が他の記事を拾い読みすることは容易に考えられるところであり,別紙3の本件掲示板の記載を通覧すると,普通の読者の注意と読み方をもってすれば,「C議員」が原告を指すことは容易に理解することができることが明らかである。そうすると,本件記事中の「C議員」が原告を指すことは特定されるといわざるを得ないのであり,Yの上記主張は採用することができない。」

【コメント】

 掲示板での投稿は,それだけみると一見して名誉毀損といえないことが多々あります。しかし,インターネット上の掲示板は,あえて見ようと思う人しか見ませんから,あえてその掲示板を見ようとする人の読み方を基準に解釈する,ということを明確にしました。さらに具体的に,当該掲示板が中野区生に関心を持つ人の掲示板であることを踏まえて判決しています。インターネット上の掲示板の性質や実態を踏まえた,メディアリテラシーに叶う判決だと考えます。

メルマガ転載による著作権侵害事件 東京地裁平成30年1月30日判決

東京地裁平成30年1月30日判決
(1)事案の概要
 Xはメールマガジンを配信しているものである。氏名不詳者は,Xのメールマガジンを自身のブログに転載(アップロード)していた。Yは氏名不詳者が利用しているインターネットサービスプロバイダである。
 XはYに対し,氏名不詳者の行為により自身の著作権を侵害されたとして,プロバイダ責任制限法4条1項に基づき,氏名不詳者の住所,氏名等の開示を求める訴えを提起した(請求認容)。

(2)判決要旨
 東京地裁は,Xのメールマガジンが著作物に当たることを認定した上で,次のように判示し,氏名不詳者の著作権侵害を認定した(氏名不詳者の氏名・住所の開示を認めた。)。
「Yは,本件投稿記事における本件引用部分の複製について,本件投稿記事においてはX記事を批評する目的で本件引用部分を引用したものであり,当該引用は公正な慣行に合致し,正当な範囲内で行われたから,適法な引用(著作権法32条1項)に当たると主張する。」
「各本件投稿記事には,いずれも本件利用者が独自に作成したと考えられる部分(以下「独自部分」という。)と本件引用部分があ」る。「独自部分は,特定のURLだけ…,短歌1首と記事の標題だけ…,短歌2首と…紹介文だけ…,短歌1首又は2首だけ…というものが多く,本件利用者によると考えられる批評等が記載されている記事…においても,その批評等はいずれも簡潔なものである。上記のうち,本件利用者によると考えられる批評等が記載されていない本件投稿記事における本件引用部分は,いずれもYが主張する批評目的によるX記事の利用であるとは直ちには認め難い。また,本件利用者によると考えられる批評等の記載がある記事をみても,その批評等は簡潔なもので,独自部分における批評等が本件引用部分全部を批評するものとはいえないし,本件引用部分全部を利用しなければ批評の目的が達成できないものともいえず,批評のために本件引用部分全体を利用する必要があるとは認め難い。仮に,独自部分の短歌に批評の趣旨があるとしても同様である。」

(3)コメント
 本判決のポイントは2つです。まず第1に,プロバイダ責任制限法という法律を使えば,ネット上で,匿名で著作権侵害をしている人を特定できる可能性があるということです。インターネットサービスを提供するプロバイダに対して裁判を起こして,住所・氏名の開示を請求することになります。特定した後は,匿名で投稿している本人に,著作権侵害の損害賠償を請求できます。

 第2に,開示を請求されたプロバイダ側としては,本件のような著作権侵害の場合,「適法な引用です」といって争うことが考えられます。適法な引用といえるためには,批評に必要な部分のみの転載である必要があります(「正当な範囲」といいます。)が,本件のようにメールマガジンの内容をほとんどそのまま引用しているような場合には,著作権侵害になってしまうでしょう。