プライバシー

なりすましアカウント全体の削除・さいたま地裁平成29年10月3日決定

さいたま地裁平成29年10月3日決定・判時2378号22頁

【決定要旨】

「本件アカウントは、アカウント名、プロフィール欄の記載、ヘッダ画像及び投稿記事の全てにおいて、債権者が本件アカウントを開設したかのように装い偽った上で、閲覧者に対し、債権者が元AV女優であって、投稿した画像のアダルトビデオに出演しているかのような印象を与え、かつ、債権者がそのような画像を投稿したかのような印象を与えることを目的として開設され表現がされたものと認められる。
 このように外形的にみても、本件アカウントは、アカウント全体が、どの構成部分をとってみても、債権者の人格権を侵害することのみを目的として、明らかな不法行為を行う内容の表現である。
 このようなアカウント全体が不法行為を目的とすることが明白であり、これにより重大な権利侵害がされている場合には、権利救済のためにアカウント全体の削除をすることが真にやむを得ないものというべきであり、例外的にアカウント全体の削除を求めることができると解するとのが相当である。このような不法行為のみを目的として他人を偽るアカウントが削削除されたとしても、本件アカウントの保有者としては、別に正当なツイッターアカウントを開設することが何ら妨げられるものではない。」

 

【コメント】

1 個々の投稿削除が原則

 ツイッターや掲示板の投稿削除を求める場合,個々の投稿の削除を求めるのが原則です。ツイッターアカウント全体や,掲示板のスレッド全体の削除を求めるのは(通常,権利侵害していない部分が含まれるため)難しいです。

 本件は例外的に,他人がなりすましアカウントを作成し,あたかも元AV女優である旨のツイートを行っていたアカウント全体の削除を認めた画期的な裁判例です。判例時報の解説によると,「本件が最初の事例とみられる」そうです。

2 なりすまし

 日々法律相談を受けていると,なりすましアカウント開設による被害は増えているな,と実感します。特に,(本人のブログやFacebook等から)本人の写真が冒用されることも多く,よりそれっぽい(本人らしく受け取られやすい)なりすましアカウントが開設されがちです。

 このようななりすましアカウントにどう対処したらよいか。

 1つは,本件のように,なりすましアカウントが本人の社会的評価を低下させているとして名誉毀損構成で戦う方法です。

 もう1つは,本人の写真が冒用されている点をとらえて,肖像権侵害で戦う方法がありえます。

新潟地裁平成28年9月30日判決・判時2338号86頁

 さらに第3の方法として,なりすましそれ自体をとらえて,「アイデンティティ権」侵害という新しい法律構成を認める(余地のある)判決が出ています。

⇒アイデンティティ権事件・大阪地裁平成29年8月30日判決

ツイート裁判官分限事件に関する山本・林・宮崎補足意見・最高裁平成30年10月17日決定

ツイート裁判官分限事件・最高裁平成30年10月17日決定・民集72巻5号890頁

山本・林・宮崎補足意見

【補足意見】

「裁判官山本庸幸,同林景一,同宮崎裕子の補足意見は,次のとおりである。
 私たちは,法廷意見に賛同するものであるが,それは,次のような考え方によるものである。
 1 本件において懲戒の原因とされた事実は,ツイッターの本件アカウントにおける投稿が裁判官である被申立人によるものであることが不特定多数の者に知られている状況の下で,本件で取り上げられた訴訟につき,主として当該訴訟の被告側の主張を紹介する報道記事にアクセスすることができるようにするとともに,揶揄するような表現で間接的に当該訴訟の原告の提訴行為を非難し,原告の感情を傷つけたというものであって,このような行為は,公正中立を旨とすべき裁判官として,不適切かつ軽率な行為であると考える次第である。被申立人は,本件ツイートは,報道記事を要約しただけのものであって原告の感情を傷つけるものではないなどと主張しているが,本件ツイートのアクセス先の報道記事全体が主として被告側の主張を紹介するものであることは文面から容易に読み取れるため,それについて本件ツイートのような表現でツイートをすれば,現役裁判官が原告の提訴行為を揶揄している投稿であると受け止められてもやむを得ないというべきである。」


「5 ちなみに,現役裁判官が,ツイッターにせよ何にせよ,SNSその他の表現手段によってその思うところを表現することは,憲法の保障する表現の自由によって保護されるべきであることは,いうまでもない。しかしながら,裁判官はその職責上,品位を保持し,裁判については公正中立の立場で臨むことなどによって,国民の信頼を得ることが何よりも求められている。本件のように,裁判官であることが広く知られている状況の下で表現行為を行う場合には,そのような国民の信頼を損なうものとならないよう,その内容,表現の選択において,取り分け自己を律するべきであると考える
 そして,そのような意味での一定の節度あるいは限度というものはあるものの,裁判官も,一国民として自由な表現を行うということ自体は制限されていないのであるから,本件のような事例によって一国民としての裁判官の発信が無用に萎縮することのないように,念のため申し添える次第である。」

【コメント】

1 インターネット事件としての本分限事件

 本件は,著名な裁判官のツイートに関するもので,裁判官の表現の自由や職務の公正性という点から,司法業界では大変話題になりました。憲法論については既に多くの評釈がでており,何よりご自身が書籍を出されているところです。

 憲法論をいったんおくとして,実は本件の補足意見には,本件をいちインターネット事件としてみたとき,興味深い視点があります(もちろん,やや特殊な文脈なので安易に一般化はできませんが)。

本件ツイートのアクセス先の報道記事全体が主として被告側の主張を紹介するものであることは文面から容易に読み取れるため,…」の箇所です。本件ツイートは,ある判決に関するニュース記事を引用する形で(リンクを張る形で)ツイートされたものでした。 

 このように,例えばニュース記事にリンクを張ったり,「いいね!」したり,他人の記事をリツイートした場合,リンクやリツイートをした人の投稿(表現)といえるのか(リンク・リツイートだけで責任を問われるのか)?…という問題があります。

(1)リンク(引用元のすべてが表示されない場合)

 リンクを張った場合,例えばツイッターですと,引用元のタイトルや記事の一部がツイッター上に表示されるかと思います。つまり,ツイッター上に表示される部分と,されない部分に区別できます。

 ツイッター上に表示される部分はリンクを張った人の自身の投稿と同視でき,表示されない部分(リンク先)についてはリンク先を取り込んでいると評価できると場合にはリンク先の記事と一体的に名誉毀損等を判断する,というのが一般的な理解かと思います。

 本決定補足意見の「本件ツイートのアクセス先の報道記事全体が主として被告側の主張を紹介するものであることは文面から容易に読み取れるため,…」の箇所も,このような文脈で理解できます。

 ただ,上述のように,ツイートの意味を理解するのに,リンク先の記事を当然に参照することはありません。その意味で,本件をインターネットいち事件と捉えた場合,補足意見はかなり踏み込んだことを言っているな,と思うわけです(繰り返しますが,裁判官の分限事件という特殊な文脈なので,一般化はできませんが。)。

 

(2)リツイート等(引用元の投稿がそのまま表示される場合)

 これに対して,リツイートは引用元の投稿がそのまま表示される点で,リツイートした人自身の投稿と同視する裁判例が多いです。

リツイート事件(名誉毀損)・東京地裁平成26年12月24日判決等

 同じ理屈で,まとめサイト(キュレーションサイト)の名誉毀損性も判断されます。

まとめサイト事件・大阪地裁平成29年11月16日判決

 

2 公人の表現行為

 憲法論も少しだけ。

(1)裁判官のツイート

 裁判官も日本国民である以上,表現の自由(憲法21条1項)が保障されます。しかし,「裁判官はその職責上,品位を保持し,裁判については公正中立の立場で臨むことなどによって,国民の信頼を得ることが何よりも求められている」んだそうです。

 三権分立の中で,裁判官だけは選挙による民主的統制が及びません。だからこそ,他の二権力の公務員よりも「国民の信頼を得ることが何よりも求められる」のは理解できます。

(2)トランプ大統領のツイート

 少し前に,トランプ大統領が自身のツイッターから特定人をブロックしたことが違憲であるという判決が出たというニュースがありました。トランプ大統領のツイッターはパブリックフォーラムなんだそうです。

 アメリカは表現の自由を大切にする国です。言論には言論で,トランプ大統領のツイートにはツイートで対抗してOK,そういう考え方もあるのかな,と思います。

ツイッターにおける肖像権侵害・新潟地裁平成28年9月30日

新潟地裁平成28年9月30日判決・判時2338号86頁

(1)事案の概要
Yはいわゆるプロバイダである。
氏名不詳者Zは,ツイッターにおいてXの画像(本件画像)を添付の上,自分の孫娘「D」が安保法制反対デモに連れて行かれ,熱中症で死亡したとの記事(本件投稿)を投稿した。XはYに対し,プロバイダ責任制限法に基づき発信者情報の開示を請求した。認容。
(2)判旨
「人は,みだりに自己の容姿を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有し,また,自己の容姿をみだりに公表されない人格的利益も有しているから(最高裁昭和…昭和44年12月24日大法廷判決…,最高裁平成…平成17年11月10日第一小法廷判決…),このような人格的利益を違法に侵害された者は損害賠償を求めることができる。」
「…Xの承諾を得ないで,上記…で認定した記載のある本件記事に添付して本件画像をツイッターで公開する(言い換えると,上記…のとおり多数の閲覧者がリツートできるようにする)ことは,Xの肖像権を侵害するとみるのが相当である。」
「Yは,本件画像はすでにウェブサービスで公開されていたのであるから,本件記事に添付して本件画像を公開することは,Xの肖像権を侵害するものではないと主張する。しかし,人格価値を表し,人格と密接に結びついた肖像の利用は,被撮影者の意思に委ねられるべきであり,ウェブサービスで本件画像が公開されていたからといって,このことから直ちにその方法に限定なく本件画像を公開できるとか,本件画像の公開について被撮影者であるXが包括的ないし黙示的に承諾していたとみることはできない。本件画像を添付した本件記事は,閲覧者をして,本件画像の被撮影者が本件発信者の孫である「D」であって,「D」はデモに連れて行かれて熱中症で死亡したと想起させるものであり,一般人であれば,自分の画像を死亡した他人として公開されることを包括的ないし黙示的に承諾するとは考え難い。このことは本件画像を公開した本件発信者においても容易に認識できたはずである。したがって,本件画像がすでにウェブサービスで公開されていたことを根拠とするYの主張は採用できない。」「…肖像権は,みだりに自己の容貌や姿態を撮影,公表されない権利であって,社会的評価の低下は肖像権侵害の成否に直接関係するものではない。」
(3)コメント
 「肖像権」という言葉は,私たちにもなじみのある言葉です。判例の言葉を借りれば,「みだりに自己の容姿を撮影されない」(京都府学連事件判決)「自己の容姿をみだりに公表されない」(法定画事件)権利のことです。本件は,そんな肖像権がインターネット,とりわけツイッターで問題になった事件です。インターネット上ので適当に拾ってきた写真画像を無断で利用する場合,既に他の「ウェブサービスで本件画像が公開されていたからといって」肖像権侵害にならないわけではありません。
 なお,写真には著作権も発生します。近時,特にTPP11の発行等の影響もあり,著作権の保護を厳しくする法改正が検討されています。インターネットで画像を利用する場合,商業利用のみならず,個人的な利用についても細心の注意が必要になってくる,そういう時代です。 

法廷画事件・最高裁平成17年11月10日判決

 肖像権に関する判例の到達点については,中島基至「スナップ写真等と肖像権をめぐる法的問題について」・判タ1433号5頁が秀逸です。

 

令和元年10月8日追記

近時,なりすましアカウント全体の削除を認める決定例がでました。

さいたま地裁平成29年10月3日決定・判時2378号22頁

法廷画事件・最高裁平成17年11月10日判決

法廷画事件・最高裁平成17年11月10日判決・民集59巻9号2428頁

【判 旨】

「(1) 人は,みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁参照)。もっとも,人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって,ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。」

「また,人は,自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当であり,人の容ぼう等の撮影が違法と評価される場合には,その容ぼう等が撮影された写真を公表する行為は,被撮影者の上記人格的利益を侵害するものとして,違法性を有するものというべきである。」

「(2) 人は,自己の容ぼう等を描写したイラスト画についても,これをみだりに公表されない人格的利益を有すると解するのが相当である。しかしながら,人の容ぼう等を撮影した写真は,カメラのレンズがとらえた被撮影者の容ぼう等を化学的方法等により再現したものであり,それが公表された場合は,被撮影者の容ぼう等をありのままに示したものであることを前提とした受け取り方をされるものである。これに対し,人の容ぼう等を描写したイラスト画は,その描写に作者の主観や技術が反映するものであり,それが公表された場合も,作者の主観や技術を反映したものであることを前提とした受け取り方をされるものである。したがって,人の容ぼう等を描写したイラスト画を公表する行為が社会生活上受忍の限度を超えて不法行為法上違法と評価されるか否かの判断に当たっては,写真とは異なるイラスト画の上記特質が参酌されなければならない。」

【コメント】

著名な京都府学連事件(最高裁昭和44年12月24日判決)を引用した上で,みだりに「自己の容ぼう等を撮影されない」利益のみならず,「自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益」も肯定したという点で非常に重要な判決です。

私自身,インターネットを介して写真を出されてしまった,という事件で,本判決をしょっちゅう引用します。

実際,インターネットにおける画像公開について,本判決を引用して肖像権侵害を認め,発信者情報の開示を命じている判決もあります。

新潟地裁平成28年9月30日判決・判時2338号86頁

本判決は「肖像権」という言葉は使っていませんが,本判決の判示は我々が「肖像権」といってイメージするような内容とそんなに違わないと思います。

また,肖像権はプライバシー権に含まれるか?という学術上の問題がありますが,実務上はあんまり気にしなくてもいいでしょう。

オンラインストレージの公開設定の「公然」性・大阪高裁平成29年6月30日判決

大阪高裁平成29年6月30日判決・判時2386号109頁

※わいせつ電磁的記録媒体陳列,リベンジポルノ刑事事件

(1)事案の概要

 原審以来,被告人の行為について,元交際相手である被害者に対する強要未遂罪が成立することに争いはない。

 さらに,被告人は,被害者の露出した胸部等の画像・動画のデータ(以下「本件データ」)を,自身のオンラインストレージに保存していたところ,これを公開設定にしたうえで,被害者に対して公開先のURLを送信した。この行為が,わいせつ電磁的記録媒体陳列罪,いわゆるリベンジポルノ等に当たるとして起訴された。

 争点は,本件データが,わいせつ電磁的記録媒体陳列罪及びリベンジポルノにおける「公然と陳列した」に当たるか否かである。原審はこれを肯定したが,本判決は否定した(同罪について逆転無罪)。

(2)判旨

「ところで,前記の○○サービスやその公開機能の仕組み等…によれば,a社ユーザーが,○○サービスに保存したデータをマイ○○内で公開設定した時点では,そのユーザーに公開URLが発行されるにすぎないから,公開設定されたデータを第三者が閲覧し得る状態にするには,公開設定に加え,公開URLを添付した電子メールを送信するなどしてこれを外部に明らかにするというa社ユーザーによる別の行為が必要となる(○○サービスに不正に侵入し,公開設定されたデータの公開URLを入手することは不可能ではないとしても,これは一般の者が容易に行えるものではない。)。そして,a社ユーザーが,公開URLを電子メールに添えて不特定多数の者に一斉送信したり,SNS上や自己が管理するホームページ上でこれを明らかにしたりすれば,その公開URLにアクセスした者が公開されたデータを閲覧することは容易な状態となるから,当該データの内容がわいせつな画像等に当たる場合には,これを「公然と陳列した」ものとして,わいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪等が成立すると考えられる。
 これに対し,本件では,被告人は,本件データを公開設定したが,その公開URLを電子メールに添えて送信した相手は被害者のみであり…,記録上,被害者以外の者に同URLを明らかにした事実はうかがわれない。そうすると,被告人が○○サービス内に記憶蔵置させた本件データを公開設定した時点では,その公開URLが発行されたにすぎないから,いまだ第三者が同URLを認識することができる状態になかったし,被告人が同URLを明らかにした相手は被害者のみであったため,ここでも第三者が同URLを認識し得る状態にはなかったというべきである。
 したがって,本件の場合,被告人が○○サービス内に記憶蔵置させ,本件データを公開設定したのみでは,いまだ同データの内容を不特定又は多数の者が認識することができる状態に置いたとは認められず同データの公開URLを電子メールに添付して被害者宛に送信した点についても,特定の個人に対するものにすぎないから,これをもって同データの内容を不特定又は多数の者が認識し得る状態に置いたと認めることもできない。結局,被告人は,本件データの内容を不特定又は多数の者が認識することができる状態に置いたとは認められないから,刑法175条1項前段及び画像被害防止法3条2項各所定の公然陳列罪は成立しないというべきである。」
「なお,いわゆるパソコンネットのホストコンピュータのハードディスクにわいせつな画像を記憶蔵置させる行為とわいせつ物の公然陳列に関する最高裁判所第三小法廷平成13年7月16日決定(刑集55巻5号317頁)の事案では,当該被告人の行為は,自ら開設,運営していたパソコンネットのホストコンピュータのハードディスクにわいせつ画像のデータを記憶蔵置させたことで完了しており,後は,不特定多数の会員が,自己のコンピュータを操作し,電話回線を通じて当該被告人のホストコンピュータのハードディスクにアクセスすれば,同データをダウンロードすることができる状態にあったというものである。また,児童ポルノのURLをホームページ上に明らかにした行為に関する最高裁判所第三小法廷平成24年7月9日決定(裁判集刑事308号53頁)は,当該被告人が,インターネット上にホームページを開設し,これを管理運営していた共犯者と,不特定多数のインターネット利用者に児童ポルノ画像の閲覧が可能な状態を設定しようと企て,共謀の上,第三者が開設していたインターネットの掲示板に児童ポルノ画像を記憶蔵置させていたことを利用し,その所在を特定するURLを一部改変して前記ホームページ上に掲載したという事案に関するもので,当該被告人が行ったのは改変URLのホームページ上への掲載であり,児童ポルノ画像は既に第三者が開設する掲示板に記憶蔵置されていたというものである。
 これらに対し,本件は,不特定多数の者が本件データを認識し得る状況になかった点で事実関係を異にするものであり,前記平成13年最高裁決定が示した「(刑法175)条が定めるわいせつ物を『公然と陳列した』とは,その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい,その物のわいせつな内容を特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも要しないものと解される」との判断を踏まえても,公然性は否定されると解するのが相当である。」

(3)コメント

 本判決は,わいせつ物公然陳列罪やリベンジポルノにおける「公然と陳列した」について,とりわけオンラインストレージの公開設定との関係で実務上意義があります。

 わいせつ物公然陳列罪における「公然と陳列した」については,本判決も引用する最高裁平成13年7月13日判決・刑集55巻5号317頁が判示しており,「その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くこと」に当たるかどうかが問われます。

 

 本判決はわいせつ物に関する刑事事件ですが,公然性を要件とする法律はたくさんあり,オンラインストレージの公開設定がこれを満たさないとした点については,他の法律の適用についても大変参考になります。少し乱暴ですが,インターネット上における「公然」って,いったいどこからでしょう??という問題の1つの答えです。

 例えば,民事のインターネット事件でよく使うプロバイダ責任制限法は「特定電気通信」,つまり不特定多数者に対するをインターネット通信を対象としています。要するに,知らない人から掲示板やSNSで誹謗中傷を受けた場合,同法で住所氏名の開示請求ができますが,個人のメールで誹謗中傷を受けたとしても開示請求ができません

 本判決を(多少乱暴に)応用すると,知らない人にオンラインストレージで侮辱的な文書を公開設定にされても,これを開示請求することは難しいでしょう。

 インターネット上の著作権侵害でよく使われる「公衆送信権」でも,同様のことがいえるでしょう。

ポイント解説!「AI・データ利用に関する契約ガイドライン」

1 はじめにーこのガイドラインを読んでおくべき人

 先日,経済産業省が「AI・データ利用に関する契約ガイドライン」を発表しました。後記のように,「データ編」と「AI編」からなる大作のガイドラインなのですが,

 まずはじめに申し上げたいことは,次の項目に心当たりのある方は,本ガイドラインを是非チェックしておいていただきたい,ということです。

 ご入用であればセミナーを実施いたしますので,お気軽にお問合せください。

IT企業の経営者,法務担当者,技術者の方→「データ編」「AI編」の両方

IT企業にシステム開発等を依頼する方→「データ編」

・秘密保持契約のひな型を探している方→「AI編」の秘密保持契約の箇所

 

2 全体の構成と特徴

 本ガイドラインは,「データ編」と「AI編」の2部構成からなり,それぞれに契約書のひな型がついてます。

 「データ編」では,データの取引を伴う契約を①データ提供型,②データ創出型,③データ共用型の3類型に分け,理解に必要な知識と契約書の文例を紹介しています。

 「AI編」ではAI理解のための基本的な知識を解説した上で,AIを用いた開発の序盤~終盤まで,開発の各段階に応じた契約書を提唱しています。

 実務的に非常に使えるところとしては,「データ編」,「AI編」ともに契約書のひな型を提示してくれている点です。当たり前ですが,非常にできのいいものになっております。

 公正取引委員会のチェックも受けているようで,このひな型にそったかたちで契約をすれば,独占禁止法上の問題も回避できるという優れものです。

 

3 蛇足ーこのガイドラインの来歴と雑感

 巷では「第四次産業革命」と呼ばれる,IT業界を中心とした,AIをはじめとする技術革新が起こっています。日経新聞を読んでいても,「AI」の文字を見ない日はないくらいですね。

 政府も対応を急いでおり,昨年は内閣府の中にある「新たな情報財検討委員会」が報告書を出しました。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2017/johozai/houkokusho.pdf

 この報告書の中に,不正競争防止法の改正とともに,AI関係のガイドラインを出す,ということが盛り込まれています。

 この報告を受けて,今年出されたのが本ガイドラインです。IT系の弁護士としては,「待ってました!」という感じです。

 ざっと読んでみて,技術革新の起きているこの分野で法律相談を受けるには,

・知的財産法

・プライバシー,個人情報

のみならず,

・独占禁止法

・ITの知識

等,いろいろと複合的な知識が必要になってくるな,と痛感しています。

この機会をあらたなチャンスととらえて,私も精進してく次第です。

神獄のヴァルハラゲート・文書提出命令事件・知財高裁平成28年8月8日判決

神獄のヴァルハラゲート・文書提出命令事件 知財高裁平成28年8月8日判決

【事案の概要】
控訴審において,XがY社に対して,コミュニケーションツールであるチャットワークのチャットログの文書提出命令を申し立てた。

【判決要旨】

民訴法220条4号ニのいわゆる自己専利用文書についての一般論として,最高裁平成11年11月12日決定・民集53巻8号1787頁を引用したうえで,次のように判示した。

「Y社が,本件ゲーム開発のためにコミュニケーションツールとして,導入したチャットワーク上でのやりとりが記載されたチャットログのうち,「企画」と名付けられた本件チャットグループに関するものであり,Y社代表者と社員及び本件ゲームの開発者は,本件チャットワーク上で意見交換及び指示連絡等をすることにより,本件ゲームの企画や内容等について協議をし,作業を進めて,本件ゲームを完成していったものである。そして,本件文書は,法令によってその作成が義務付けられたものでもなく,IDとパスワードにより管理されて外部からのアクセスが制限されていたものである。

したがって,本件文書は,専らY社内部の者(Y社代表者と社員及び本件ゲームの開発者)の利用に供する目的で作成され,それ以外の外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示されると,一般的には,Y社におけるゲーム開発の遂行が阻害され,また,Y社内部における自由な意見表明に支障を来しY社の自由な意思形成が阻害されるおそれがあるものとして,特段の事情のない限り,「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たると解すべきである。」

「そこで,本件文書について,前記の特段の事情があるかどうかについて検討すると,一件記録によれば,Xは,本件ゲームの開発者の一人であり,当時は,本件チャットグループに参加して,主要メンバーの一人として本件ゲームの企画や内容について自己の意見を述べ,指示連絡をし,また,他のメンバーの発言内容について自由にこれを閲覧し,本件ゲームを完成していったことが認められる。

上記認定事実によれば,本件文書に記載された内容は,本件チャットグループに参加していたX自身の発言内容であったり,Xには既に開示されていた他のメンバーの発言であり,X自身が参加していたチャットグループの記録である。そうすると,文書提出命令のXがその対象であるチャットグループの記録の利用関係において所持者であるY社と同一視することができる立場にあったことが認められる(最高裁平成12年12月14日決定・民集54巻9号2709頁参照)。

そして,本件においては,X及び同代理人弁護士は,Y社に対し,本件文書を本件訴訟の追行の目的のみに使用し,その他の目的には一切使用しないこと,本件文書の全部又は一部を第三者に開示,漏洩しないことを誓約する旨の誓約書(以下「本件誓約書」という。)を当裁判所に提出している。また,営業秘密記載文書については,その閲覧・謄写の制限の申立てがなされ,営業秘密等が記載された部分の閲覧等を請求することができる者を当事者に限るとの決定(民事訴訟法92条)がなされることが通常であることからすれば,本件文書の上記部分がX以外の外部の者に開示されるおそれはないということができる。

以上によれば,本件ゲーム開発の主要メンバーの一人であり,本件文書の内容を既に開示されていたXに対し,本件文書が開示されたとしても,これによりY社従業員のプライバシーが侵害されるおそれも,Y社の自由な意思形成が阻害されるおそれもなく,また,本件誓約書等により本件文書が本件訴訟の追行の目的のみに使用されるのであれば,本件文書の開示によってY社に看過し難い不利益が生ずるおそれはないと認められるから,本件文書につき,前記特段の事情があると認められる。」

【コメント】
文書提出命令事件,とりわけいわゆる自己専利用文書(民訴法220条4号ニ)については多数の判例が出ているところです。
本判決も引用している最高裁平成11年決定が一般論を示して以来,「特段の事情」の有無についていろいろなケースが問題になってきました。
本判決は,チャットワーク上のグループチャットについて,XがかつてY社の開発者の一員だったことや,誓約書の提出と記録の閲覧制限(民訴法92条)を踏まえて,「特段の事情」に該当する旨判断したものです。
判断手法含め,実務上参考になります。

これだけは知っておきたい!“GDPR”の対応~わが社は大丈夫??~

1 はじめに

 突然ですが,近ごろ新聞や雑誌で「GDPR」という言葉を耳にしませんか?「GDPR」とは,EU一般データ保護規則のことで,EU域内から域外へ個人データを移転することが原則として禁止するルールです。

 「ヨーロッパのことでしょ?うちの会社は関係ないよ」と思った社長,ちょっとだけ待ってください!このGDPR,実はけっこう適用範囲が広いのです。また,先日わが国がEUとEPA(経済連携協定)を締結したことは記憶に新しいですが,今後のEUとの貿易をビジネスチャンスと考えている社長にも,気に留めておいていただきたいところです。

2 これだけは知っておいていただきたいGDPRの適用範囲

(1)とある社長の相談

ケース1―製造業
 わが社はメーカーで,EU域内に営業所があり,現地の人を雇用しています。本社がある日本で一括して労務管理をしていますが,GDPRの対策は必要ですか?
ケース2―農業
 わが社は静岡県でブランド野菜を育成・販売しています。今般,日欧EPAが発行されたことから,わが社のブランド野菜をEU向けに出荷したいと考えています。何か気を付けることはありますか?
ケース3―旅館(ホテル)
 わが社は静岡県で旅館業をしています。最近はヨーロッパからお越しのお客様も多く,皆様インターネットから宿泊予約をされています。何か問題がありますか?
ケース4―動画配信
 わが社はインターネットで動画を配信するサービスを運営しています。登録したお客様は月額料金をわが社に払い,わが社の動画を見ることができます。今般,お客様のリストを確認したところ,ヨーロッパ在住のお客様もある程度登録されていることが分かりました。

(2)GDPRの適用範囲
 結論からいえば,上記すべてのケースでGDPRが適用されます(対応の必要があります)。誤解をおそれずにいえば,およそEU域内の人に商品やサービスを売っている会社 ,EU域内の人を雇用している会社はGDPRの対策を検討しなければなりません

3 対応のポイント
 GDPRが適用されると,原則として,EU域内の個人データをEU域外に移転できなくなり,厳密に対象者の同意を得る必要が出てきます。重大な違反には制裁金が課されますし,一定の場合にEU域内に管理者または現地の代理人を置く必要があります。

 上記のケースに心当たりがある場合,顧問弁護士と対応を協議するのがよろしいかと思います。

 なお,わが国にも個人情報保護法という法律が存在し,先般の改正時にはほとんどの企業が個人情報保護規定を作成されたかと存じます。現在わが国は,EUと協議して,わが国の個人情報保護法に基づく対応で十分であるという協定を締結しようとしています(「十分性の認定」といいます)。これはまだ少し先の話ですから,同行が注目されます。

 

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