パブリシティ権

パブリシティ権に基づく損害賠償認容例ー「Ritmix」トレーナー事件・大阪高裁平成29年11月16日判決

「Ritmix」トレーナー事件―大阪高裁平成29年11月16日判決・判時2409号

【事案の概要】
 Xは,フィットネスプログラム「Ritmix」を中国,台湾地域で運営する株式会社であり,X代表者の配偶者であるP1は,同地域を担当する Ritmix のマスタートレーナーである。Yは,フィットネス関係の衣料品を製造販売する株式会社である。
 X代表者及びY代表者は,平成26年12月以降,フィットネスウェアを共同して製造販売することなどについて協議した。Yは,P1の写真撮影を行うなどし,Yのウェアを着用したP1の画像をホームページ等に掲載した。また,平成27年2月,アルゼンチンにおいて,P1等が出演して RitmixのDVD撮影が行われ,その際,出演者が着用するウェアとして,YがXと協議して新規に製作したTシャツ及びYの既製品であるズボンが採用された。
 その後,Yは,Xに対し,同年3月25日付け「御通知」と題する書面(以下「本件通知」という。)を送付し,Xとの協議及び取引を終了し,全ての契約締結を見送る旨を伝えた。Yは,その後も,Yのウェアを着用したP1の画像をホームページ等に掲載した。
 Xは,Ritmix のマスタートレーナーのパブリシティ権について独占的な利用許諾を受けるなどしているところ,パブリシティ権侵害等を主張し,Yに対して損害賠償を請求した。一部認容(以下,パブリシティ権に関する判示を引用)。

【判 旨】
「パブリシティ権は,人格権に由来する権利の一内容を構成するもので,一身に専属し,譲渡や相続の対象とならない。しかし,その内容自体に着目すれば,肖像等の商業的価値を抽出,純化させ,名誉権,肖像権,プライバシー等の人格権ないし人格的利益とは切り離されているのであって,パブリシティ権の利用許諾契約は不合理なものであるとはいえず,公序良俗違反となるものではない。
 そして,パブリシティ権の独占的利用許諾を受けた者が現実に市場を独占しているような場合に,第三者が無断で肖像等を利用するときは,同許諾を受けた者は,その分損害を被ることになるから,少なくとも警告等をしてもなお,当該第三者が利用を継続するような場合には,債権侵害としての故意が認められ,同許諾を受けた者との関係でも不法行為が成立するというべきである。」
「…本件において,YとXとの間の協議が継続している間は,YがP1の画像をウェブサイト等に掲載することについて,Xの承諾があったと認められる。しかし,Yが,平成27年3月25日付けの本件通知を送付してXとの協議を終了させたことにより,XのP1の画像の掲載についての承諾も当然に撤回されたものと認めることができる。しかるに,Yは,自ら本件通知をしながら,その後もホームページ等からP1の画像を削除することなく掲載し続けており,それは,P1の肖像等を広告として使用したと評価できるのであるから,Yの行為は,P1のパブリシティ権に係るXの独占的利用権を侵害する不法行為を構成すると認められる」
【コメント】
 最高裁でパブリシティ権が議論されて以来(ピンクレディ事件),パブリシティ権に基づいて損害賠償請求を認容した事例です。インターネット社会が成熟してきた昨今,インターネット上の各種権利の無断利用については,裁判所も厳しい判断をします。芸能人等の写真を無断で利用した場合,(当該芸能人の肖像権侵害とは別に)芸能事務所等から多額の請求を受けることがあるでしょう。

物のパブリシティ権否定ーギャロップレーサー事件・最高裁平成16年2月13日判決

最高裁平成16年2月13日判決・民集58巻2号311頁

【事案の概要】
 本件は,本件各競走馬を所有し,又は所有していたXらが,本件各競走馬の名称等が有する顧客吸引力などの経済的価値を独占的に支配する財産的権利(いわゆる物のパブリシティ権)を有することを理由として,Yに対し,YがXらの承諾を得ないで本件各ゲームソフトに本件各競走馬の名称等を使用したことにより上記財産的権利を侵害したと主張して,本件各ゲームソフトの製作,販売,貸渡し等の差止め及び不法行為による損害賠償を請求する事案である。

【判 旨】
「…競走馬の名称等が有する顧客吸引力などの競走馬の無体物としての面における経済的価値を利用したとしても,その利用行為は,競走馬の所有権を侵害するものではないと解すべきである(最高裁昭和…59年1月20日第二小法廷判決・民集38巻1号1頁参照)。本件においては,前記事実関係によれば,Yは,本件各ゲームソフトを製作,販売したにとどまり,本件各競走馬の有体物としての面に対するXらの所有権に基づく排他的支配権能を侵したものではないことは明らかであるから,Yの上記製作,販売行為は,Xらの本件各競走馬に対する所有権を侵害するものではないというべきである。」
「現行法上,物の名称の使用など,物の無体物としての面の利用に関しては,商標法,著作権法,不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を付与し,その権利の保護を図っているが,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権の及ぶ範囲,限界を明確にしている。
 上記各法律の趣旨,目的にかんがみると,競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても,物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき,法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく,また,競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為に成否については,違法とされる行為の範囲,態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において,これを肯定することはできないものというべきである。したがって,本件において,差止め又は不法行為の成立を肯定することはできない。」
「なお,原判決が説示するような競走馬の名称等の使用料の支払を内容とする契約が締結された実例があるとしても,それらの契約締結は,紛争をあらかじめ回避して円滑に事業を遂行するためなど,様々な目的で行われることがあり得るのであり,上記のような契約締結の実例があることを理由として,競走馬の所有者が競走馬の名称等が有する経済的価値を独占的に利用することができることを承認する社会的慣習又は慣習法が存在するとまでいうことはできない。」

【コメント】

 動物という「物」には,いわゆるパブリシティ権が認められないことを判示した有名な判決です。その意味で,仏像という物の情報について宗教的人格権を認定した徳島地裁判決(の代理人)はセンスがいいなと思います。

秘仏写真事件・徳島地裁平成30年6月20日判決

 憲法的にいっても,本判決は納得のいくものです。パブリシティ権は対象物の経済的価値を把握する権利です。憲法の世界では純然たる財産権です。

 「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める」(憲法29条2項)わけですから,「商標法,著作権法,不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律」がない場面で,財産権を裁判所が勝手に創設するわけにはいかないのです。

⇒ピンクレディー事件・最高裁平成24年2月2日判決