ツイート裁判官分限事件に関する山本・林・宮崎補足意見・最高裁平成30年10月17日決定

ツイート裁判官分限事件・最高裁平成30年10月17日決定・民集72巻5号890頁

山本・林・宮崎補足意見

【補足意見】

「裁判官山本庸幸,同林景一,同宮崎裕子の補足意見は,次のとおりである。
 私たちは,法廷意見に賛同するものであるが,それは,次のような考え方によるものである。
 1 本件において懲戒の原因とされた事実は,ツイッターの本件アカウントにおける投稿が裁判官である被申立人によるものであることが不特定多数の者に知られている状況の下で,本件で取り上げられた訴訟につき,主として当該訴訟の被告側の主張を紹介する報道記事にアクセスすることができるようにするとともに,揶揄するような表現で間接的に当該訴訟の原告の提訴行為を非難し,原告の感情を傷つけたというものであって,このような行為は,公正中立を旨とすべき裁判官として,不適切かつ軽率な行為であると考える次第である。被申立人は,本件ツイートは,報道記事を要約しただけのものであって原告の感情を傷つけるものではないなどと主張しているが,本件ツイートのアクセス先の報道記事全体が主として被告側の主張を紹介するものであることは文面から容易に読み取れるため,それについて本件ツイートのような表現でツイートをすれば,現役裁判官が原告の提訴行為を揶揄している投稿であると受け止められてもやむを得ないというべきである。」


「5 ちなみに,現役裁判官が,ツイッターにせよ何にせよ,SNSその他の表現手段によってその思うところを表現することは,憲法の保障する表現の自由によって保護されるべきであることは,いうまでもない。しかしながら,裁判官はその職責上,品位を保持し,裁判については公正中立の立場で臨むことなどによって,国民の信頼を得ることが何よりも求められている。本件のように,裁判官であることが広く知られている状況の下で表現行為を行う場合には,そのような国民の信頼を損なうものとならないよう,その内容,表現の選択において,取り分け自己を律するべきであると考える
 そして,そのような意味での一定の節度あるいは限度というものはあるものの,裁判官も,一国民として自由な表現を行うということ自体は制限されていないのであるから,本件のような事例によって一国民としての裁判官の発信が無用に萎縮することのないように,念のため申し添える次第である。」

【コメント】

1 インターネット事件としての本分限事件

 本件は,著名な裁判官のツイートに関するもので,裁判官の表現の自由や職務の公正性という点から,司法業界では大変話題になりました。憲法論については既に多くの評釈がでており,何よりご自身が書籍を出されているところです。

 憲法論をいったんおくとして,実は本件の補足意見には,本件をいちインターネット事件としてみたとき,興味深い視点があります(もちろん,やや特殊な文脈なので安易に一般化はできませんが)。

本件ツイートのアクセス先の報道記事全体が主として被告側の主張を紹介するものであることは文面から容易に読み取れるため,…」の箇所です。本件ツイートは,ある判決に関するニュース記事を引用する形で(リンクを張る形で)ツイートされたものでした。 

 このように,例えばニュース記事にリンクを張ったり,「いいね!」したり,他人の記事をリツイートした場合,リンクやリツイートをした人の投稿(表現)といえるのか(リンク・リツイートだけで責任を問われるのか)?…という問題があります。

(1)リンク(引用元のすべてが表示されない場合)

 リンクを張った場合,例えばツイッターですと,引用元のタイトルや記事の一部がツイッター上に表示されるかと思います。つまり,ツイッター上に表示される部分と,されない部分に区別できます。

 ツイッター上に表示される部分はリンクを張った人の自身の投稿と同視でき,表示されない部分(リンク先)についてはリンク先を取り込んでいると評価できると場合にはリンク先の記事と一体的に名誉毀損等を判断する,というのが一般的な理解かと思います。

 本決定補足意見の「本件ツイートのアクセス先の報道記事全体が主として被告側の主張を紹介するものであることは文面から容易に読み取れるため,…」の箇所も,このような文脈で理解できます。

 ただ,上述のように,ツイートの意味を理解するのに,リンク先の記事を当然に参照することはありません。その意味で,本件をインターネットいち事件と捉えた場合,補足意見はかなり踏み込んだことを言っているな,と思うわけです(繰り返しますが,裁判官の分限事件という特殊な文脈なので,一般化はできませんが。)。

 

(2)リツイート等(引用元の投稿がそのまま表示される場合)

 これに対して,リツイートは引用元の投稿がそのまま表示される点で,リツイートした人自身の投稿と同視する裁判例が多いです。

リツイート事件(名誉毀損)・東京地裁平成26年12月24日判決等

 同じ理屈で,まとめサイト(キュレーションサイト)の名誉毀損性も判断されます。

まとめサイト事件・大阪地裁平成29年11月16日判決

 

2 公人の表現行為

 憲法論も少しだけ。

(1)裁判官のツイート

 裁判官も日本国民である以上,表現の自由(憲法21条1項)が保障されます。しかし,「裁判官はその職責上,品位を保持し,裁判については公正中立の立場で臨むことなどによって,国民の信頼を得ることが何よりも求められている」んだそうです。

 三権分立の中で,裁判官だけは選挙による民主的統制が及びません。だからこそ,他の二権力の公務員よりも「国民の信頼を得ることが何よりも求められる」のは理解できます。

(2)トランプ大統領のツイート

 少し前に,トランプ大統領が自身のツイッターから特定人をブロックしたことが違憲であるという判決が出たというニュースがありました。トランプ大統領のツイッターはパブリックフォーラムなんだそうです。

 アメリカは表現の自由を大切にする国です。言論には言論で,トランプ大統領のツイートにはツイートで対抗してOK,そういう考え方もあるのかな,と思います。