OS改変による商標権侵害ー脱獄iPhone刑事事件・千葉地裁平成29年5月1日判決

脱獄iPhone事件・千葉地裁平成29年5月1日判決・判時2365号118頁

【事案の概要】

 本件は,被告人がいわゆる脱獄iPhoneをc社の登録商標を付したままの状態で販売し,c社の商標権を侵害した商標法違反と,被告人から脱獄iPhoneを購入した本犯者がオンラインゲーム・○○のクエストをいわゆるチート行為を行ってクリアしたにもかかわらず適正にクリアしたという内容虚偽のデータを○○の運営会社である株式会社dが管理するサーバーコンピュータに送信して記録させたのに先立って,被告人が本犯者にチート行為の手法等を教示してその犯行を容易にしたという私電磁的記録不正作出・同供用幇助に問われた刑事裁判である。いずれも有罪。

【判 旨】

「商標登録に係る指定商品に登録商標が付されたものを商標権者以外の者がその許諾を得ずに譲渡して登録商標を使用した場合,商標権侵害を構成するが(商標法2条3項2号,25条),商標権者又はその許諾を得た者により,適法に商標が付され,かつ,流通に置かれた商品(真正商品)が転々と譲渡される場合には,商標の機能である出所表示機能及び品質保証機能は害されず,商標権者の業務上の信用及び需要者の利益が損なわれることはない。このような場合の真正商品の譲渡による登録商標の使用は実質的な違法性を欠き(最高裁平成15年2月27日第一小法廷判決・民集57巻2号125頁参照),商標権侵害罪は成立しないものと解すべきである。もっとも,本件では被告人が真正商品である△△の内蔵プログラムに商標権者が禁じている改変を加えた上で販売して譲渡していることに留意する必要があり,被告人が販売した内蔵プログラムの改変された△△の品質が真正商品のそれと実質的に差異がなく,商標の出所表示機能及び品質保証機能が害されない場合には実質的違法性を欠くものとして商標権侵害罪は成立しないが,その品質に実質的な差異があり,これらの機能が害される場合には商標権侵害罪が成立するものと解するのが相当である。」

「前記認定のとおり,被告人がAらに販売した脱獄△△のハードウェア自体には特に改変が加えられておらず,真正商品との差異として認めることができるのは,ソフトウェアであるiOSにc社が配信を許可したアプリ以外のアプリをインストールして利用可能にする改変が加えられた点に尽きているこの改変によって品質に実質的な差異が生じ,商標の出所表示機能及び品質保証機能が害されるか否かが商標権侵害の成否を分けるところ,iOSはソフトウェアであり,ハードウェアである△△そのものとは一応別個の存在ということができる。しかし,iOSは△△を作動させるために不可欠の機能を担っている上,△△においてiOS以外のオペレーティングシステムの利用が予定されていないことは公知の事実であり,iOSは△△の不可分かつ一体の構成要素にほかならない。そうすると,iOSの改変は△△の本質的部分の改変に当たるものというべきである。そして,脱獄によって真正商品では利用できないアプリをインストールして利用することが可能となった点は,スマートフォンの活用方法が利用可能なアプリによって大きく左右されることに照らしても,それ自体,△△のスマートフォンとしての機能に重要な変更を加えるものというべきである。しかも,脱獄△△の場合,真正商品であればc社による審査の過程で排除可能なマルウェアが混入したアプリがインストールされて被害を受けるおそれがあり,そのセキュリティレベルは真正商品のそれよりも低い水準にあるものといわざるを得ない。これらの点からすると,脱獄△△は,真正商品の本質的部分に改変が加えられた結果,機能やセキュリティレベルといった品質面で相当な差異が生じているものというべきで,商標の品質保証機能が害されているものといわなければならない。また,c社が禁じているiOSの改変のためにこのような真正商品との品質の差異が生じている脱獄△△の提供主体を同社とみることはできないから,商標の出所表示機能も害されている。
 以上のとおり,被告人がAらに販売した脱獄△△の品質は真正商品のそれとは相当な差異があり,商標の出所表示機能及び品質保証機能が害されているから,その譲渡について実質的違法性が阻却されることはない。したがって,被告人の行為については商標権侵害罪が成立する」
「これに対し,弁護人は,被告人はAらに対する脱獄△△の販売に当たって脱獄済みであることを明示しており,Aらは真正商品に改変が加えられたものであることを知って脱獄△△を購入しているため,Aらに脱獄△△の提供主体がc社であり,同社が保証する品質が確保されているとの誤認は全く生じていなかったから,商標の出所表示機能及び品質保証機能は害されていないと主張する。
 しかしながら,例えば,脱獄によるセキュリティレベルの低下が原因となって脱獄△△に不具合が生じた場合でも,その購入者が不具合の原因を正しく理解できる保証はなく,商標権者であるc社の責任による不具合と認識する可能性があるから,その品質の提供主体を同社と誤認するおそれが否定できない。脱獄△△の販売に当たって脱獄済みであることが明示されており,Aらが真正商品に改変が加えられたものであることを知って購入したからといって,商標の出所表示機能及び品質保証機能が害されないとはいえない。」

 

【コメント】

 iPhoneのOSであるiOSを改変して(通称「脱獄」して),人気ゲームアプリモンスターストライク(通称「モンスト」)でチートができるようにして販売していた人の刑事裁判です。

 私も特に修習生のころ,モンストよくやったなー

1 商標機能論

 商標の機能は,ロゴマークの出所に対する信頼を保護すること(=出所表示機能)でした。判決文にあるとおり,真正商品「が転々と譲渡される場合には,商標の機能である出所表示機能及び品質保証機能は害されず,商標権者の業務上の信用及び需要者の利益が損なわれることはない」ので,「このような場合の真正商品の譲渡による登録商標の使用は実質的な違法性を欠」くことになります。これを,商標機能論,といったりします。

 これを民事の判決で明示したのが,並行輸入品に関するフレッドペリー事件判決でした。

⇒フレッドペリー事件・最高裁平成15年2月27日判決・民集57巻2号125頁

 本判決は,この商標機能論を刑事事件において,プログラムの改変について判示したものです。

⇒Wii事件・名古屋地裁平成25年1月29日判決・裁判所Web

 

2 私電磁的記録不正作出・同供用の幇助罪

 なお,本判決は,被告人から脱獄iPhoneを買った人が「私電磁的記録不正作出・同供用」罪に当たることを前提に,その方法を教示した行為等が,これらの罪の「幇助」罪に当たることも判示しています。

 この点は,民事において,改造メモリーカード販売した行為が著作者人格権侵害(の幇助)にあたるとしたときめきメモリアル事件から,知財の領域ではよくいわれる議論ですね。

ときめきメモリアル事件・最高裁平成13年2月13日判決

Winny事件・最高裁平成23年12月19日判決

 また,改造したソフトを販売していたという点で,クラック版ソフト事件(著作権侵害)と併せて近時の違法ソフト対策に有意な事件といえます。

クラック版ソフト事件・東京地裁平成30年1月30日判決