2019年6月

ファイナンスにおける暗号資産(仮想通貨),ブロックチェーンの現在

1 はじめに

 「仮想通貨」と呼ばれていたものが,資金決済法の改正により「暗号資産」に変わります。これ自体は呼び方が変わっただけで,中身が変わるわけではありません。

 (一昔前に「脱法ハーブ」と呼ばれていたものが「危険ドラッグ」に変わっても,その葉っぱの成分は変わりませんよね。)

 しかし,金融商品取引法(以下は単に金商法といいます)の改正と併せて,だいぶこの辺りの業規制が整理されてきたので,特に企業の資金調達との関係で一度まとめておきます。

(以下では,改正後の「暗号資産」という言葉メインに使います)

 

2 ブロックチェーンの過去と未来

 さて,「暗号資産(仮想通貨)」「ブロックチェーン」といえば,多くの方がビットコインをイメージするのではないでしょうか。「暗号資産(仮想通貨)」の代表格であるビットコインはいろいろと話題になりましたね。

 でも,ビットコインを支えるブロックチェーンという技術は,「暗号資産(仮想通貨)」に限らず,様々な用途で実用可能性を秘めたすごい技術,といわれています(インターネットに匹敵する革新的な技術,といわれます。)。

(ちなみに「ブロックチェーン」の基幹にはWinnyで利用されたP2Pという技術があります)

Winny事件・最高裁平成23年12月19日判決

 私が弁護士として大変関心があるのが,「スマートコントラクト」と呼ばれる応用例です。(ざっくり言いますと…)ある契約にブロックチェーンを関連させておいて,ブロックチェーンはプログラムですから,特定の条件が成就するとプログラムに従ってそれ(金銭の移動やペナルティ,執行)が実現する,という話です。

 弁護士は,本当にその契約が契約書通りに実現するのかどうか,いつもハラハラしています。しかし,「スマートコントラクト」によれば,例えば契約の相手方が契約に違反した一定の場合,ペナルティとしてビットコインを自動的にもらえる,契約を強制的に実現する,というような使い方ができそうです。

 企業の資金調達にも応用されています。企業がブロックチェーンを使ってトークンと呼ばれるものを発行して投資家に(電子的に)渡し,投資家は代わりに金銭(暗号資産)を支払う,という構造です。

 

3 ICOの規制→資金決済法

(1)ICOとは

 そのような資金調達の1つに,ICO(イニシャル・コイン・オファリング)と呼ばれるものがあります。

 企業は投資家に対して,物やサービスを利用できる権利等と関連付けたユーティリティトークンと呼ばれるものを発行します。これに対して投資家が金銭(暗号資産)を支払うという構図です。

 企業が独自に暗号資産(仮想通貨)を発行する,というイメージです。企業は株式(=企業の支配権)を発行するのではないので,株式発行に比べて会社の支配権を渡さなくていい,というメリットがあります。投資家としても,発行されたトークン(独自の暗号資産)を売買することができます。

 この方法によって,海外ではものすごい額の資金調達に成功した企業がある,というような話がありました。

(2)ICOの法規制

 そんなICOですが,基本的には資金決済法における「暗号資産交換業」(同法2条6項)にあたりますので,金融庁の登録を受ける必要があります。けっこうハードルが高いようです。

 

4 STOの規制→改正金商法

(1)STOとは

 もう1つ,最近話題なのがSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)と呼ばれる資金調達です。(ここでいう「セキュリティ」は,日本語でいうところの「証券」「株券」のことです。機密性ではありません。

 企業は投資家に対して,自社の株式に相当するセキュリティ・トークンというものを発行し,投資家から資金を調達します。株式ですから,投資家は売買できます。

 STOは自社の株式をブロックチェーンで発行する,というイメージです。普通の株式発行と何がちがうかというと,企業は東証とは別の株式市場に上場できる,ということです。

(2)STOの法規制

 そんなSTOですが,基本的には改正後の金消法の規制対象です。株式の代替であるセキュリティトークンは,基本的には改正後金商法が定義する「電子記録移転権利」(同法改正法案2条3項柱書)にあたり,これは株式と同様金商法に捕捉されます。

 特筆すべきは,自社が投資家に対してSTOをする場合(つまり自社で投資家を勧誘して自社株を発行するのと同じ場合)であっても,原則として第二種金融商品取引業として金融庁の登録を受けなければならない,という点です。(なぜなら,改正後の自己募集の定義規定に含まれないからです。)

 

5 雑感

 規制が厳しく,ビジネスが遅くなってつまらない国だなー,と思う反面,規制の交通整理がなされて投資家の保護には厚くなりました。個人的には,自社で勧誘して,株式の代わりにトークンを発行するSTOくらい,自由にしてもいいじゃないかと思うのですが,このあたりは解釈論で頑張って潜り抜けるか,法改正を待つしかなさそうです。

(ちなみに,金商法の「業として」規制には,対公衆性という要件が必要と解されていて,リスキーですがここの解釈論で戦う余地がないではないのかなと・・・)。

 新しい技術です。以上のように法規制が厳しくなっているところですから,新しいビジネスを始めるにあたり,必ず詳しい弁護士のアドバイスを受けるようにしてくださいね。

物のパブリシティ権否定ーギャロップレーサー事件・最高裁平成16年2月13日判決

最高裁平成16年2月13日判決・民集58巻2号311頁

【事案の概要】
 本件は,本件各競走馬を所有し,又は所有していたXらが,本件各競走馬の名称等が有する顧客吸引力などの経済的価値を独占的に支配する財産的権利(いわゆる物のパブリシティ権)を有することを理由として,Yに対し,YがXらの承諾を得ないで本件各ゲームソフトに本件各競走馬の名称等を使用したことにより上記財産的権利を侵害したと主張して,本件各ゲームソフトの製作,販売,貸渡し等の差止め及び不法行為による損害賠償を請求する事案である。

【判 旨】
「…競走馬の名称等が有する顧客吸引力などの競走馬の無体物としての面における経済的価値を利用したとしても,その利用行為は,競走馬の所有権を侵害するものではないと解すべきである(最高裁昭和…59年1月20日第二小法廷判決・民集38巻1号1頁参照)。本件においては,前記事実関係によれば,Yは,本件各ゲームソフトを製作,販売したにとどまり,本件各競走馬の有体物としての面に対するXらの所有権に基づく排他的支配権能を侵したものではないことは明らかであるから,Yの上記製作,販売行為は,Xらの本件各競走馬に対する所有権を侵害するものではないというべきである。」
「現行法上,物の名称の使用など,物の無体物としての面の利用に関しては,商標法,著作権法,不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を付与し,その権利の保護を図っているが,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権の及ぶ範囲,限界を明確にしている。
 上記各法律の趣旨,目的にかんがみると,競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても,物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき,法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく,また,競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為に成否については,違法とされる行為の範囲,態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において,これを肯定することはできないものというべきである。したがって,本件において,差止め又は不法行為の成立を肯定することはできない。」
「なお,原判決が説示するような競走馬の名称等の使用料の支払を内容とする契約が締結された実例があるとしても,それらの契約締結は,紛争をあらかじめ回避して円滑に事業を遂行するためなど,様々な目的で行われることがあり得るのであり,上記のような契約締結の実例があることを理由として,競走馬の所有者が競走馬の名称等が有する経済的価値を独占的に利用することができることを承認する社会的慣習又は慣習法が存在するとまでいうことはできない。」

【コメント】

 動物という「物」には,いわゆるパブリシティ権が認められないことを判示した有名な判決です。その意味で,仏像という物の情報について宗教的人格権を認定した徳島地裁判決(の代理人)はセンスがいいなと思います。

秘仏写真事件・徳島地裁平成30年6月20日判決

 憲法的にいっても,本判決は納得のいくものです。パブリシティ権は対象物の経済的価値を把握する権利です。憲法の世界では純然たる財産権です。

 「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める」(憲法29条2項)わけですから,「商標法,著作権法,不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律」がない場面で,財産権を裁判所が勝手に創設するわけにはいかないのです。

⇒ピンクレディー事件・最高裁平成24年2月2日判決

宗教的人格権の侵害ー秘仏写真事件・徳島地裁平成30年6月20日判決

徳島地裁平成30年6月20日判決・判時2399号
【事案の概要】
 原告は,四国にある88か所の寺院の霊場会(以下X1といいます。),及び2つの寺院である(以下,X2,X3といいます。)。被告Yは写真家である。
 各札所の本尊は信仰の対象であり,秘仏として一般には非公開のものが多く,開扉の機会が限られ,容易には拝観することができないものも相当数ある。X2及びX3の本尊も秘仏とされており,X3の本尊は60年に1回しか開帳されていない。平成12年12月ころ,NHKがYの番組を制作するにあたり,X1は取材に協力することを決定した。かかる番組制作の過程で,YはX2,X3の本尊を撮影した(以下,本件写真といいます。)。
 その後,Yは本件写真を,X2,X3に無断で,自己の写真展等で公開し,本件写真を収録した書籍等を出版した。なお,YはX1に対して著作権侵害を理由に1億7600万円の損害賠償を求めるも,これを棄却する判決が確定している。
 XらはYに対し,契約違反,宗教的人格権侵害の不法行為,不正競争防止法違反等を理由に,損害賠償の他,本件写真のネガフィルム・電子データ及びこれらを用いた御影・書籍・商品の廃棄を求めて出訴した。これらの廃棄を含め,一部認容。

【判 旨】
「本件写真2は広く頒布されることまでを想定して撮影が許可されたものではなく,また,本件写真67はX3に無断で撮影されたものであり,いずれも一般に公開されたり,広く一般に流布されたりすることを認めていたわけではない。そして,Xら寺院は,いずれも本尊を秘仏とし,X2については定期点検を行う調査員以外の第三者に公開せず,また,X3ついても60年に1回公開するのみであり…,このような原告ら寺院における信仰の対象としての本尊の重要性に鑑みれば,Xら寺院の意図に反して,Yが本件写真2及び本件写真67を使用し,これを一般に公開したり,広く一般に流布したりすることは,X2及びX3の宗教上の人格権を侵害する不法行為に該当するものといえる。」なお,不正競争防止法違反は否定。

【コメント】

(1)肖像権等との関係

 物に対する所有だけでなく,その写真の流通といった情報を管理することは,広い意味で知的財産権の問題といえます。

 写真を捕捉するのは,人の写真であれば肖像権やプライバシーの問題です。芸能人の写真の経済的価値に関しては,パブリシティ権と呼ばれる問題です。

法廷画事件・最高裁平成17年11月10日判決

⇒ピンクレディー事件・最高裁平成24年2月2日判決

 しかし,物に肖像権もパブリシティ権もありません。

ギャロップレーサー事件・最高裁平成16年2月13日判決

 本件で問題となった仏像にも,肖像権はありません。そこで本判決が認定しているのが宗教的人格権というものです。

(2)宗教的人格権

 信教の自由は,憲法で保障される重要な権利です。本判決は,お寺が秘仏として一般に公開していない本尊を,お寺が許諾した範囲を超えて使用することは,宗教的人格権に違反するとしました。損害賠償のみではなく,ネガ・データ及び商品の廃棄を命ずる強烈な判決です。
 さて,最近宇治の平等院が,平等院のジグソーパズルを販売している会社を提訴したというニュースがありました。文化財としての価値を毀損したという理由のようですが,本件のいう宗教的人格権とは違います。平等院は営利目的での写真撮影を禁じているようですが,平等院自体は公開しています。裁判所の判断が注目されます。

 なお,宗教的人格権といえば,エホバの証人の輸血拒否事件が有名です。

⇒エホバの証人輸血拒否事件・最高裁平成12年2月19日判決

アダルト動画サイト事件・大阪高裁平成30年9月11日判決

大阪高裁平成30年9月11日判決・裁判所Web

【事案の概要】
Aは,米国にサーバーを設置してアダルトサイト「D動画」を運営する者である。同サイトにわいせつ動画をアップロードした者が逮捕され,Aも共謀共同正犯として起訴された。一審はAを有罪としたため,Aが控訴。控訴棄却。

【判 旨】
「被告人らは,本件以前から,アメリカ合衆国の法律では問題がないことからDで投稿を許可してきた無修正のアダルト動画について,複数の弁護士から,日本国内では刑事上違法と評価される可能性があると指摘されていたにもかかわらず,…無修正わいせつ動画の配信を許容する方針を変更することなく,徹底していたといえる。
 …被告人らは,D動画アダルトやDライブアダルトにおいて相当数の無修正わいせつ動画が配信されることを認識した上で,D社やサーバが米国にあるとの理由から無修正わいせつ動画の投稿・配信を許容し,それらを利用してサイト利用者や有料会員を維持・増加させようとして,D動画アダルトやDライブアダルトを管理・運営していた。」
「所論指摘の前記Winny事件最高裁決定は,開発途上のファイル共有ソフト(Winny)をインターネットを通じて不特定多数の者に対して無償で公開,提供し,利用者の意見を聴取しながら当該ソフトの開発を進めていた被告人が,同ソフトを入手した正犯者がこれを利用して行った著作権法違反の幇助罪に問われたという事案において,同ソフトの提供行為に幇助犯が成立するための要件の一環として,…一般論を示した上で,ネットワーク上に認められた同ソフトを利用しての著作権侵害のファイル数の割合も参考にしつつ,事案に即した具体的判断を示したものにとどまる。当該被告人は,ソフトの公開,提供に当たって,当該ソフトがどのように利用されるかについて関知できる立場にあったわけではないし,利用者に対し,著作権侵害のためにソフトを利用することがないよう警告を発していたなどという事情があるのに対し,被告人ら…においては,現にその管理・運営するウェブサイトに多数の無修正わいせつ動画が投稿・配信されていることを認識し,しかも,管理者としてこれを制限することができるにもかかわらず,その投稿・配信を許容し,これを利用して利益を上げる目的で管理・運営していたのであるから,本件は,Winny事件とは事案が異なり,投稿等の全体のうちで違法なものが例外的とはいえない範囲を占めていたかどうかといった,同事件におけるのと同様の事情を特に問題とするまでもなく,被告人ら及びEの故意を認定することができるというべきである。」

【コメント】
 わいせつな動画を共有するサイトを積極的に管理し,収益を得ていると,たとえサーバーが米国にあったとしても,わが国で罪に問われます。

 弁護人がWinny事件を引用して控訴した点は,個人的にはセンスがいいなと思いました。Winny事件では,管理者が違法な用途に使わないように警告を発していた,収益を得ていなかった(無償)等の事情がありました。しかし,収益を得る目的で,積極的にわいせつ動画のサイトを管理していた本件では,事案が異なるということです。

 Winny事件の1つの読み方を判示した裁判例としても,興味深く,ご紹介する次第です。

Winny事件・最高裁平成23年12月19日判決