2018年12月

推論する記事による事実摘示ーロス疑惑朝日新聞事件・最高裁平成10年1月30日判決

推論する記事による事実摘示ーロス疑惑朝日新聞事件・最高裁平成10年1月30日判決・集民187号1頁

(1)判旨

「新聞記事中の名誉毀損の成否が問題となっている部分において表現に推論の形式が採られている場合であっても、当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準に、当該部分の前後の文脈や記事の公表当時に右読者が有していた知識ないし経験等も考慮すると、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を右推論の結果として主張するものと理解されるときには、同部分は、事実を摘示するものと見るのが相当である。本件記事は、上告人が前記殺人被告事件を犯したとしてその動機を推論するものであるが、右推論の結果として本件記事に記載されているところは、犯罪事実そのものと共に、証拠等をもってその存否を決することができるものであり、右は、事実の摘示に当たるというべきである」

(2)コメント

インターネット上の名誉毀損について考えるとき,その投稿が事実を言っているのか,意見や感想にすぎないのか,区別する必要がありました。

事実と意見の区別ーロス疑惑夕刊フジ事件・最高裁平成9年9月9日判決

中には,「こいつが犯人ではないか?」等,推論するような投稿記事があります。これは事実でしょうか,意見でしょうか。

そういうときに使うのが本判例です。

名誉毀損事件ではやはり一般読者の基準,というのが大事ですね。

名誉毀損判断におけるインターネット上の掲示板の読み方 東京地裁平成20年10月27日判決

 

法的見解の表示にについて

法的見解の表明・新・ゴーマニズム宣言事件ー最高裁平成16年7月15日判決

事実と意見の区別ーロス疑惑夕刊フジ事件・最高裁平成9年9月9日判決

事実と意見の区別ーロス疑惑夕刊フジ事件・最高裁平成9年9月9日判決・民集51巻8号3804頁

(1)判旨

「右のように、事実を摘示しての名誉毀損と意見ないし論評による名誉毀損とでは、不法行為責任の成否に関する要件が異なるため、問題とされている表現が、事実を摘示するものであるか、意見ないし論評の表明であるかを区別することが必要となる。ところで、ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきであり(最高裁昭和二九年(オ)第六三四号同三一年七月二〇日第二小法廷判決・民集一〇巻八号一〇五九頁参照)、そのことは、前記区別に当たっても妥当するものというべきである。すなわち、新聞記事中の名誉毀損の成否が問題となっている部分について、そこに用いられている語のみを通常の意味に従って理解した場合には、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張しているものと直ちに解せないときにも、当該部分の前後の文脈や、記事の公表当時に一般の読者が有していた知識ないし経験等を考慮し、右部分が、修辞上の誇張ないし強調を行うか、比喩的表現方法を用いるか、又は第三者からの伝聞内容の紹介や推論の形式を採用するなどによりつつ、間接的ないしえん曲に前記事項を主張するものと理解されるならば、同部分は、事実を摘示するものと見るのが相当である。また、右のような間接的な言及は欠けるにせよ、当該部分の前後の文脈等の事情を総合的に考慮すると、当該部分の叙述の前提として前記事項を黙示的に主張するものと理解されるならば、同部分は、やはり、事実を摘示するものと見るのが相当である。 」

(2)コメント

判旨中にあるように,名誉毀損を検討するとき,そこに書かれているのが事実なのか,単なる意見なのか,区別しなければなりません。

この判例自体は新聞記事について述べていますが,近時のインターネット上の名誉毀損にもそのまま当てはまります。

とりわけ,インターネット上の掲示板やSNSの投稿は,(新聞記事と違って)投稿それ自体はとても短い文章であることが多く,一見すると単に意見や感想を述べたに過ぎないように見えることも多いです。

また,プロバイダ責任制限法を使って投稿者の情報開示を求めていくとき,裁判所に「意見や感想にすぎない」と言われてしまうと,負けてしまいます。

そこで,この判例を使って,「たしかに一見すると意見に見えるけれど,前後の文脈やこの投稿の読者の知識や読み方からすると,黙示的に事実を摘示しているものだ!」という主張をしていくことになります。

ここでも一般読者の基準,というのが出てきますね。

名誉毀損判断におけるインターネット上の掲示板の読み方 東京地裁平成20年10月27日判決

推論する記事について

推論する記事による事実摘示ーロス疑惑朝日新聞事件・最高裁平成10年1月30日判決

法的見解の表示にについて

法的見解の表明・新・ゴーマニズム宣言事件ー最高裁平成16年7月15日判決

インターネット削除業者の非弁事件・東京地裁平成29年2月20日判決

東京地裁平成29年2月20日判決

(1)事案の概要

 Yは,インターネット上におけるネガティブな情報への対処を業とする株式会社である。XはYに対し,ウェブサイト上の複数の記事を削除する業務をYに依頼し,代金約50万円を支払った(本件契約)。

 しかし,XはYに対し,本件契約は弁護士法72条に違反(非弁行為)し,無効であるとして,代金約50万円の返還を求めて提訴した。請求一部認容。

(2)判決要旨

「本件契約は,Xが,Yに対し,…Xの名誉を毀損すると主張する本件各記事をウェブサイト上から削除するための業務を依頼するものである。そのため,ウェブサイト運営者側の表現の自由と対立しながら,これにより本件各記事が削除され,Xの人格権の侵害状態が除去されるという効果を発生させることになるのであるから,単純かつ画一的に行われるものとはいえず,新たな権利義務関係を発生させるものである。

 したがって,本件において,Yがウェブサイトの運営者に対して本件各記事の削除を求めることは,「法律事件」に該当する。」

「 弁護士法72条本文前段の…「その他の法律事務」とは,法律上の効果を発生,変更する事項の処理や,保全,明確化する事項の処理をいうと解されている。

 …そのため,当該フォームに入力して迷惑を被っている旨の情報を提供する行為は,Xの人格権に基づく削除請求権の行使により,ウェブサイトの運営者に対し,削除義務の発生という法律上の効果を発生させ,Xの人格権を保全,明確化する事項の処理といえる。

 したがって,本件各記事の削除のためにYが行った上記の業務は「その他の法律事務」に当たるといえ」る。

「以上によれば,本件契約は,弁護士法人でないYが,報酬を得る目的で,かつ,業として,Xの法律事件に関して法律事務を取り扱うことを内容とするものであり,全体として,弁護士法72条本文前段により禁止される行為を行うことを内容とする契約であるといえる。」

「本件契約は,全体として弁護士法72条本文前段により禁止される行為を行うことを内容とするものであるから,…民法90条に照らし無効となる…」

(3)解説と考察

 弁護士法72条は,弁護士でない者が,報酬を得る目的で,法律事務を扱うことを禁止しており,違反した場合には刑事罰も用意されています。弁護士でない者が法律事務を扱った場合,危ないからです。乱暴な言い方をすれば,医師でない者が医療行為をしてはいけないのと同様です。

 冒頭に述べた通り,近時,インターネット上の誹謗中傷が増えており,これに対応する法律事務(事件)のニーズが非常に高まっています。変な業者が相当数いますから,お気を付けください。