2018年9月

社会的評価の再度の低下ー否定例・東京高裁平成19年6月28日判決

東京高裁平成19年6月28日判決・判タ1279号273頁

【論点】

「もともと社会的評価が低い人は,さらに社会的評価が下がることはない。」

名誉毀損の裁判をやっていると,相手方からこのような反論を受けることがあります。

社会的評価の再度の低下ー肯定例・東京高裁平成5年判決

【判決要旨】

「法的な保護に値する名誉とは,人の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価であるということができるところ,本件記事は,日本赤軍の最高幹部である第1審原告が凶悪非道な若王子事件に実行犯ではないとしても関与したことを報道するものであり,仮に関与したと報道された者が市井の一市民であれば,その者の社会的評価を低下させ,これにより名誉を毀損するものということができる。しかしながら,以上認定の事実によれば,第1審原告は,国際テロ組織である日本赤軍の最高幹部であり,日本赤軍が組織的に敢行したテロ事件のうちドバイ事件及びダッカ事件に実行正犯として関与し,特にダッカ事件では主導的役割を果たし,これにより,無期懲役の刑を宣告され判決が確定して,服役中の者であり,市井の一市民と同等に考えることはできない。すなわち,第1審原告については,上記テロ事件への関与並びにこれについて無期懲役の刑を宣告した判決の存在及びその執行により,その社会的評価は既に低いといわざるを得ず,加えて,本件既報記事により,既に,若王子事件に何らかの形で関与した者であることが広く報道され,一般の読者からそのような印象を持たれている者であるから,本件既報記事から相当の年数を経て報道された本件記事及びこれを構成する①ないし④記事により,第1審原告の社会的評価が更に低下するとは認め難く,仮に低下するとしても法的保護に値するほどのものとは認められない。」

【コメント】

私見は,本判決は,複数のテロ事件に実行犯・主導的役割を果たした「市井の一市民と同等に考えることはできない」程の人に関する特殊な判決であり,あまり一般化できないと思います。

社会的評価の再度の低下ー肯定例・東京高裁平成5年判決

↑この記事で述べた通り,どのような人でも人として尊重されるべき一定の社会的評価を有しているというべきであるから、その人に向かって何を言ってもよいなどといえるはずはない。」「社会から受ける評価が低いとの点は、名誉毀損に対する賠償額の認定、判断に際して斟酌されるに止まるというべきである」(上記東京高裁平成5年判決)からです。

平成5年判決が述べる通り,対象人物の社会的評価が既に低いことは,損害論の話でしょう。

まとめブログによる名誉毀損事件

リツイート事件(名誉毀損)・東京地裁平成26年12月24日判決等

社会的評価の再度の低下ー肯定例・東京高裁平成5年9月29日判決

東京高裁平成5年9月29日判決・判時1501号109頁・判タ845号267頁

【論点】

「もともと社会的評価が低い人は,さらに社会的評価が下がることはない。」

名誉毀損の裁判をやっていると,相手方からこのような反論を受けることがあります。

社会的評価が低い人の評価は,再度低下するのでしょうか??

【判決要旨】

どのような人でも、極端な例を挙げれば、極悪非道な犯罪で有罪判決が確定している人でも、人として尊重されるべき一定の社会的評価を有しているというべきであるから、その人に向かって何を言ってもよいなどといえるはずはない。特定の人を対象にして、その人の態度や性格などに関する消極的な事実を重ねて指摘し、あるいは暗示して、多数の人々に流布させることは、たとえその人について既に芳しからぬ評判が立っている場合であっても、さらにその社会的評価を低下させることになることは明らかである。社会から受ける評価が低いとの点は、名誉毀損に対する賠償額の認定、判断に際して斟酌されるに止まるというべきである。」

【コメント】

本判決は,結論として名誉毀損を否定しているので,上記引用部分は傍論ではあるのですが,非常に的を得た判断であると考えます。

(同旨:佃克彦『名誉毀損の法律実務(第3版)』・弘文堂2017年,窪田充見『不法行為法ー民法を学ぶ(第2版)』・有斐閣2018年)

近年,このような反論がなされた判決として,大阪のまとめブログ事件があります。

まとめブログによる名誉毀損事件

なお,再度の社会的評価の低下を否定した(社会的評価が低いから,さらに下がることはない)判決も存在します。

が,特殊な事例判断と考えるべきで,

少なくとも損害賠償の前段階の裁判である,プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求訴訟においては妥当しない判決であると考えています。

否定例・東京高裁平成19年6月28日判決

リツイート事件(名誉毀損)・東京地裁平成26年12月24日判決等

神獄のヴァルハラゲート・文書提出命令事件・知財高裁平成28年8月8日判決

神獄のヴァルハラゲート・文書提出命令事件 知財高裁平成28年8月8日判決

【事案の概要】
控訴審において,XがY社に対して,コミュニケーションツールであるチャットワークのチャットログの文書提出命令を申し立てた。

【判決要旨】

民訴法220条4号ニのいわゆる自己専利用文書についての一般論として,最高裁平成11年11月12日決定・民集53巻8号1787頁を引用したうえで,次のように判示した。

「Y社が,本件ゲーム開発のためにコミュニケーションツールとして,導入したチャットワーク上でのやりとりが記載されたチャットログのうち,「企画」と名付けられた本件チャットグループに関するものであり,Y社代表者と社員及び本件ゲームの開発者は,本件チャットワーク上で意見交換及び指示連絡等をすることにより,本件ゲームの企画や内容等について協議をし,作業を進めて,本件ゲームを完成していったものである。そして,本件文書は,法令によってその作成が義務付けられたものでもなく,IDとパスワードにより管理されて外部からのアクセスが制限されていたものである。

したがって,本件文書は,専らY社内部の者(Y社代表者と社員及び本件ゲームの開発者)の利用に供する目的で作成され,それ以外の外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示されると,一般的には,Y社におけるゲーム開発の遂行が阻害され,また,Y社内部における自由な意見表明に支障を来しY社の自由な意思形成が阻害されるおそれがあるものとして,特段の事情のない限り,「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たると解すべきである。」

「そこで,本件文書について,前記の特段の事情があるかどうかについて検討すると,一件記録によれば,Xは,本件ゲームの開発者の一人であり,当時は,本件チャットグループに参加して,主要メンバーの一人として本件ゲームの企画や内容について自己の意見を述べ,指示連絡をし,また,他のメンバーの発言内容について自由にこれを閲覧し,本件ゲームを完成していったことが認められる。

上記認定事実によれば,本件文書に記載された内容は,本件チャットグループに参加していたX自身の発言内容であったり,Xには既に開示されていた他のメンバーの発言であり,X自身が参加していたチャットグループの記録である。そうすると,文書提出命令のXがその対象であるチャットグループの記録の利用関係において所持者であるY社と同一視することができる立場にあったことが認められる(最高裁平成12年12月14日決定・民集54巻9号2709頁参照)。

そして,本件においては,X及び同代理人弁護士は,Y社に対し,本件文書を本件訴訟の追行の目的のみに使用し,その他の目的には一切使用しないこと,本件文書の全部又は一部を第三者に開示,漏洩しないことを誓約する旨の誓約書(以下「本件誓約書」という。)を当裁判所に提出している。また,営業秘密記載文書については,その閲覧・謄写の制限の申立てがなされ,営業秘密等が記載された部分の閲覧等を請求することができる者を当事者に限るとの決定(民事訴訟法92条)がなされることが通常であることからすれば,本件文書の上記部分がX以外の外部の者に開示されるおそれはないということができる。

以上によれば,本件ゲーム開発の主要メンバーの一人であり,本件文書の内容を既に開示されていたXに対し,本件文書が開示されたとしても,これによりY社従業員のプライバシーが侵害されるおそれも,Y社の自由な意思形成が阻害されるおそれもなく,また,本件誓約書等により本件文書が本件訴訟の追行の目的のみに使用されるのであれば,本件文書の開示によってY社に看過し難い不利益が生ずるおそれはないと認められるから,本件文書につき,前記特段の事情があると認められる。」

【コメント】
文書提出命令事件,とりわけいわゆる自己専利用文書(民訴法220条4号ニ)については多数の判例が出ているところです。
本判決も引用している最高裁平成11年決定が一般論を示して以来,「特段の事情」の有無についていろいろなケースが問題になってきました。
本判決は,チャットワーク上のグループチャットについて,XがかつてY社の開発者の一員だったことや,誓約書の提出と記録の閲覧制限(民訴法92条)を踏まえて,「特段の事情」に該当する旨判断したものです。
判断手法含め,実務上参考になります。

神獄のヴァルハラゲート事件・東京地裁平成28年2月25日判決

神獄のヴァルハラゲート事件・東京地裁平成28年2月25日判決・判時2314号118頁

【事案の概要】

「本件は,「神獄のヴァルハラゲート」との名称のソーシャルアプリケーションゲーム(以下「本件ゲーム」という。)の開発に関与したXが,本件ゲームをインターネット上で配信するY社に対し,①主位的に,Xは本件ゲームの共同著作者の1人であって,同ゲームの著作権を共有するから,同ゲームから発生した収益の少なくとも6割に相当する金員の支払を受ける権利がある旨,②予備的に,仮にXが本件ゲームの共同著作者の1人でないとしても,原Y社間において報酬に関する合意があり,仮に同合意がないとしても,Xには商法512条に基づき報酬を受ける権利がある旨主張して,著作権に基づく収益金配分請求権(主位的請求)ないし報酬合意等による報酬請求権(予備的請求)に基づき,…Y社が本件ゲームにより得た利益の6割相当額とされる1億1294万1261円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。」
「 (3)  本件ゲーム開発の経緯
   ア Xは,平成24年7月までは,ソーシャルアプリケーション事業を業とする株式会社A(以下「A社」という。)に勤務しており,同じく同社に勤務していたB(現Y社代表者であり,以下「B」という。)をリーダーとするグループに所属し,携帯電話向けソーシャルアプリケーションゲームの開発を行っていた。
   イ Xは,当時,A社での待遇に不満を感じていたところ,Bも,近い将来,自身が同社を退職する可能性があることをXに伝えた。
   ウ Xは,同年7月末頃,A社を退職した。その後,Bを含むA社の従業員複数名が同社を退職し,Xとともに,本件ゲームの開発に関与するようになった。
   エ Bは,同年9月19日付けでY社を設立した。
 Xは,Y社の設立に当たって8万円を出資したほか,Y社に対し,500万円を貸し付けた。Xは,当初,Y社に雇用されないまま,本件ゲームの開発に関与していた。
   オ 本件ゲームは,同年12月中旬頃以降にほぼ完成し,ブラッシュアップ作業などを経て,平成25年1月25日,グリー株式会社がインターネット上で運営するソーシャルネットワーキングシステムにおいて,同社の会員向けに,Y社名義で配信された。
   (4)  Y社からXに支払われた金員
 Xは,前記のとおり,当初,Y社には雇用されないまま,本件ゲーム開発に関与し続け,同ゲームが完成した後である平成25年1月1日に,Y社の取締役に就任し,その後,同月から同年3月4日頃までY社の取締役として稼働し,その間,役員報酬として合計63万円を受領した…。」
 判決は,主位的請求を棄却した上で,予備的請求の一部(420万円)を認容した。

【判決要旨】

(1)職務著作
ア 「発意に基づく」要件
「…なお,Y社の設立日は平成24年9月19日であって,Xが本件ゲーム開発作業を始めた時期より後であるが,既に同年8月13日付けでY社の定款…が作成されており,Xも,当初から,後にY社が設立され,Y社において本件ゲーム開発が行われることを当然に認識していたものといえるから,Y社の形式的な設立時期にかかわらず,実質的には,Y社の発意に基づいて本件ゲーム開発が行われたといえるものであって,Y社の形式的な設立時期は上記結論に影響を及ぼすものではない。」
イ 職務上作成要件
「そこで検討するに,Xは,本件ゲーム開発期間中はY社に雇用されておらず,Y社の取締役の地位にもなかったが,Y社においてタイムカードで勤怠管理をされ,Y社のオフィス内でY社の備品を用い,Bの指示に基本的に従って本件ゲーム開発を行い,労務を提供するという実態にあったものである。
 ところで,Xは,平成25年1月1日にY社の取締役に就任した上で,同年3月上旬までの間,Y社から取締役としての報酬を合計63万円受領したが,これは,本件ゲームがほぼ完成した後のことであって,Xが本件ゲーム開発作業に従事していた時点(平成24年8月ないし9月頃から同年12月までの間)においては,Y社から報酬を受領していなかったものである。
 しかし,後記3(1)のとおり,XY社間において,本件ゲーム開発に関しては当然に報酬の合意があったとみるべきであることに加え,本件ゲーム開発の当初から,XがY社の取締役等に就任することが予定されており,その取締役としての報酬も本件ゲーム開発に係る報酬の後払い的な性質を含む(もっとも,後記3(1)のとおり,取締役としての報酬分は後記報酬合意の対象ではない。)と認められることをも併せ考慮すれば,XはY社の指揮監督下において労務を提供したという実態にあり,Y社がXに対して既に支払った金銭及び今後支払うべき金銭が労務提供の対価であると評価できるので,上記②の要件を充たすものといえる。」

(2)映画の著作物に関する著作権法29条1項
「なお,Xは,本件ゲームにおいて,そのほとんどが静止画で構成され,わずかに戦いやガチャなどのシーンで動画が用いられているにすぎないと主張する。
 しかし,前記1(10)のとおり,本件ゲームにおいては,動きのある画像が相当程度存在しており,そのほとんどが静止画であるとはいえない上,少なくとも本件ゲームにおいてユーザから人気が高い「聖戦」や,その他の戦闘のシーン等で動画が多数用いられていること,これらの戦闘シーンの本件ゲーム全体に占める重要性は大きいといえることからすれば,本件ゲームは,やはり映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる方法で表現されているといえ,Xの上記主張は採用できない。」

(3)予備的請求-報酬合意もしくは商法512条
「 ア Xは,Bが代表取締役を務めるY社の発意に基づき,Y社における本件ゲームの開発に参加することを表明し,最終的に本件ゲームに採用されたか否かは別として,多大な労力を費やし,多数の仕様書…やマスタ…を,基本的にはBの指示に従いながら,自ら又はBらと共同して作成し,本件ゲームの開発に貢献したものと認められる。そして,Xは,平成25年1月にY社の取締役に就任する以前は,Y社から,本件ゲーム開発に関する労務提供の対価を一切受領しないまま稼働していたものであるが,Xの上記のような作業量及び作業期間(平成24年8月頃から同年12月末頃まで)からすれば,社会通念上,Xによる上記労務提供が無償で行われたなどとは到底認められず,原Y社間において,Xが本件ゲーム開発に従事することの対価に関する黙示の合意があったものと認めるのが合理的である。
   イ ところで,Xは,BのXに対する「本件ゲームが収益を上げた場合には,Xの開発活動に報いる」旨の発言を根拠として,本件ゲームの収益の6割(Xが自ら主張する本件ゲーム開発への貢献度)相当額をXの報酬とする旨の合意があったと主張する。
 この点,BがXに対し,平成24年7月頃,上記の趣旨の発言をしたことは認められるが,Xの上記発言は極めて抽象的なものにすぎず,同発言を根拠に,Xが主張する合意内容を認定することはできず,このほか,上記合意の成立を認めるに足りる証拠はない。そもそも,XとBとの間において,本件ゲームの収益をXの貢献度に応じて分配するなどの具体的な話がされた事実は認められず,X本人もこのことを認める供述をしている。また,前記1認定事実からすれば,本件ゲームの開発には,Y社の従業員等の多数の者(14名程度)が関与しているところ,ゲーム開発者の1人であるXが,本件ゲームの収益の6割相当額を受領することの合理性も全く認められない。」

【コメント】

(1)本件の教訓

 本判決のコメントとして,まず声を大にしていうべきは,

「プログラマーの皆さん,ちゃんと契約してますか??」ということです。

 本件のX氏は,A社から一緒に独立するB氏(後のY社代表取締役)の「本件ゲームが収益を上げた場合には,Xの開発活動に報いる」発言を信じ,当初報酬も貰わず,労働者として雇用もされず,本件ゲームを開発したのかもしれません。

 しかし,契約書がない以上,裁判所が認定するのは合理的に認定される「黙示の合意」に基づく金額になりました。裁判所はそこまで高額な金額は認定しません。

 なお,本件では控訴審で文書提出命令をめぐって決定が出ており,その判断手法が参考になります。

神獄のヴァルハラゲート・文書提出命令事件参照

(2)職務著作

 職務著作に関して本件で特徴的なのは,まだ会社ができていない段階で「法人…の発意」を認定した点です。

 また,「XはY社の指揮監督下において労務を提供したという実態」を認定していますが,このあたりはXの認識との乖離が大きいと推測されます。

(3)映画の著作物

 パックマン事件依頼,ほとんどのゲームソフトは「映画の著作物」として扱われます。例外的に,静止画が圧倒的に多いゲームは「影像が動きをもってみえるという効果を生じさせる」といえないことから,除外されます。

 一応この点も争点になっています。しかし,ゲームの主要な場面である戦闘シーンが静止画ではないことから,映画の著作物に当たることが認定されています。

 この辺りは,「パックマンですら」という感覚ですね。

パックマン事件・東京地裁昭和59年9月28日判決