2018年

推論する記事による事実摘示ーロス疑惑朝日新聞事件・最高裁平成10年1月30日判決

推論する記事による事実摘示ーロス疑惑朝日新聞事件・最高裁平成10年1月30日判決・集民187号1頁

(1)判旨

「新聞記事中の名誉毀損の成否が問題となっている部分において表現に推論の形式が採られている場合であっても、当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準に、当該部分の前後の文脈や記事の公表当時に右読者が有していた知識ないし経験等も考慮すると、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を右推論の結果として主張するものと理解されるときには、同部分は、事実を摘示するものと見るのが相当である。本件記事は、上告人が前記殺人被告事件を犯したとしてその動機を推論するものであるが、右推論の結果として本件記事に記載されているところは、犯罪事実そのものと共に、証拠等をもってその存否を決することができるものであり、右は、事実の摘示に当たるというべきである」

(2)コメント

インターネット上の名誉毀損について考えるとき,その投稿が事実を言っているのか,意見や感想にすぎないのか,区別する必要がありました。

事実と意見の区別ーロス疑惑夕刊フジ事件・最高裁平成9年9月9日判決

中には,「こいつが犯人ではないか?」等,推論するような投稿記事があります。これは事実でしょうか,意見でしょうか。

そういうときに使うのが本判例です。

名誉毀損事件ではやはり一般読者の基準,というのが大事ですね。

名誉毀損判断におけるインターネット上の掲示板の読み方 東京地裁平成20年10月27日判決

 

法的見解の表示にについて

法的見解の表明・新・ゴーマニズム宣言事件ー最高裁平成16年7月15日判決

事実と意見の区別ーロス疑惑夕刊フジ事件・最高裁平成9年9月9日判決

事実と意見の区別ーロス疑惑夕刊フジ事件・最高裁平成9年9月9日判決・民集51巻8号3804頁

(1)判旨

「右のように、事実を摘示しての名誉毀損と意見ないし論評による名誉毀損とでは、不法行為責任の成否に関する要件が異なるため、問題とされている表現が、事実を摘示するものであるか、意見ないし論評の表明であるかを区別することが必要となる。ところで、ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきであり(最高裁昭和二九年(オ)第六三四号同三一年七月二〇日第二小法廷判決・民集一〇巻八号一〇五九頁参照)、そのことは、前記区別に当たっても妥当するものというべきである。すなわち、新聞記事中の名誉毀損の成否が問題となっている部分について、そこに用いられている語のみを通常の意味に従って理解した場合には、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張しているものと直ちに解せないときにも、当該部分の前後の文脈や、記事の公表当時に一般の読者が有していた知識ないし経験等を考慮し、右部分が、修辞上の誇張ないし強調を行うか、比喩的表現方法を用いるか、又は第三者からの伝聞内容の紹介や推論の形式を採用するなどによりつつ、間接的ないしえん曲に前記事項を主張するものと理解されるならば、同部分は、事実を摘示するものと見るのが相当である。また、右のような間接的な言及は欠けるにせよ、当該部分の前後の文脈等の事情を総合的に考慮すると、当該部分の叙述の前提として前記事項を黙示的に主張するものと理解されるならば、同部分は、やはり、事実を摘示するものと見るのが相当である。 」

(2)コメント

判旨中にあるように,名誉毀損を検討するとき,そこに書かれているのが事実なのか,単なる意見なのか,区別しなければなりません。

この判例自体は新聞記事について述べていますが,近時のインターネット上の名誉毀損にもそのまま当てはまります。

とりわけ,インターネット上の掲示板やSNSの投稿は,(新聞記事と違って)投稿それ自体はとても短い文章であることが多く,一見すると単に意見や感想を述べたに過ぎないように見えることも多いです。

また,プロバイダ責任制限法を使って投稿者の情報開示を求めていくとき,裁判所に「意見や感想にすぎない」と言われてしまうと,負けてしまいます。

そこで,この判例を使って,「たしかに一見すると意見に見えるけれど,前後の文脈やこの投稿の読者の知識や読み方からすると,黙示的に事実を摘示しているものだ!」という主張をしていくことになります。

ここでも一般読者の基準,というのが出てきますね。

名誉毀損判断におけるインターネット上の掲示板の読み方 東京地裁平成20年10月27日判決

推論する記事について

推論する記事による事実摘示ーロス疑惑朝日新聞事件・最高裁平成10年1月30日判決

法的見解の表示にについて

法的見解の表明・新・ゴーマニズム宣言事件ー最高裁平成16年7月15日判決

インターネット削除業者の非弁事件・東京地裁平成29年2月20日判決

東京地裁平成29年2月20日判決

(1)事案の概要

 Yは,インターネット上におけるネガティブな情報への対処を業とする株式会社である。XはYに対し,ウェブサイト上の複数の記事を削除する業務をYに依頼し,代金約50万円を支払った(本件契約)。

 しかし,XはYに対し,本件契約は弁護士法72条に違反(非弁行為)し,無効であるとして,代金約50万円の返還を求めて提訴した。請求一部認容。

(2)判決要旨

「本件契約は,Xが,Yに対し,…Xの名誉を毀損すると主張する本件各記事をウェブサイト上から削除するための業務を依頼するものである。そのため,ウェブサイト運営者側の表現の自由と対立しながら,これにより本件各記事が削除され,Xの人格権の侵害状態が除去されるという効果を発生させることになるのであるから,単純かつ画一的に行われるものとはいえず,新たな権利義務関係を発生させるものである。

 したがって,本件において,Yがウェブサイトの運営者に対して本件各記事の削除を求めることは,「法律事件」に該当する。」

「 弁護士法72条本文前段の…「その他の法律事務」とは,法律上の効果を発生,変更する事項の処理や,保全,明確化する事項の処理をいうと解されている。

 …そのため,当該フォームに入力して迷惑を被っている旨の情報を提供する行為は,Xの人格権に基づく削除請求権の行使により,ウェブサイトの運営者に対し,削除義務の発生という法律上の効果を発生させ,Xの人格権を保全,明確化する事項の処理といえる。

 したがって,本件各記事の削除のためにYが行った上記の業務は「その他の法律事務」に当たるといえ」る。

「以上によれば,本件契約は,弁護士法人でないYが,報酬を得る目的で,かつ,業として,Xの法律事件に関して法律事務を取り扱うことを内容とするものであり,全体として,弁護士法72条本文前段により禁止される行為を行うことを内容とする契約であるといえる。」

「本件契約は,全体として弁護士法72条本文前段により禁止される行為を行うことを内容とするものであるから,…民法90条に照らし無効となる…」

(3)解説と考察

 弁護士法72条は,弁護士でない者が,報酬を得る目的で,法律事務を扱うことを禁止しており,違反した場合には刑事罰も用意されています。弁護士でない者が法律事務を扱った場合,危ないからです。乱暴な言い方をすれば,医師でない者が医療行為をしてはいけないのと同様です。

 冒頭に述べた通り,近時,インターネット上の誹謗中傷が増えており,これに対応する法律事務(事件)のニーズが非常に高まっています。変な業者が相当数いますから,お気を付けください。

マリカー事件・東京地裁平成30年9月27日判決

東京地裁平成30年9月27日判決

(1)事案の概要

 任天堂株式会社(以下「X社」といいます。)は,「平成4年8月27日,ゲーム機種スーパーファミコン用のゲームソフトとして「スーパーマリオカート」を発売し,平成26年5月29日までの間に,合計8本の「マリオカート」シリーズのゲームソフトを販売した。」Y社[1]は,「設立時である平成27年6月4日から,少なくとも平成28年6月23日まで間,MariCAR」との屋号を用いて,公道を走行することが可能なカート…のレンタルとそれに付随する事業…を営んでいた。」Y社はレンタル事業に関するチラシに「『マリカーは,普通免許で運転できる一人乗りの公道カートのレンタル&ツアーサービスです。』」等と記載した。また,「『マリオ』,『ルイージ』,『ヨッシー』,『クッパ』等のコスチュームを着用した従業員が公道カートに乗車して利用者を先導することより,ガイドを勤めていた」り,店舗内入り口付近に「身長120㎝ほどの『マリオ』の人形」が設置されたりした。

 X社はY社に対し,不正競争防止法及び著作権侵害に基づき,差止めと損害賠償を請求した。差止の一部と損害賠償の全額(1000万円)を認容。

(2)判決要旨

「『マリカー』は,①ゲームソフト『マリオカート』の略称として,遅くとも平成8年頃には,ゲーム雑誌において使用されていて…,②少なくとも平成22年頃には,ゲームとは関係性の薄い漫画作品においても何らの注釈を付することなく使用されることがあったこと…,③Y社が設立される前日である平成27年6月3日には,その一日をとってみても,『マリオカート』を『マリカー』との略称で表現するツイートが600以上投稿されたこと…が認められる。また,Y社の設立後においても,テレビ番組においてタレントが,子供の頃から原告のゲームシリーズである『マリオカート』の略称として『マリカー』を使用していたと発言し…,本件訴訟提起に係る報道が出された後には,複数の一般人から,Y社の社名である『マリカー』が原告のゲームシリーズ『マリオカート』を意味するにもかかわらず,Y社が原告から許可を得ていなかったことに驚く内容の投稿がされた事実が認められる…。」

「これらの事実からすると,…マリカーは,広く知られていたゲームシリーズである『マリオカート』を意味する原告の商品等表示として,…遅くとも平成22年頃には,日本全国のゲームに関心を有する者の間で,広く知られていたということができる。」

Y社は,『マリカー』の標準文字からなる本件商標を有しており,『マリカー』という標章を使用する正当な権限を有するから,不競法3条1項に基づく差止請求は認められない旨主張する。しかしながら,Y社が本件商標の登録を出願したのは平成27年5月13日であるところ…その5年程度前である平成22年頃には,既に原告文字表示マリカーは原告の商品を識別するものとして需要者の間に広く知られていたということができる。…原告に対して,Y社が本件商標に係る権利を有すると主張することは権利の濫用として許されないというべきである。」

(3)解説と考察

判決文中にもあるように,「マリカー」はY社の商標として商標登録されており,任天堂は商標登録を阻止できませんでした[2]しかし,Y社が「マリカー」を使用してカートのレンタル事業を営む一定の行為は,不正競争防止法により阻止されました。その意味するところは,商標法と不正競争防止法とは法律の目的が絶妙に異なり,適用範囲も絶妙に違う,ということです。これが本判決の到達点です。

 フランク三浦の商標登録を阻止できなかったフランクミュラーは,不正競争防止法で「フランク三浦」の時計販売を差止められるかもしれません。

フランク三浦事件知財高裁判決・知財高裁平成28年4月12日判決

[1] 「平成27年6月4日の設立時から平成30年3月21日まで,「株式会社マリカー」との商号を用いていたが,同月22日付けで,その商号を「株式会社MARIモビリティ開発」に変更した」

[2] 特許庁・異議2016-900309

ポイント解説!「AI・データ利用に関する契約ガイドライン」

1 はじめにーこのガイドラインを読んでおくべき人

 先日,経済産業省が「AI・データ利用に関する契約ガイドライン」を発表しました。後記のように,「データ編」と「AI編」からなる大作のガイドラインなのですが,

 まずはじめに申し上げたいことは,次の項目に心当たりのある方は,本ガイドラインを是非チェックしておいていただきたい,ということです。

 ご入用であればセミナーを実施いたしますので,お気軽にお問合せください。

IT企業の経営者,法務担当者,技術者の方→「データ編」「AI編」の両方

IT企業にシステム開発等を依頼する方→「データ編」

・秘密保持契約のひな型を探している方→「AI編」の秘密保持契約の箇所

 

2 全体の構成と特徴

 本ガイドラインは,「データ編」と「AI編」の2部構成からなり,それぞれに契約書のひな型がついてます。

 「データ編」では,データの取引を伴う契約を①データ提供型,②データ創出型,③データ共用型の3類型に分け,理解に必要な知識と契約書の文例を紹介しています。

 「AI編」ではAI理解のための基本的な知識を解説した上で,AIを用いた開発の序盤~終盤まで,開発の各段階に応じた契約書を提唱しています。

 実務的に非常に使えるところとしては,「データ編」,「AI編」ともに契約書のひな型を提示してくれている点です。当たり前ですが,非常にできのいいものになっております。

 公正取引委員会のチェックも受けているようで,このひな型にそったかたちで契約をすれば,独占禁止法上の問題も回避できるという優れものです。

 

3 蛇足ーこのガイドラインの来歴と雑感

 巷では「第四次産業革命」と呼ばれる,IT業界を中心とした,AIをはじめとする技術革新が起こっています。日経新聞を読んでいても,「AI」の文字を見ない日はないくらいですね。

 政府も対応を急いでおり,昨年は内閣府の中にある「新たな情報財検討委員会」が報告書を出しました。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2017/johozai/houkokusho.pdf

 この報告書の中に,不正競争防止法の改正とともに,AI関係のガイドラインを出す,ということが盛り込まれています。

 この報告を受けて,今年出されたのが本ガイドラインです。IT系の弁護士としては,「待ってました!」という感じです。

 ざっと読んでみて,技術革新の起きているこの分野で法律相談を受けるには,

・知的財産法

・プライバシー,個人情報

のみならず,

・独占禁止法

・ITの知識

等,いろいろと複合的な知識が必要になってくるな,と痛感しています。

この機会をあらたなチャンスととらえて,私も精進してく次第です。

社会的評価の再度の低下ー否定例・東京高裁平成19年6月28日判決

東京高裁平成19年6月28日判決・判タ1279号273頁

【論点】

「もともと社会的評価が低い人は,さらに社会的評価が下がることはない。」

名誉毀損の裁判をやっていると,相手方からこのような反論を受けることがあります。

社会的評価の再度の低下ー肯定例・東京高裁平成5年判決

【判決要旨】

「法的な保護に値する名誉とは,人の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価であるということができるところ,本件記事は,日本赤軍の最高幹部である第1審原告が凶悪非道な若王子事件に実行犯ではないとしても関与したことを報道するものであり,仮に関与したと報道された者が市井の一市民であれば,その者の社会的評価を低下させ,これにより名誉を毀損するものということができる。しかしながら,以上認定の事実によれば,第1審原告は,国際テロ組織である日本赤軍の最高幹部であり,日本赤軍が組織的に敢行したテロ事件のうちドバイ事件及びダッカ事件に実行正犯として関与し,特にダッカ事件では主導的役割を果たし,これにより,無期懲役の刑を宣告され判決が確定して,服役中の者であり,市井の一市民と同等に考えることはできない。すなわち,第1審原告については,上記テロ事件への関与並びにこれについて無期懲役の刑を宣告した判決の存在及びその執行により,その社会的評価は既に低いといわざるを得ず,加えて,本件既報記事により,既に,若王子事件に何らかの形で関与した者であることが広く報道され,一般の読者からそのような印象を持たれている者であるから,本件既報記事から相当の年数を経て報道された本件記事及びこれを構成する①ないし④記事により,第1審原告の社会的評価が更に低下するとは認め難く,仮に低下するとしても法的保護に値するほどのものとは認められない。」

【コメント】

私見は,本判決は,複数のテロ事件に実行犯・主導的役割を果たした「市井の一市民と同等に考えることはできない」程の人に関する特殊な判決であり,あまり一般化できないと思います。

社会的評価の再度の低下ー肯定例・東京高裁平成5年判決

↑この記事で述べた通り,どのような人でも人として尊重されるべき一定の社会的評価を有しているというべきであるから、その人に向かって何を言ってもよいなどといえるはずはない。」「社会から受ける評価が低いとの点は、名誉毀損に対する賠償額の認定、判断に際して斟酌されるに止まるというべきである」(上記東京高裁平成5年判決)からです。

平成5年判決が述べる通り,対象人物の社会的評価が既に低いことは,損害論の話でしょう。

まとめブログによる名誉毀損事件

リツイート事件(名誉毀損)・東京地裁平成26年12月24日判決等

社会的評価の再度の低下ー肯定例・東京高裁平成5年9月29日判決

東京高裁平成5年9月29日判決・判時1501号109頁・判タ845号267頁

【論点】

「もともと社会的評価が低い人は,さらに社会的評価が下がることはない。」

名誉毀損の裁判をやっていると,相手方からこのような反論を受けることがあります。

社会的評価が低い人の評価は,再度低下するのでしょうか??

【判決要旨】

どのような人でも、極端な例を挙げれば、極悪非道な犯罪で有罪判決が確定している人でも、人として尊重されるべき一定の社会的評価を有しているというべきであるから、その人に向かって何を言ってもよいなどといえるはずはない。特定の人を対象にして、その人の態度や性格などに関する消極的な事実を重ねて指摘し、あるいは暗示して、多数の人々に流布させることは、たとえその人について既に芳しからぬ評判が立っている場合であっても、さらにその社会的評価を低下させることになることは明らかである。社会から受ける評価が低いとの点は、名誉毀損に対する賠償額の認定、判断に際して斟酌されるに止まるというべきである。」

【コメント】

本判決は,結論として名誉毀損を否定しているので,上記引用部分は傍論ではあるのですが,非常に的を得た判断であると考えます。

(同旨:佃克彦『名誉毀損の法律実務(第3版)』・弘文堂2017年,窪田充見『不法行為法ー民法を学ぶ(第2版)』・有斐閣2018年)

近年,このような反論がなされた判決として,大阪のまとめブログ事件があります。

まとめブログによる名誉毀損事件

なお,再度の社会的評価の低下を否定した(社会的評価が低いから,さらに下がることはない)判決も存在します。

が,特殊な事例判断と考えるべきで,

少なくとも損害賠償の前段階の裁判である,プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求訴訟においては妥当しない判決であると考えています。

否定例・東京高裁平成19年6月28日判決

リツイート事件(名誉毀損)・東京地裁平成26年12月24日判決等

神獄のヴァルハラゲート・文書提出命令事件・知財高裁平成28年8月8日判決

神獄のヴァルハラゲート・文書提出命令事件 知財高裁平成28年8月8日判決

【事案の概要】
控訴審において,XがY社に対して,コミュニケーションツールであるチャットワークのチャットログの文書提出命令を申し立てた。

【判決要旨】

民訴法220条4号ニのいわゆる自己専利用文書についての一般論として,最高裁平成11年11月12日決定・民集53巻8号1787頁を引用したうえで,次のように判示した。

「Y社が,本件ゲーム開発のためにコミュニケーションツールとして,導入したチャットワーク上でのやりとりが記載されたチャットログのうち,「企画」と名付けられた本件チャットグループに関するものであり,Y社代表者と社員及び本件ゲームの開発者は,本件チャットワーク上で意見交換及び指示連絡等をすることにより,本件ゲームの企画や内容等について協議をし,作業を進めて,本件ゲームを完成していったものである。そして,本件文書は,法令によってその作成が義務付けられたものでもなく,IDとパスワードにより管理されて外部からのアクセスが制限されていたものである。

したがって,本件文書は,専らY社内部の者(Y社代表者と社員及び本件ゲームの開発者)の利用に供する目的で作成され,それ以外の外部の者に開示することが予定されていない文書であって,開示されると,一般的には,Y社におけるゲーム開発の遂行が阻害され,また,Y社内部における自由な意見表明に支障を来しY社の自由な意思形成が阻害されるおそれがあるものとして,特段の事情のない限り,「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たると解すべきである。」

「そこで,本件文書について,前記の特段の事情があるかどうかについて検討すると,一件記録によれば,Xは,本件ゲームの開発者の一人であり,当時は,本件チャットグループに参加して,主要メンバーの一人として本件ゲームの企画や内容について自己の意見を述べ,指示連絡をし,また,他のメンバーの発言内容について自由にこれを閲覧し,本件ゲームを完成していったことが認められる。

上記認定事実によれば,本件文書に記載された内容は,本件チャットグループに参加していたX自身の発言内容であったり,Xには既に開示されていた他のメンバーの発言であり,X自身が参加していたチャットグループの記録である。そうすると,文書提出命令のXがその対象であるチャットグループの記録の利用関係において所持者であるY社と同一視することができる立場にあったことが認められる(最高裁平成12年12月14日決定・民集54巻9号2709頁参照)。

そして,本件においては,X及び同代理人弁護士は,Y社に対し,本件文書を本件訴訟の追行の目的のみに使用し,その他の目的には一切使用しないこと,本件文書の全部又は一部を第三者に開示,漏洩しないことを誓約する旨の誓約書(以下「本件誓約書」という。)を当裁判所に提出している。また,営業秘密記載文書については,その閲覧・謄写の制限の申立てがなされ,営業秘密等が記載された部分の閲覧等を請求することができる者を当事者に限るとの決定(民事訴訟法92条)がなされることが通常であることからすれば,本件文書の上記部分がX以外の外部の者に開示されるおそれはないということができる。

以上によれば,本件ゲーム開発の主要メンバーの一人であり,本件文書の内容を既に開示されていたXに対し,本件文書が開示されたとしても,これによりY社従業員のプライバシーが侵害されるおそれも,Y社の自由な意思形成が阻害されるおそれもなく,また,本件誓約書等により本件文書が本件訴訟の追行の目的のみに使用されるのであれば,本件文書の開示によってY社に看過し難い不利益が生ずるおそれはないと認められるから,本件文書につき,前記特段の事情があると認められる。」

【コメント】
文書提出命令事件,とりわけいわゆる自己専利用文書(民訴法220条4号ニ)については多数の判例が出ているところです。
本判決も引用している最高裁平成11年決定が一般論を示して以来,「特段の事情」の有無についていろいろなケースが問題になってきました。
本判決は,チャットワーク上のグループチャットについて,XがかつてY社の開発者の一員だったことや,誓約書の提出と記録の閲覧制限(民訴法92条)を踏まえて,「特段の事情」に該当する旨判断したものです。
判断手法含め,実務上参考になります。

神獄のヴァルハラゲート事件・東京地裁平成28年2月25日判決

神獄のヴァルハラゲート事件・東京地裁平成28年2月25日判決・判時2314号118頁

【事案の概要】

「本件は,「神獄のヴァルハラゲート」との名称のソーシャルアプリケーションゲーム(以下「本件ゲーム」という。)の開発に関与したXが,本件ゲームをインターネット上で配信するY社に対し,①主位的に,Xは本件ゲームの共同著作者の1人であって,同ゲームの著作権を共有するから,同ゲームから発生した収益の少なくとも6割に相当する金員の支払を受ける権利がある旨,②予備的に,仮にXが本件ゲームの共同著作者の1人でないとしても,原Y社間において報酬に関する合意があり,仮に同合意がないとしても,Xには商法512条に基づき報酬を受ける権利がある旨主張して,著作権に基づく収益金配分請求権(主位的請求)ないし報酬合意等による報酬請求権(予備的請求)に基づき,…Y社が本件ゲームにより得た利益の6割相当額とされる1億1294万1261円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。」
「 (3)  本件ゲーム開発の経緯
   ア Xは,平成24年7月までは,ソーシャルアプリケーション事業を業とする株式会社A(以下「A社」という。)に勤務しており,同じく同社に勤務していたB(現Y社代表者であり,以下「B」という。)をリーダーとするグループに所属し,携帯電話向けソーシャルアプリケーションゲームの開発を行っていた。
   イ Xは,当時,A社での待遇に不満を感じていたところ,Bも,近い将来,自身が同社を退職する可能性があることをXに伝えた。
   ウ Xは,同年7月末頃,A社を退職した。その後,Bを含むA社の従業員複数名が同社を退職し,Xとともに,本件ゲームの開発に関与するようになった。
   エ Bは,同年9月19日付けでY社を設立した。
 Xは,Y社の設立に当たって8万円を出資したほか,Y社に対し,500万円を貸し付けた。Xは,当初,Y社に雇用されないまま,本件ゲームの開発に関与していた。
   オ 本件ゲームは,同年12月中旬頃以降にほぼ完成し,ブラッシュアップ作業などを経て,平成25年1月25日,グリー株式会社がインターネット上で運営するソーシャルネットワーキングシステムにおいて,同社の会員向けに,Y社名義で配信された。
   (4)  Y社からXに支払われた金員
 Xは,前記のとおり,当初,Y社には雇用されないまま,本件ゲーム開発に関与し続け,同ゲームが完成した後である平成25年1月1日に,Y社の取締役に就任し,その後,同月から同年3月4日頃までY社の取締役として稼働し,その間,役員報酬として合計63万円を受領した…。」
 判決は,主位的請求を棄却した上で,予備的請求の一部(420万円)を認容した。

【判決要旨】

(1)職務著作
ア 「発意に基づく」要件
「…なお,Y社の設立日は平成24年9月19日であって,Xが本件ゲーム開発作業を始めた時期より後であるが,既に同年8月13日付けでY社の定款…が作成されており,Xも,当初から,後にY社が設立され,Y社において本件ゲーム開発が行われることを当然に認識していたものといえるから,Y社の形式的な設立時期にかかわらず,実質的には,Y社の発意に基づいて本件ゲーム開発が行われたといえるものであって,Y社の形式的な設立時期は上記結論に影響を及ぼすものではない。」
イ 職務上作成要件
「そこで検討するに,Xは,本件ゲーム開発期間中はY社に雇用されておらず,Y社の取締役の地位にもなかったが,Y社においてタイムカードで勤怠管理をされ,Y社のオフィス内でY社の備品を用い,Bの指示に基本的に従って本件ゲーム開発を行い,労務を提供するという実態にあったものである。
 ところで,Xは,平成25年1月1日にY社の取締役に就任した上で,同年3月上旬までの間,Y社から取締役としての報酬を合計63万円受領したが,これは,本件ゲームがほぼ完成した後のことであって,Xが本件ゲーム開発作業に従事していた時点(平成24年8月ないし9月頃から同年12月までの間)においては,Y社から報酬を受領していなかったものである。
 しかし,後記3(1)のとおり,XY社間において,本件ゲーム開発に関しては当然に報酬の合意があったとみるべきであることに加え,本件ゲーム開発の当初から,XがY社の取締役等に就任することが予定されており,その取締役としての報酬も本件ゲーム開発に係る報酬の後払い的な性質を含む(もっとも,後記3(1)のとおり,取締役としての報酬分は後記報酬合意の対象ではない。)と認められることをも併せ考慮すれば,XはY社の指揮監督下において労務を提供したという実態にあり,Y社がXに対して既に支払った金銭及び今後支払うべき金銭が労務提供の対価であると評価できるので,上記②の要件を充たすものといえる。」

(2)映画の著作物に関する著作権法29条1項
「なお,Xは,本件ゲームにおいて,そのほとんどが静止画で構成され,わずかに戦いやガチャなどのシーンで動画が用いられているにすぎないと主張する。
 しかし,前記1(10)のとおり,本件ゲームにおいては,動きのある画像が相当程度存在しており,そのほとんどが静止画であるとはいえない上,少なくとも本件ゲームにおいてユーザから人気が高い「聖戦」や,その他の戦闘のシーン等で動画が多数用いられていること,これらの戦闘シーンの本件ゲーム全体に占める重要性は大きいといえることからすれば,本件ゲームは,やはり映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる方法で表現されているといえ,Xの上記主張は採用できない。」

(3)予備的請求-報酬合意もしくは商法512条
「 ア Xは,Bが代表取締役を務めるY社の発意に基づき,Y社における本件ゲームの開発に参加することを表明し,最終的に本件ゲームに採用されたか否かは別として,多大な労力を費やし,多数の仕様書…やマスタ…を,基本的にはBの指示に従いながら,自ら又はBらと共同して作成し,本件ゲームの開発に貢献したものと認められる。そして,Xは,平成25年1月にY社の取締役に就任する以前は,Y社から,本件ゲーム開発に関する労務提供の対価を一切受領しないまま稼働していたものであるが,Xの上記のような作業量及び作業期間(平成24年8月頃から同年12月末頃まで)からすれば,社会通念上,Xによる上記労務提供が無償で行われたなどとは到底認められず,原Y社間において,Xが本件ゲーム開発に従事することの対価に関する黙示の合意があったものと認めるのが合理的である。
   イ ところで,Xは,BのXに対する「本件ゲームが収益を上げた場合には,Xの開発活動に報いる」旨の発言を根拠として,本件ゲームの収益の6割(Xが自ら主張する本件ゲーム開発への貢献度)相当額をXの報酬とする旨の合意があったと主張する。
 この点,BがXに対し,平成24年7月頃,上記の趣旨の発言をしたことは認められるが,Xの上記発言は極めて抽象的なものにすぎず,同発言を根拠に,Xが主張する合意内容を認定することはできず,このほか,上記合意の成立を認めるに足りる証拠はない。そもそも,XとBとの間において,本件ゲームの収益をXの貢献度に応じて分配するなどの具体的な話がされた事実は認められず,X本人もこのことを認める供述をしている。また,前記1認定事実からすれば,本件ゲームの開発には,Y社の従業員等の多数の者(14名程度)が関与しているところ,ゲーム開発者の1人であるXが,本件ゲームの収益の6割相当額を受領することの合理性も全く認められない。」

【コメント】

(1)本件の教訓

 本判決のコメントとして,まず声を大にしていうべきは,

「プログラマーの皆さん,ちゃんと契約してますか??」ということです。

 本件のX氏は,A社から一緒に独立するB氏(後のY社代表取締役)の「本件ゲームが収益を上げた場合には,Xの開発活動に報いる」発言を信じ,当初報酬も貰わず,労働者として雇用もされず,本件ゲームを開発したのかもしれません。

 しかし,契約書がない以上,裁判所が認定するのは合理的に認定される「黙示の合意」に基づく金額になりました。裁判所はそこまで高額な金額は認定しません。

 なお,本件では控訴審で文書提出命令をめぐって決定が出ており,その判断手法が参考になります。

神獄のヴァルハラゲート・文書提出命令事件参照

(2)職務著作

 職務著作に関して本件で特徴的なのは,まだ会社ができていない段階で「法人…の発意」を認定した点です。

 また,「XはY社の指揮監督下において労務を提供したという実態」を認定していますが,このあたりはXの認識との乖離が大きいと推測されます。

(3)映画の著作物

 パックマン事件依頼,ほとんどのゲームソフトは「映画の著作物」として扱われます。例外的に,静止画が圧倒的に多いゲームは「影像が動きをもってみえるという効果を生じさせる」といえないことから,除外されます。

 一応この点も争点になっています。しかし,ゲームの主要な場面である戦闘シーンが静止画ではないことから,映画の著作物に当たることが認定されています。

 この辺りは,「パックマンですら」という感覚ですね。

パックマン事件・東京地裁昭和59年9月28日判決

名誉毀損判断におけるインターネット上の掲示板の読み方 東京地裁平成20年10月27日判決

東京地裁平成20年10月27日判決

【事案の概要】

 Xは中野区議会の会派d党所属の区議会議員である。当氏名不詳者は電子掲示板に,Xが区議会議員でありながら性風俗店で買春をした,等の書き込みをした。Xは,プロバイダであるYに対し,氏名不詳者により自身の名誉を棄損されたと主張し,プロバイダ責任制限法に基づいて氏名不詳者の住所・氏名等の開示を求めて提訴した(認容)。

【判決要旨】

 「なるほど,中野区民でない一般の読者が本件掲示板を読んでも,「d党の大幹事長」であるとされる「C議員」が原告を指すことはにわかに判明しないということができるが,本件掲示板は,中野区政に関して前記目的で開設されている掲示板なのであるから,これを閲覧しようとする者は,中野区政に関して関心を有する者であると解され,原告が中野区議会議員のd党議員団の幹事長であることは,相当数の不特定者が知っている事実であることが明らかである。したがって,「C議員」が原告を指すことは,本件掲示板を閲覧する普通の読み手にとって容易に判明すると解されるのであって,「C議員」を国会議員と誤認するなどということは,「区議会d党の有名人C議員」と特定記載している本件1-①の記事の文脈から見て普通の読み方ということができず,Yの上記主張は採用することができない。」

「Yは,本件掲示板の一般の閲覧者は,普通,本件掲示板の記載を全部読むとは限らないとの趣旨を主張するものと解される。なるほど,例えば,雑誌の吊広告,新聞広告等であれば,あえて見ようと思わない者の目にも入り,目に入った以上,瞬時に一定の意味を理解はするから,雑誌の吊広告,新聞広告等の標題等を見た普通の理解力の者が,普通,どのように理解するかが問題となるのである。しかし,インターネット上の掲示板は,見ようと思わない者の目には入らない。これを見る者は,読もうと思って開くのである。したがって,読もうと思って掲示板を開いた普通の理解力の者が,普通の読み方をしたときに,どのような意味に理解されるかが問題となる。あえてインターネットの掲示板を見ようと思って,これを開く以上,文章の意味を理解しようとして読むのが普通であり,特定人を匿名表記して批判,非難する文章であることを理解しつつ,その文章をあえて読もうとする者は,普通,それが誰かを知ろうとして,前後の文章を拾い読みするのが普通であると解される。中野区政に関心をもつ不特定多数の者が閲覧する本件掲示板の性質に鑑みれば,「C議員」とは誰のことだろうかと関心を持った者が他の記事を拾い読みすることは容易に考えられるところであり,別紙3の本件掲示板の記載を通覧すると,普通の読者の注意と読み方をもってすれば,「C議員」が原告を指すことは容易に理解することができることが明らかである。そうすると,本件記事中の「C議員」が原告を指すことは特定されるといわざるを得ないのであり,Yの上記主張は採用することができない。」

【コメント】

 掲示板での投稿は,それだけみると一見して名誉毀損といえないことが多々あります。しかし,インターネット上の掲示板は,あえて見ようと思う人しか見ませんから,あえてその掲示板を見ようとする人の読み方を基準に解釈する,ということを明確にしました。さらに具体的に,当該掲示板が中野区生に関心を持つ人の掲示板であることを踏まえて判決しています。インターネット上の掲示板の性質や実態を踏まえた,メディアリテラシーに叶う判決だと考えます。